【新連載開幕直前対談】 虚淵玄×佐久間結衣、『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』を語る。(2016/07/14)

『魔法少女まどか☆マギカ』『Fate/Zero』『仮面ライダー鎧武/ガイム』……ゲーム・アニメ・特撮シナリオ、小説、漫画原作など、幅広い活躍でファンの心をつかみ続ける虚淵うろぶちげん氏が、原案・脚本を手がける最新オリジナル映像作品『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀とうりけんゆうき

そのコミカライズが、来週7月21日(木)発売&配信開始の「モーニング」「週刊Dモーニング」34号にて始動します! 王道武俠ファンタジー人形劇の漫画化に挑むのは、『コンプレックス・エイジ』佐久間さくま結衣ゆい氏!

週刊連載開始に先駆けて、虚淵&佐久間両氏がモアイに登場。台湾の伝統人形劇「布袋劇」の魅力や『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』誕生秘話、コミカライズ実現の経緯を語り尽くします!

佐久間氏描き下ろしのレポート漫画と、対談記事の2部構成でお楽しみください!


はじまりは『魔法少女まどか☆マギカ』だった!

——佐久間さんは、もともと虚淵作品の熱烈なファンだったということで。

佐久間結衣(以下、佐久間) はい。もともとアニメをたくさん観る人間ではなかったんですけど、観るようになったきっかけが、虚淵さんの『魔法少女まどか☆マギカ』だったんです。

虚淵玄(以下、虚淵) ありがたいお話です(笑)。

佐久間 いえいえ(笑)。最初は、どれを観ていいかわからないから、アニメ好きの友だちに勧められるがままに手に取っていたらすべて、虚淵さんの作品だったという。

虚淵 (笑)。僕がやっているアニメ作品って、ジャンルが結構バラバラじゃないですか。それこそ美少女ものあり、ロボットものありで。ということは、特定のジャンルのアニメがお好きっていう感じではなかったんですね。

佐久間 そうですね。ホント、虚淵アニメのファンという感じなんです(笑)。

——佐久間さんが思う、虚淵作品の魅力とは?

佐久間 やっぱり、どれを観ても、必ず絶望させてくれるところですかね。

虚淵 ははは。

佐久間 きれいごとだけで作られた話が、そもそも好きじゃないんです。だから、何かを失って葛藤するとか、死に方がエグいとか、そういう要素が一個あるだけで、私のなかでは価値が生まれるところがあって……。

虚淵 まあ、アニメの世界では、あまり喜ばれない方向性のストーリーですけどね(笑)。ただ、話に起伏をつけようと思ったら、必然的に上げて下げては作らざるを得ないので。そしたら、そんな話ばっかりになってしまったという。

——そこに何かこだわりみたいなものがあるのですか?

虚淵 うーん、そうですね。つらいものはあまり観たくないというお客さんが、結構アニメに流れているようなところがあると思っていて。だから必然的に、そういう「つらさ」にブレーキをかける脚本が、アニメには多いような気がするんですよね。ただ、映画やドラマには、そういう「つらさ」を含んだ話って、いくらでもあるじゃないですか。だから、そういうブレーキを外すことは心掛けていて、そういう企画を立てようとするプロデューサーに限って、僕に声を掛けてくれるようなところがあって……。

佐久間 (笑)。

虚淵 だから、脚本会議の段階で、「そこはもうちょっとブレーキかけましょう」って言われたことは、これまで一度もないですね。そこで手心を加えるようなプロデューサーさんは、そもそも僕に声を掛けてこないと思うので。

——そのブレーキの壊れた感じが、佐久間さんは、たまらないと。

佐久間 そうですね。これからも、ノンブレーキでお願いします(笑)。

——ということで、そろそろ本題に入りますが、今回の『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』という企画は、どのようにスタートした企画だったのですか?

