熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない。
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!
でも、なぜか漫画家になれない——。
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【5限目】 山下和美さんの新人時代に学ぶ、漫画家に大切なこと (前編)(2015/04/30)
現在「モーニング」&「週刊Dモーニング」にて連載中の『ランド』をはじめ、大人気シリーズ『天才 柳沢教授の生活』『不思議な少年』などで多くのファンを持つ、山下和美さん。
今年、デビュー35周年を迎えた山下さんの仕事場兼ご自宅にお邪魔して、新人時代についてインタビュー。
端正な絵と、緻密に作りこまれた物語世界の印象から、クールに、スマートに創作に取り組んできたに違いない、と思っていたら……新人時代もそして今も、山下さんはもがきながら漫画を描き続けていた!
新人でもすぐに取り入れられる「戦略」の数々と、漫画創作への心構えを、どうぞ。
今年、デビュー35周年を迎えた山下さんの仕事場兼ご自宅にお邪魔して、新人時代についてインタビュー。
端正な絵と、緻密に作りこまれた物語世界の印象から、クールに、スマートに創作に取り組んできたに違いない、と思っていたら……新人時代もそして今も、山下さんはもがきながら漫画を描き続けていた!
新人でもすぐに取り入れられる「戦略」の数々と、漫画創作への心構えを、どうぞ。

撮影=関根虎洸
批評を受けるのが怖くて、ゴミ箱に捨てるように投稿した
——絵は小さい頃から描いていらしたのですか?山下和美(以下、山下) はい。家のふすまが絵だらけでしたね。ふすま1枚を1コマに見立てて、漫画を描いていました。3歳で描いたのが「帽子のおじさん」というキャラクター。子どもの時から「おじさん」を描いていました(笑)。
——小さい頃から漫画家になりたい、という強い気持ちがあったのですか?
山下 なれればいいかもしれないなあ、という感じでしょうかね。大学に入ってからは、漫画家になれば教育実習に行かなくて済む……という気持ちもありました(笑)。
——当時の少女漫画家に多かった、「10代デビュー」を目指して投稿されたそうですね。
山下 そうそう! 10代でデビューできるなら、雑誌はどこでもいいと思ったんです。「ページ数制限なし」という新人賞を、たまたま「マーガレット」(集英社)でやっていたので応募しました。でも、その時まで一作も完成した作品を描いたことがなかったんですよ。途中まで描いちゃあやめる、を繰り返していた。投稿作が、初めての完成作でした。
——なぜ持ち込みではなく、新人賞に応募することを選んだのでしょうか?
山下 私、すごく気が小さいんですよ。人から面と向かって批評を受けるのが、怖くて仕方なかった。周りの人に見せてぼろくそに言われるのも怖かったから、「とにかく賞に送っちまえ!」みたいな感じで、ゴミ箱に捨てるように投稿したんです(笑)。
——でも、その投稿作『おし入れ物語』が入賞して、そのままデビュー作になったんですよね。ご自分では、作品のどこがよかったと思われますか?

『おし入れ物語』より。受験生男子の恋と友情(をちょっぴり超えた感情)が描かれる。
初の完成作が投稿作に、さらにデビュー作にもなった。
山下 いまだに何がよかったのか、よくわからないです。びっくりしました。でも漫画家の先生方がほめてくださったのは嬉しかったですね。池田理代子先生(※1)は絵を見て、「この先が恐ろしい」と評に書いてくださって。岩館真理子先生(※2)には、後でお会いした時に直接ほめていただきました。話は無茶苦茶だったと思います。でも、基本のノリは今と変わってないですね。主人公が妄想したり、悩んだりするところとか、コメディのオチとか、今と変わらないです。
- ※1 『ベルサイユのばら』で世界的に知られる少女漫画家。
- ※2 70年代「乙女ちっく」な少女漫画で人気を博す。現在は大人の女性向け漫画を執筆。
「自分らしさ」なんて、考えたことない!
——デビュー後は、苦しみながら少女漫画を描いていくことになったそうですね。山下 想像力が全然なかったのでね……でも「苦しむ」ほど、何も考えていなかったんですよ。「えっ? 拾ってくれたの?」みたいな気持ちで、ただ目の前のことを、コツコツとやっていただけでした。
——新人作家はよく、この作品は「自分らしく」ないんじゃないか……と悩んだりする、という話を聞きますが、山下さんはそう思われたことはなかったですか?
山下 そんなこと、考えたことないですよ!(笑) 編集者に描け、と言われたら描くだけ。最初に、編集長から「この人はダメだ。なぜなら、この人はロックだから」と否定されたので、デビュー前の私の作品にあった「ロック」色も、一度消しました。
——同人誌でロックのイラストを描いていらしたんですよね。

