【スピンオフ企画】『夜明けの旅団』時代考証を大公開 ⑯(2019/12/12)


月刊「モーニング・ツー」(毎月22日頃発売)にて絶賛連載中の、片山ユキヲ氏が描くダークファンタジー漫画『夜明けの旅団』

第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、“死霊”と呼ばれるリビングデッドとの戦いを描く本作は、ファンタジーでありながら時代考証にもこだわり、丁寧な「歴史描写」を続けています。

この作品の時代考証を務めるのが、かわぐちかいじ『ジパング』野田サトル『ゴールデンカムイ』三田紀房『アルキメデスの大戦』などに携わる歴史作家・時代考証家の後藤一信氏です。

本企画では、『夜明けの旅団』の原稿をチェックした後藤氏による「時代考証」を、インタビュー形式の記事で毎月公開していきます。




『夜明けの旅団』第21話を時代考証の視点でチェック!

——月刊「モーニング・ツー」2020年1号(11月22日発売)に掲載されている、#21「Death Letter Blues」をお読みになっての感想を、時代考証の視点から教えてください。

後藤 まずは5ページ目で登場した「ゴリアテ」について。






後藤 正式名称は「Sd.Kfz.302」で「Sd.Kfz」は「特殊車輌番号」を意味します。つまり訳すと「特殊車輌番号302」となります。「Sd.Kfz」は全ての半装軌車はんそうきしゃ(前輪はタイヤ、後輪部分は履帯の車両)、装軌車に割り当てられており、例えば、ドイツ最強の6号戦車“ケーニッヒス・ティーガー”は「Sd Kfz 182」となっています。劇中でも描写されている通り、遠隔操作式の爆弾運搬車輌で、60キロの爆薬を搭載して時速10キロで走行、リモコン・ケーブルの長さは最長1.5キロまで操作可能です。






——なるほど、では何故「ゴリアテ」の愛称がついたのでしょうか?

後藤 愛称の「ゴリアテ」とは旧約聖書に登場する巨人の名です。この「ゴリアテ」は“走る爆弾”として、危険な敵陣地爆破任務などで用いられました。小さな戦車で大きな敵要塞を破壊するために開発されたのです。よって本来なら、その“巨人”を討ち果たす“小さき者”の名、「ダビデ」を冠するのが自然なのですが、ナチスがユダヤ人迫害を信条とする手前、ユダヤ人の王である「ダビデ」と名付けることはできず、不自然ながらも「ゴリアテ」と呼ばれたのです。

——結果的に、いびつな名を冠した兵器となっているのですね……。

後藤 21ページ目には総統アドルフ・ヒトラーと、宣伝相ヨーゼフ・ゲッベルスが再登場していますね。






後藤 ヒトラーはナチ党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党首で、1933年1月にドイツ首相となりました。しかし、その直後から暴走は始まり、ナチ党の権力掌握(野党・共産主義者の弾圧、ユダヤ人迫害、全権委任法成立、政党新設禁止法)が矢継ぎ早で行われ、一党独裁体制が確立しました。全ての団体はナチ党の下に解散・再編され、ドイツ全土が支配されるに至りました。






後藤 このナチ党の権力掌握の過程で国民を扇動したのが宣伝相ゲッベルスです。ゲッベルスは巧みな宣伝で人心を掌握し、ヒトラーを国民の英雄へと祭り上げる事に成功しました。ラジオ・映画・新聞・雑誌など、あらゆるメディアを利用して、ヒトラーへの個人崇拝、ナチ党支持、反ユダヤ主義(ユダヤ人迫害)啓蒙を実施しました。この情報戦は大いに成功し、ヒトラーとナチ党は圧倒的な国民支持を集めました。

しかし、ドイツのポーランド侵攻により第二次世界大戦が勃発すると、戦局の悪化からナチ党への批判が相次ぎ、国民の支持は急速に薄れていきました。実際、ヒトラーに対する暗殺計画は判明しているだけでも大小42件もあったといわれており、それらをくぐり抜けてきたヒトラーは非常に“幸運”であるとも言われています。

——そんな“幸運”な男も、作中ではユダヤ人のカプランによって葬られていますが、実際の最期はどのようなものだったのでしょうか?






後藤 ヒトラーはドイツ敗北直前の1945年4月30日、拳銃自殺してその生涯を終えました。ヒトラーと二人三脚で歩んできたゲッベルスも翌5月1日、家族全員と共に自殺しました。

ちなみに、カプランが彼らを葬った拳銃は「ワルサー PPK」。ワルサー社が私服刑事用として開発した小型拳銃で、22ロングライフル弾を使用します。小型軽量で、容易に携帯可能、使いやすい事からドイツのみならず1931年の生産開始以来全世界で使用され、世界で最も有名なスパイ“ジェームズ・ボンド”の愛銃としても名を馳せた名銃です。

——ありがとうございます。来月もよろしくお願いいたします!



時代考証家・後藤一信氏のお墨付き、
最新単行本④巻は、2020年3月23日(月)発売予定です!

来月の「時代考証」も、乞うご期待!




後藤一信(ごとう・かずのぶ)

軍事関係を得意とする歴史作家・時代考証家。監修・時代考証などで携わった作品は、『ジパング』(かわぐちかいじ)、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)、『士道サンライズ』(髙橋ツトム)、『アルキメデスの大戦』(三田紀房)、『決闘裁判』(宮下裕樹)、『夜明け後の静』(石川秀幸)、『群青戦記 グンジョーセンキ』(笠原真樹)、『新説!さかもっちゃん』(柳内大樹)など多数。プレイステーション版『沈黙の艦隊』では監督を務めた。
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プロフィール

片山ユキヲ(かたやま・ゆきを)
兵庫県生まれ。代表作に、『花もて語れ』『ふろがーる!』(以上、小学館) 『空色動画』(講談社)など。

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