虚淵 台湾のアニメイベントにゲストで呼ばれたときに、たまたま今回タッグを組んだ布袋劇ほていげきの制作会社さん・“霹靂へきれき社”の博覧会を見る機会があって。そこで人形を飾り、映像を流していたんです。で、面白半分で覗いてみたら、すっかり布袋劇の世界に魅せられてしまって。「これ、何で日本人は知らないの?」って驚いたんです。その展示は、台湾における布袋劇の人気が全部わかる博覧会だったんですけど、これだけのジャンルを築いているコンテンツが、日本でまったく紹介されてないのは、ちょっとありえないなって思って。まあ、実際は10年程前に一度、日本にも映画という形で入ってきてはいるのですけど。台湾ではこれをテレビシリーズで30年ぐらい、会社が自ら放送局を持ってやっているくらい、すさまじい人気を誇るジャンルなんですよね。

佐久間 放送局まで持っているんですか?

虚淵 そう、それこそ視聴率が90%を超えていたり……その放送時間帯は経済が麻痺するって国会で問題になったぐらいのコンテンツというか、台湾ではそれぐらい超メジャーなコンテンツなんですよね。

——いわゆる伝統芸能みたいなものかと思っていましたが、とても現代的なコンテンツなんですね。

虚淵 もともと伝統的なコンテンツではあるんですけど、それをテレビに持ってきたときに、霹靂社さんがCGやSFXを加えながら進化させていって。それで今の人気に至っているんですよね。だから、伝統芸能でありながら、その時代その時代の新しいものを取り入れていく貪欲なコンテンツでもあるんです。

——日本の“人形浄瑠璃”みたいなものではないと。

虚淵 浄瑠璃と比べると、かなりロックですよね(笑)。それこそ、海外の脚本ライターを起用するなんて、日本の浄瑠璃ならありえないじゃないですか。たとえば、アメコミの作家が、「浄瑠璃、素晴らしい! 私に新作を書かせてください!」って言っても、それはちょっと無理ですよね。そこで「面白そうだから、ちょっとやってみようか?」ってなるのが、布袋劇の素晴らしいところなんです。

佐久間 なるほど……。

虚淵 でも、今回のコミカライズの話が来たとき、アニメじゃなくて人形劇だったので、ちょっと面食らったんじゃないですか?

佐久間 面は食らいました(笑)。私のなかにある人形劇のイメージは、NHKでやっている『ざわざわ森のがんこちゃん』みたいな感じというか、口がパクパクして、ひもが付いているようなイメージだったので。だから、実際の映像を観させてもらったときに、「えっ、こんなに動くのか!」って、本当に驚きました。

虚淵 僕も、初めて観たときには、そのスピード感に愕然としましたよ(笑)。



なぜ今、台湾の人形劇を日本でやるのか?

——虚淵さんは、台湾の人形劇=“布袋劇”の何がいちばん衝撃だったのですか?

虚淵 人形たちの造形の美しさもさることながら、動きの生々しさに衝撃を受けましたね。アニメは特にデジタルが主流なので、アナログでここまでできるんだっていう感動が、とにかく強烈でした。

——それを日本に持ってくる上で、虚淵さんが最も意識したところは何ですか?

虚淵 やっぱりこの作品のコアのコアは、“活劇”というところに尽きると思うんですよね。日本の人形劇のイメージって、先ほど佐久間さんが言っていたように、どこかファミリー向けのイメージがあるというか、子どもでも楽しめるようなものっていうベクトルに行きがちですけど、霹靂社の人形劇は、とにかく容赦ないアクションと描写があって……。

佐久間 アクションもゴリゴリで、もはや人間業じゃないですよね。

虚淵 そうそう(笑)。人間ではない、人形だからこそできるアクションを徹底して追求しているところが、霹靂社の持ち味のひとつだと思うんですよね。そういう意味で、やっぱり“アクション活劇“というところが、ひとつコアになってくると思います。

——布袋劇の演目は、いろいろあるのですか?