「週刊Dモーニング」新人増刊号で連載中の『ダサくていいんだ!』より。
高校時代に描いていたという「ロック」のイラスト。なんという完成度!
山下 はい。高校時代、コミケ(※3)の第1回、第2回くらいに出ていました。まだ規模も小さくて、こぢんまりとやっていた頃でしたね。デビューしてからは、「同人誌的な匂いがする」とも言われて。
- ※3 同人誌即売会「コミックマーケット」の略。現在は1回(3日間)で来場者延べ50万人以上のビッグイベントに。
——山下さんが描くのは、「ロック」で「同人誌的」な少女漫画だ、と思われていたんですね。
山下 ロックに影響を受けた少女漫画家さんというのは、結構いたんです。でも当時、そういう漫画家は長続きしない……みたいな風潮があって。だんだんロック漫画自体も、下火になっていった頃でした。そこにロック色の強い新人がデビューしたので、警戒されたんだと思います。まあ、その後も隙を見つけてはスッと、ロック漫画を描くようにはなるんですけど(笑)。
——デビュー当時の作品を拝見すると、80年代少女漫画のテイストにしっかりと合わせて描かれていますよね。少女漫画に必要な恋のときめきや美しさは、物語にたくさん入っている。でもやはり、読んでいるといい意味でところどころにひっかかりを覚えるというか、驚きがあります。

デビュー間もない1981年の作品『ふたりでお茶を』より。
王道の少女漫画テイストでありつつ、「俺のスパゲッティで…太…れ……」という愛の言葉に、山下さんの個性が光る。
山下 どうしてもずれるんですよ、私は一生懸命描いているのに(笑)。少女漫画しか読んでこなかったのに、なんでそうなるんだろう、と思っていました。血というか……そういう性格だったんでしょうね。ずれて、失敗するということが、多々ありましたね。
——当時の少女漫画には、「恋愛」を描きなさい、という風潮が強くあったのでしょうか。
山下 そうですね。私は恋愛を描くのが苦手でねえ……。まあ、でも少女漫画はそういうものなんだから描かなきゃ、と思っていました。
——仕方がない、描こう、という感じでしょうか。
山下 仕方がないから、という意識もなかったですね。とにかく「仕事」をやらなくちゃ、と思っていました。
——今も、特に女性向け雑誌などでは、恋愛要素は要求されることが多いようですね。でも恋愛ものを描くのがどうしても苦手だ、とおっしゃる漫画家さんもいらっしゃいます。
山下 最初から恋愛ものを描くぞ、と思って始めると難しいんですよね。でもキャラが出てきて、この人とこの人が一緒になっていくといいよね……という流れができれば恋愛ものもいける、ということがわかってきました。
——なるほど! 人と人がいて、距離が近づいていったら恋愛になることもある、ということですね。
山下 そうですね。
「回り道」することで、「脇」を固められる!
——少女誌で描く中で、『BOY』という作品に出てきた「お父さん」が、『天才 柳沢教授の生活』(以下『教授』)の柳沢教授の元になったそうですね。この作品を描いている時、「私の核になるものかもしれない」というような、手応えみたいなものはありましたか?
男女の双子を中心としたファミリーもの、『BOY』より(©山下和美/集英社)。
「すべてのものを克明に探究する それがわたしの方針だ」というお父さんのセリフが、まさに柳沢教授を感じさせます!
山下 やっぱり「お父さん」に関しては、手応えがありました。「このおじさんは描きやすい!」と。でも、とにかく読者アンケートが無茶苦茶悪かった。この時初めて、自分で自分の作品に読者アンケートのはがきを出しました(笑)。双子を描くのは楽しいな、と思って連載を始めたんですが、途中で、いくら男女でも双子だと絶対に恋愛関係にはならないからまずいぞ、と気づいた。読者が恋愛の期待感を持てないんですよね。
——やはり恋愛は必須、ということなんですね。
山下 明快ですよね、少女漫画は。今はいろいろなパターンがありますけど。
——その後の、『1億1千万のわたし』という作品でも、素敵なイギリス人のおじさまロッカーが出てきましたね。

