【スピンオフ企画】『夜明けの旅団』時代考証を大公開 ⑰(2020/01/13)


月刊「モーニング・ツー」(毎月22日頃発売)にて絶賛連載中の、片山ユキヲ氏が描くダークファンタジー漫画『夜明けの旅団』

第二次世界大戦中のヨーロッパを舞台に、“死霊”と呼ばれるリビングデッドとの戦いを描く本作は、ファンタジーでありながら時代考証にもこだわり、丁寧な「歴史描写」を続けています。

この作品の時代考証を務めるのが、かわぐちかいじ『ジパング』野田サトル『ゴールデンカムイ』三田紀房『アルキメデスの大戦』などに携わる歴史作家・時代考証家の後藤一信氏です。

本企画では、『夜明けの旅団』の原稿をチェックした後藤氏による「時代考証」を、インタビュー形式の記事で毎月公開していきます。




『夜明けの旅団』第22話を時代考証の視点でチェック!

——月刊「モーニング・ツー」2020年2号(昨年12月20日発売)に掲載されている、#22「Follow the Leader」をお読みになっての感想を、時代考証の視点から教えてください。

後藤 まずは3ページ目で描かれた、ダンテ・アリギエーリ作『神曲』の『地獄篇』について解説したいです。






後藤 これはイタリアのフィレンツェ出身の政治家・詩人・哲学者ダンテが、己の体験を基にした作品で、世界的に非常に高い評価を得ている一大叙事詩です。この『神曲』は、「若くして他人に嫁ぎ、病死した初恋の君ベアトリーチェへの作者の永遠の愛」、そして「政治闘争の末の故郷からの永久追放」、という2大テーマを背景とし、それぞれが「愛」「裏切り」の象徴として描かれています。

キリスト教的教義に沿って物語は展開し、三位(父・子・霊)一体の教えに同調するよう、『地獄篇(Inferno)』、『煉獄篇(Purgatorio)』、『天国篇(Paradiso)』の三部から成っています。それぞれ一部33歌から構成されており、『地獄篇』の冒頭にある物語解説の1歌を合わせて、全100歌構成となります。欧州古典文学では、句末に韻を踏ませるのが美しいとされ、予言書として有名なミシェル・ノストラダムス師の「百詩篇集」も同様の書き方で記されています。

ダンテ『神曲』の『地獄篇』で最も重い罪として描かれているのは「裏切り」です。それには、自らのフィレンツェ永久追放の過程が強く影響しています。

13世紀のフィレンツェでは、ローマ教皇庁(グェルフィ党)と神聖ローマ帝国(ギベリーニ党)の権力争いが激化しており、ダンテも、この争いの渦中に置かれました。さらにローマ教皇庁の内紛の末、愛する故郷から永久追放され、放浪の旅に出るに至りました。敬虔なカトリック信者であったダンテでしたが、自らを追放した「裏切り」者として何人もの実際の教皇(ボニファティウス8世、アドリアーノ5世、クレメンテ5世など)を『地獄篇』で地獄へと堕としています。

ボニファティウス8世はフィレンツェに圧力を掛け、教皇に奉仕する100人の騎兵の出兵を促した教皇であり、フィレンツェの三人の統領(プリオーレ)の一人となっていたダンテは、自らバチカンに出向して出兵不可能を釈明しました。しかし、釈明は受け入れられず、裁判の結果、罰金と2年間の国外追放を言い渡されました。これを不服としたダンテは罰金も払わず、出頭もしなかったため、フィレンツェから永久追放されてしまったのです。全ての元凶となったボニファティウス8世は、『地獄篇』にて、魔王のルシフェルより不吉な存在として描かれ、逆さまに生き埋めにされた上、業火で焼かれる、と言う地獄最大の責め苦を受けています。

いわばダンテの「恨みノート」とも言うべき『神曲』ですが、イタリア語完成までの道程考察資料、キリスト教の教義教育書、古典時代の有名人名辞典、及び百科事典的な意味あいもあり、欧州文学形成に大きな影響を与えた名著として、今も高く評価されています。

——怨念のこもった『地獄篇』三部構成の攻撃を、ジョニーたちは迎え撃っていたのですね…。ちなみに今回、武器描写についてはいかがでしたか?

後藤 特筆すべきは、23ページ目で大活躍する“シトロンの置き土産”「MP40短機関銃」ですが、他にも、「弓」「剣」「盾」といった古典的な武器が戦闘を盛り上げていくのが非常に面白いですね。






後藤 次々と弾切れを起こして使い物にならなくなっていく味方の銃器と、対照的に大活躍する敵方の肉体派古典武器。

そんな圧倒的不利な状況下で、最も非力な少女であるジョニーボーイの強い意志の力こそ最大で最後の武器である、と締める構成に強く胸を打たれました。片山ユキヲ氏が真に伝えたい想いを、誰もが強く感じた瞬間ではないでしょうか。






——ありがとうございます。来月はついに最終回を迎えます。最後まで、どうぞよろしくお願いいたします!



時代考証家・後藤一信氏のお墨付き、
最新単行本④巻は、2020年3月23日(月)発売です!

来月の「時代考証」も、乞うご期待!




後藤一信(ごとう・かずのぶ)

軍事関係を得意とする歴史作家・時代考証家。監修・時代考証などで携わった作品は、『ジパング』(かわぐちかいじ)、『ゴールデンカムイ』(野田サトル)、『士道サンライズ』(髙橋ツトム)、『アルキメデスの大戦』(三田紀房)、『決闘裁判』(宮下裕樹)、『夜明け後の静』(石川秀幸)、『群青戦記 グンジョーセンキ』(笠原真樹)、『新説!さかもっちゃん』(柳内大樹)など多数。プレイステーション版『沈黙の艦隊』では監督を務めた。
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プロフィール

片山ユキヲ(かたやま・ゆきを)
兵庫県生まれ。代表作に、『花もて語れ』『ふろがーる!』(以上、小学館) 『空色動画』(講談社)など。

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  • 夜明けの旅団 (3)

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    夜明けの旅団 (3)

    片山ユキヲ

    発売日:2019/08/23
    定価:本体610円(税別)

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    夜明けの旅団 (2)

    片山ユキヲ

    発売日:2019/02/22
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