【スピンオフ企画】『夜明けの旅団』時代考証を大公開 ⑬(2019/09/14)


月刊「モーニング・ツー」(毎月22日頃発売)にて絶賛連載中の、片山ユキヲ氏が描くダークファンタジー漫画『夜明けの旅団』

第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、“死霊”と呼ばれるリビングデッドとの戦いを描く本作は、ファンタジーでありながら時代考証にもこだわり、丁寧な「歴史描写」を続けています。

この作品の時代考証を務めるのが、かわぐちかいじ『ジパング』野田サトル『ゴールデンカムイ』三田紀房『アルキメデスの大戦』などに携わる歴史作家・時代考証家の後藤一信氏です。

本企画では、『夜明けの旅団』の原稿をチェックした後藤氏による「時代考証」を、インタビュー形式の記事で毎月公開していきます。




『夜明けの旅団』第18話を時代考証の視点でチェック!

——月刊「モーニング・ツー」2019年10号(8月22日発売)に掲載されている、 #18「Princess of the Dawn」をお読みになっての感想を、時代考証の視点から教えてください。

後藤 第一の注目点は、18ページ目のロールスロイス装甲車ですね。






後藤 その原型は1906年から生産が開始された大型高級乗用車「40/50HP」。その優美な銀メッキ仕上げの外観と、極めて静かで振動も少ないエンジンから、“シルヴァー・ゴースト”と呼ばれました。高性能の水冷直列6気筒エンジンを搭載し、最高速度は時速65マイル(約105km/h)を優に超える快速を誇ります。1907年スコットランドで開催された「スコティッシュ・2000マイル・リライアビリティ・トライアル」など、名だたるレースも席巻した最高級スポーツ・カーです。

劇中に登場するのは改良型の「1920年型マーク1」で、装甲と走破性が改良されています。第一次世界大戦中、イギリス海軍航空隊(RNAS)は装甲車連隊を編成し、その装備車輌として“シルヴァー・ゴースト”が選ばれました。エンジンを、より強力な80馬力水冷6気筒エンジンへと積み替えると共に、車体の装甲化、「7.7mmヴィッカース機関銃」の砲塔搭載が実施されました。完成した装甲車は、最高速度こそ時速44マイル(約72km/h)と低下しましたが、優れた耐久性と信頼性を発揮し、武人の蛮的な利用によく耐え、“あのジジィ”が語った“ルビーより貴重”な兵器となったのです。

また、ゴットフリードが操縦する戦車は、「三号突撃砲G型」です。






後藤 これはドイツが主戦車として開発した「三号戦車」の車体に「48口径75mm StuK 40L/48戦車砲」を固定式に装備したものです。三号突撃砲G型の生産台数は7893輌、ナチス・ドイツで、もっとも生産された装甲車輌となりました。戦車の様な回転式砲塔ではない為、射角は前方に限られますが、車体に対し大口径砲を搭載し、その低い姿勢と相まって非常に強力な戦闘能力を誇ります。自走砲に分類され、その運用は砲兵科が担いました。対防御陣地戦闘(※敵の陣営にある防御施設を破壊・攻略する戦闘)における歩兵支援を主任務としましたが、後に対戦車戦闘の中核戦力とされます。

続いて、銃についても語らせてください。新キャラクター・シトロンの愛銃、「MP40 短機関銃」は、「MP38」を改良して生産性を向上させたもので、推定100万挺以上も生産された名銃です。






後藤 短機関銃とは、拳銃弾を使用し、高い連射速度と射撃時の操作性を兼ね備えるべく設計された火器で、近接戦時にその真価を発揮します。鋼板プレス加工、プラスチックの採用など、後の銃器に与えた影響が極めて多く、特筆すべき先進性の高さを誇りました。余談ですが、拳銃弾は、目標を貫通して他に損害を与えるリスクが少ないことから特殊部隊で愛用され、日本警察の特殊急襲部隊(Special Assault Team:SAT:サット)でも、「H&K MP5 短機関銃」を採用しています。

また、リリーホワイトの新銃として、「StG44 突撃銃」が描かれています。






後藤 この突撃銃は、現代のアサルトライフル(自動小銃)の元祖とも言うべきもので、小銃用の弾丸「7.92x57mmモーゼル弾」を小型化した「7.92x33mmクルツ弾」を使用し、連射性と高威力の両立に成功しています。第二次世界大戦後半、旧ソ連邦はナチス・ドイツの開発したこの 「StG44 突撃銃」に大いに苦しめられました。その結果、“世界で最も多く生産された銃器”としてギネス世界記録を持ち、現在まで総計1億挺以上も生産され続けている旧ソ連邦の自動小銃「AK-47」は開発されたのです。



時代考証家・後藤一信氏のお墨付き、
最新単行本③巻大好評発売中です!

来月の「時代考証」も、乞うご期待!




後藤一信(ごとう・かずのぶ)

軍事関係を得意とする歴史作家・時代考証家。監修・時代考証などで携わった作品は、『ジパング』(かわぐちかいじ)、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)、『士道サンライズ』(髙橋ツトム)、『アルキメデスの大戦』(三田紀房)、『決闘裁判』(宮下裕樹)、『夜明け後の静』(石川秀幸)、『群青戦記 グンジョーセンキ』(笠原真樹)、『新説!さかもっちゃん』(柳内大樹)など多数。プレイステーション版『沈黙の艦隊』では監督を務めた。
  • 作品情報
  • 感想を送る
  • 更新情報

公開中のエピソード

プロフィール

片山ユキヲ(かたやま・ゆきを)
兵庫県生まれ。代表作に、『花もて語れ』『ふろがーる!』(以上、小学館) 『空色動画』(講談社)など。

作品紹介ページへ

単行本情報 »

  • 夜明けの旅団 (2)

    モーニング・ツー

    夜明けの旅団 (2)

    片山ユキヲ

    発売日:2019/02/22
    定価:本体620円(税別)

  • 夜明けの旅団 (1)

    モーニング・ツー

    夜明けの旅団 (1)

    片山ユキヲ

    発売日:2018/08/23
    定価:本体610円(税別)

単行本の一覧へ

お知らせ »

お知らせの一覧へ

新着Webコミック »

アクセスランキング