【スピンオフ企画】『夜明けの旅団』時代考証を大公開 ⑱(最終回!)(2020/02/14)


月刊「モーニング・ツー」(毎月22日頃発売)にて、片山ユキヲ氏が描くダークファンタジー漫画『夜明けの旅団』

第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、“死霊”と呼ばれるリビングデッドとの戦いを描く本作は、ファンタジーでありながら時代考証にもこだわり、丁寧な「歴史描写」を続けてきました。

この作品の時代考証を務めるのが、かわぐちかいじ『ジパング』野田サトル『ゴールデンカムイ』三田紀房『アルキメデスの大戦』などに携わる歴史作家・時代考証家の後藤一信氏です。

今月が最終回となる本企画。『夜明けの旅団』の原稿をチェックした後藤氏による「時代考証」を、インタビュー形式でお届けします。




『夜明けの旅団』最終話を時代考証の視点でチェック!

——月刊「モーニング・ツー」2020年3号(1月22日発売)に掲載されている、#最終幕「The Battle Hymn of the Republic」をお読みになっての感想を、時代考証の視点から教えてください。

後藤 遂に感動の最終回を迎えましたね……! 今回の注目点は、なんと言っても扉絵を飾った「硬式飛行船」です。






後藤 銀色に輝くアルミニウム製の枠組み構造内に、複数の「気のう」(浮揚のためのガスを入れる袋)を持ち、乗員・乗客用の各種施設、ガソリン内燃機関と推進器から構成されています。その著名な開発者「フェルディナント・アドルフ・ハインリヒ・アウグスト・フォン・ツェッペリン伯爵」の名から、俗に「ツェッペリン飛行船」と呼ばれました。






後藤 「ツェッペリン飛行船」の第一号「LZ1」は1900年に完成し、1909年には世界初となる商業飛行が開始されます。大空を飛ぶ豪華客船として大人気を博した「ツェッペリン飛行船」は、1928年、その集大成として「LZ 127 グラーフ・ツェッペリン」を竣工させました。

そして「LZ 127」は、初飛行した翌年の1929年には、なんと世界一周飛行を成し遂げます。大空を飛ぶ銀鯨、「LZ 127」の航海は世界中で大いに注目を集めたといいます。米国レイクハーストを出発した「LZ 127」は大西洋を越えて欧州、独国フリードリヒスハーフェンへと進み、給油後、ソ連邦へと向かいました。そしてモスクワでは10万名、次ぐ東京では25万名もの人々が熱狂的に迎えました。初の太平洋無着陸飛行を成し遂げ、サンフランシスコへと至り、アメリカ大陸を横断、出発地レイクハーストへと戻り、その時の世界一周の全日程は21日と5時間31分でした。

1936年、ナチス・ドイツが政権を得ると「ツェッペリン飛行船」はプロパガンダの道具として用いられ、国威発揚の代名詞となります。実際、宣伝大臣ゲッベルスは「LZ 127」でドイツ周回飛行を行い、国民を大いに鼓舞しました。

——作中でアッシェンバッハが「ツェッペリン飛行船」で欧州を発とうとしますが、この飛行船は移動手段としてのみならず、権力者にとって権威の象徴でもあったのですね。

後藤 そうですね。……しかし、「ツェッペリン飛行船」の栄光は長く続きませんでした。1937年、悲劇が起こります。「LZ 129 ヒンデンブルク」は米国レイクハースト海軍航空基地への着陸時、大爆発を起こし、乗員13名、乗客22名、地上作業員1名もの死者を出して墜落。この「ヒンデンブルク号の悲劇」は、「ツェッペリン飛行船」の命運を断つに十分な衝撃を全世界に与えたのです。






後藤 同年、安全性の問題から「LZ 127 グラーフ・ツェッペリン」の引退が決定、1940年3月には解体されました。達成された飛行記録は、総飛行距離170万キロ、大西洋横断143回、太平洋横断1回、総乗客数1万3110名、輸送貨物倉量10万6700キロ。その後、この偉業が破られるには、1957年に初飛行した傑作4発ジェット旅客機「ボーイング707」の登場まで待たねばなりません。

——なんと……。世界中の注目を集めた、権威の象徴の失墜であったと……。

後藤 史実に忠実に言えば、作品の時代である第二次世界大戦の時期には「ツェッペリン飛行船」はすでに廃されていました。しかし、ナチス・ドイツの栄誉と破滅的な終末を象徴するかのような「ツェッペリン飛行船」は、『夜明けの旅団』最終幕のグランドフィナーレの舞台として、まさにうってつけであり、あえて登場させたことで作品が一層味わい深くなっていますね。

——まさか、作品の結末に飛行船の背景がシンクロしていたとは驚きました。最後まで、非常に興味深い時代考証をありがとうございました!



時代考証家・後藤一信氏のお墨付き、
完結の単行本④巻は、3月23日(月)発売です!

『夜明けの旅団』、並びに本記事「夜明けの旅団の時代」を
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
片山ユキヲ氏の次回作にご期待ください!




後藤一信(ごとう・かずのぶ)

軍事関係を得意とする歴史作家・時代考証家。監修・時代考証などで携わった作品は、『ジパング』(かわぐちかいじ)、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)、『士道サンライズ』(髙橋ツトム)、『アルキメデスの大戦』(三田紀房)、『決闘裁判』(宮下裕樹)、『夜明け後の静』(石川秀幸)、『群青戦記 グンジョーセンキ』(笠原真樹)、『新説!さかもっちゃん』(柳内大樹)など多数。プレイステーション版『沈黙の艦隊』では監督を務めた。
  • 作品情報
  • 感想を送る
  • 更新情報

公開中のエピソード

プロフィール

片山ユキヲ(かたやま・ゆきを)
兵庫県生まれ。代表作に、『花もて語れ』『ふろがーる!』(以上、小学館) 『空色動画』(講談社)など。

作品紹介ページへ

単行本情報 »

  • 夜明けの旅団 (3)

    モーニング・ツー

    夜明けの旅団 (3)

    片山ユキヲ

    発売日:2019/08/23
    定価:本体610円(税別)

  • 夜明けの旅団 (2)

    モーニング・ツー

    夜明けの旅団 (2)

    片山ユキヲ

    発売日:2019/02/22
    定価:本体620円(税別)

単行本の一覧へ

お知らせ »

お知らせの一覧へ

新着Webコミック »

アクセスランキング