虚淵 徹底して武侠ものですね。現代劇にチャレンジしたりもしているようですが、主流は武侠ものです。ひとりの主人公が活躍するシリーズを、台湾では30年以上続けているんです。

——もはや大河ドラマですね。

虚淵 すさまじい大河ドラマです。

——衣装や小道具も、アクション映えするものを選んでいますよね?

虚淵 はい、そのように設定しています。とにかく、風にはためくパーツをつけようと(笑)。霹靂社が作ってきた歴代のキャラクターたちを見ても、一目瞭然なんです。ことごとくロン毛でマフラーに着物(笑)。演出する際にも、あり得ないくらい風が吹いていて。何でこの人たちは、いつも強風のなかに立っているんだろうっていう(笑)。

佐久間 (笑)。でも、本当に人形に対して容赦ないですよね。泥がはねたり、雨でビシャビシャになったりして。

虚淵 でも、あの人形たちは、まだ優遇されているほうですよ。釣り竿の先につけて振り回される、スタント用の人形たちは、もっとヒドいことになっていますから(笑)。ものすごいスピンしながら空を飛んでいくような人形は、よくよく見ると、顔がマジックで書いてあったりするんですよ。

佐久間 ああ……それは何か切ない(笑)。

——ただ、あのスピード感は本当にすさまじいものがありますよね。

虚淵 そうですね。等身大ではない、スケールダウンしたものだからこそ、あのスピードで動かせるというか、独特の派手さがありますよね。同じことを、カンフーマスターの人に実写でやってもらっても、きっとああはいかないでしょうし。だからいちばん近いのは、漫画かなって思ったんですよね。動きの派手さがありながら、漫画はアニメと違って作画枚数の制限がないから、衣装などの細かい部分もしっかり表現できると思うので。
実は「少年ジャンプ」的な王道の冒険モノも意識していたんです、と虚淵さん。
ちなみに、虚淵さんのオールタイムベストコミックは、木城ゆきとさんの『銃夢』(現在「イブニング」で『銃夢火星戦記』好評連載中!)だそうです。




表情のない人形を、漫画でいかにカッコよく表現できるか?

——本作を漫画にする上で、佐久間さんがいちばん苦労したのは、どんなところでしたか?

佐久間 いちばん難しかったのは、どこからどこまでを描けばいいのかっていうことですね。漫画のワンシーンのなかに、どこを抜粋して落とし込めばいいのか。漫画は音が出せないので、的確にシーンを選ばないとカッコよくならないんです。あと、実際は人形なので、表情がないんです。その分こちらの自由が利くんですけど、どんな表情がカッコいいのかっていうことを考え出すと、もう頭がいっぱいになって……。

——なるほど。

佐久間 人形の場合は、表情がない分、手や指の動き、見得を切る部分で、いろんな感情やカッコ良さを表現していると思うんですけど、それをいかに漫画のなかでカッコよく表現するか。それがすごく難しいところであり、また楽しいところでもあって。すべてが見えない分、いろいろ想像の自由が利くところが、描いていていちばん楽しい部分です。

——虚淵さんは、佐久間さんの漫画に、どんなことを期待していますか?

虚淵 やっぱり、この作品は独特な映像表現を使っているので……逆に言うと、物理的な縛りもすごく多いんです。実は、人形には胴体の部分がなかったりするので、肌を見せることができないとか。

佐久間 さっき実際に人形を触らせてもらったら、服のなかが本当にスカスカで……。

虚淵 そうなんです(笑)。そのへんの縛りを取っ払って、イチから仕切り直せるのがコミカライズだと思うんです。同じ物語を違う表現方法で組み立て直したら、どうなっていくのかっていう。そして人形劇と違って、舞台的な制約がない状況で、どんなロケーションを見せてくれるのか。それを今から、すごく楽しみにしています。