『1億1千万のわたし』より。ハーフの主人公の父で、イギリス人ロッカーのスティーヴ。
シブくて陰のある、素敵なおじさまです。
山下 あれも読者アンケートが悪くてねえ……。この時も、自分ではがきを出そうと思ったんですけど、キャラクターの似顔絵大会も兼ねていた。私が自分のキャラクターを描くわけにもいかないし、仕方がないので私がそのイギリス人のおじさんの下描きをして、友人にペン入れをしてもらって出しました。で、見事に落選したんですけど(笑)。でもね、少女漫画時代のことは、絶対に役に立っているんですよ。回り道をするのは、すごくいいこと。自分が行きたいのとは違う道を通ることは、違う人間を描くってことでしょう。だから、脇を固めることができるんですよね。自分の本来の道を見つけた後で、すごく役立つ。
——本来自分が描かないようなキャラクターを、苦手だなと思いながらも頑張って描いておけば、その後の作品で脇役として生きてくる、ということでしょうか?
山下 そうそう! もうね、本当にいろんな失敗を、たくさんするじゃないですか。失敗して、ゴミみたいな作品がたくさんできる。でもね、そういう作品の中にも、「ここはよかったね」と思える部分はあるんです。絶対にある。ゴミの山の中に、何かが見つかるんですよ。見つかればしめたもので。例えば、「このキャラクターはよかったよね」と思えたら、そのキャラクターを中心にして、次の作品が描けるかもしれない。
——『BOY』のお父さんはその後、『教授』では主人公になるわけで、まさにそのケースですね。
山下 はい。だからもう、ゴミの山をいっぱい築くしかない……“クソ”作品でもいいので、とにかく描くしかないんですよ。
漫画を描かないと、生きている理由がわからない
——山下さんの新人時代を描いたエッセイ漫画『ダサくていいんだ!』(「週刊Dモーニング」新人増刊号で連載中)では、脳梗塞で倒れたことがある、と描かれていましたね。山下 ラッキーなことに、編集部にいる時でした。デビューしてすぐ、20歳の頃ですね。もう漫画は描けないだろうと言われたんですけど、意外と本人はぴんぴんしていて、退院してからも漫画を描いていました。
——今でも視野欠損の部分があるそうですね。
山下 右側は今も見えません。動く仕事をするには支障が出てしまいます……と言いながら、しょっちゅうスキーに行ってましたけど(笑)。
——そのこともあって、「行くべき道が見えてきたんだと思います」と描いていらっしゃいました。
山下 結果的には、ですね。後から考えると、病気になったことで、「こっちしかない」という方に行ってしまったんだなあ、と。別に、「私には漫画しかない!」とか思ったわけではなくて、導かれたというか。もしこの家を建てて借金を作っていなかったら、漫画家を辞めていたかもしれない。このままだらだらと楽しく生きてもいいよな……って思う間もなく大借金だったんですけど(笑)。

自宅兼お仕事場を数寄屋造りで新築した山下さん(その奮闘ぶりは「YOU」の『数寄です!』にて連載中!)。中庭のしだれ桜には、野鳥もやってくる。
この時はまだ咲いていませんでしたが、満開時は見事だそう。
——あえてそういう状況を作り出したところがあったのでしょうか。
山下 漫画家をやっていかなきゃしょうがない、という状況まで追い込んだ。でもそれも無意識で、だとは思うんですけど。なんかね……漫画を描くのは“

2階にある仕事場。山下さんの仕事机の
後ろにある大きな窓から、やわらかい光が差し込む。
……【後編】に続きます。
編集部より
モーニングの新人賞、ただいま開催中の第1回【THE GATE】および第68回ちばてつや賞一般部門についてのインフォメーションは、こちらのリンク先よりご確認ください。『ダサくていいんだ!』第1・2話同時にウェブ公開!
インタビュー中でも言及されている、山下氏の新人時代を描いたエッセイ漫画『ダサくていいんだ!』は「週刊Dモーニング」の新人増刊号限定で大好評連載中ですが、このたび第1・2話のウェブ公開が当サイトにてスタートしました! こちらのリンク先にてお読みいただけます。最新第3話は、5月7日(木)配信開始の「週刊Dモーニング 新人増刊号2015年GW」に掲載されますので、この機会にぜひアプリのダウンロードを!
『ランド』①巻、ついに発売開始!

山下氏渾身の新境地、『ランド』待望の単行本第①巻がついに発売になりました! このカバーが目印です!
作品情報および第1話の試し読みは、こちらのリンク先へどうぞ!
公開中のエピソード
【リンク一覧】 これまでに公開したインタビュー・取材記事はこちら!
- 『東村アキコのクロッキー教室』密着レポート(前後編)
- 山下和美さんの新人時代に学ぶ、漫画家に大切なこと (前後編)
- 【再録】 ちばてつや賞出身! 岩明均さんインタビュー(全3回)
- 【再録】 ちばてつや賞出身! 三田紀房さんインタビュー(全3回)
- THE GATE審査員対談:一色まことさん×ツジトモさん
- 特別インタビュー「僕が“森川ジョージ”になるためにやってきたこと」(全4回)
- 第5回THE GATE審査員・鈴ノ木ユウさんインタビュー(前後編)
- 第5回THE GATE審査員・大今良時さんインタビュー(前後編)
プロフィール
- 門倉紫麻(かどくら・しま)
- 1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。
お知らせ »
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『漫画家になるための戦略教室』Webコミック更新!(2019/05/29)
『漫画家になるための戦略教室』の【20限目】 第9回THE GATE審査員・古屋兎丸さんインタビュー(前編)を公開しました!
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『漫画家になるための戦略教室』Webコミック更新!(2017/11/27)
『漫画家になるための戦略教室』の【19限目】 第6回THE GATE審査員・山岸凉子さんインタビュー(後編)を公開しました!
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『漫画家になるための戦略教室』Webコミック更新!(2017/11/24)
『漫画家になるための戦略教室』の【18限目】 第6回THE GATE審査員・山岸凉子さんインタビュー(前編)を公開しました!
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『漫画家になるための戦略教室』Webコミック更新!(2017/08/26)
『漫画家になるための戦略教室』の【17限目】 ちばてつやに「間」を学ぶ(後編)を公開しました!
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『漫画家になるための戦略教室』Webコミック更新!(2017/08/21)
『漫画家になるための戦略教室』の【16限目】 ちばてつやに「間」を学ぶ(前編)を公開しました!