佐久間 が、頑張ります! 私は頑張ることしかできないというか、頑張ることだけで、ここまでやってきたので(笑)。

虚淵 (笑)。作り方としては、漫画のほうが、きっとピュアな創作になるんじゃないでしょうか。物理的な縛りがない分、自由に創作してもらって。もうホントのびのび描いていただけたらいいなって思っています。

佐久間 は、はい! でも、そういう意味では、ホント責任重大ですよね……今さらですが(笑)。でも、こんなチャンス、二度とないので、力の限りやらせていただきます!
佐久間さんが最初に描いたキャラクター表。
殤不患(ショウフカン)のキャラクターの顔つきや体型は何度も練り直しました。




「モーニング」のイメージは、幕の内弁当!?

——ちなみにモーニング本誌に対して虚淵さんは、どんなイメージを持っていますか?

虚淵 めくるたびに、いろんな漫画が出てくる幕の内弁当みたいなイメージです(笑)。

佐久間 確かに(笑)。

虚淵 僕は出発点がエロゲーだったので、漫画そのものでは、いわゆる美少女系に注目しがちでしたが、そういったジャンルの雑誌が持っている一点突破な感じ、スタミナ丼的な感じに比べると、モーニングは幕の内弁当的な不思議なバランス感と安心感があって……これを食べていれば、栄養が偏らないみたいな(笑)。

——モーニングの連載漫画で、何か印象に残っているものってありますか?

虚淵 やっぱり『蒼天航路』かな? めっちゃ好きで読んでいました。ああいう大河ドラマが、サラッと載せられてしまうプラットフォームとしての魅力と安心感が、モーニングにはありますよね。だから、今回の『Thunderbolt Fantasy』も、そういう意味では安心しています。多分、浮くことはないだろうって(笑)。

——なるほど(笑)。

虚淵 映像版も、特にターゲットを絞っていないチャレンジというか、意外と今の日本のエンタメのなかでは、廃れている方向性の活劇じゃないかなっていう気はしているんです。やっぱり、三十路のおっさんが剣を振り回す話は、なかなか企画が通りにくい(笑)。ただ、最初からお客さんを想定しない場所だからこそ、いろいろやれることはあると思っています。そういう意味で、今回モーニングという、ニュートラルな立ち位置の雑誌で、コミカライズが実現したのは、良かったと思っています。

佐久間 ありがとうございます! 私、モーニングの編集者じゃないですけど(笑)。

虚淵 (笑)。モーニングの連載だからこそ、普段アニメで僕の作品を見てくれている人以外の目にも触れられるかなっていう期待感もあります。アニメ系の雑誌に載せてしまうと、アニメ好きにしか読んでもらえないよねっていう、ある種の割り切りが必要とされるんですけど、その割り切りを求められないのがモーニング。たとえば、ヤクザ漫画や任侠漫画が好きな人に、魔法少女漫画を読ませようと思ったら、モーニングしかないと思います(笑)。面白いと思ってもらえるチャンスがある。だからこそ、漫画版には期待しているんですよね!

佐久間 が、頑張ります! 今日、頑張りますって何回言ったか(笑)。


インタビュー・文=麦倉正樹 写真=花房徹治




『Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀』は
7/21(木)開幕です。どうぞお楽しみに!
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プロフィール

虚淵玄(ニトロプラス)(うろぶちげん(にとろぷらす))
ゲーム・アニメのシナリオライターであり、小説家。代表作に『魔法少女まどか☆マギカ』『Fate/Zero』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』など。モーニングには初登場。好きなモーニング作品は『蒼天航路』。
佐久間結衣
佐久間結衣(さくまゆい)
10月22日生まれ。第63回ちばてつや賞一般部門にて『コンプレックス・エイジ』が入選。同作を当サイト「モアイ」で公開したところ大きな反響を呼び、125万PV、22000ツイート、6000いいね!(2014年4月時点)を記録、週刊連載化。現在、『コンプレックス・エイジ』全6巻発売中。

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