阿部和重 取材・構成 門倉紫麻 阿部和重の漫画喫茶へようこそ!

マンガ好きの小説家・阿部和重さんが、
喫茶室でコーヒーを片手にマンガについてしゃべりまくる
【阿部和重の漫画喫茶へようこそ!】

毎月100冊近く出版される「1巻」の中から、
モーニング編集部がチョイスした7冊を読んでいただき、
小説家ならではの、また映画に造詣が深い阿部さんならではの視点で
「マンガの現状」に迫ります!

(取材・構成=門倉紫麻)

『阿部和重の漫画喫茶へようこそ!』は電子書籍化にともない公開を終了しました。

新春特別公開! 【特別対談】咲坂伊緒×阿部和重(2018/01/01)

201冊の“コミックス1巻”をめぐる小説家のコーヒー・トーク、あるいは批評的物語創作論。
『阿部和重の漫画喫茶へようこそ!』は、ただいま各電子書店にて好評発売中です!

電子書籍化にあたり、『思い、思われ、ふり、ふられ』『アオハライド』『ストロボ・エッジ』の
咲坂伊緒さんを迎え行われた特別対談の冒頭部分をウェブ公開します!

描き尽くされた「出会い」をどう描くか

——阿部さんの『思い、思われ、ふり、ふられ』評を読まれた時、どう思われましたか?


咲坂伊緒(以下、咲坂) めちゃくちゃ褒めてくださって、すごく嬉しかったです。しかも私自身が気づいていないことをたくさん指摘してくださって。

阿部和重(以下、阿部) 喜んでいただけてよかったです。

咲坂 ただ「効率性が考え抜かれた作風」と言っていただいたんですが、自分では最初から全てが繋がっているように考えてはいなくて……褒めていただいて若干申し訳ない気持ちになりました(笑)。適当なわけではなくて感覚でやっていくと、なるようになっていくという感じなんです。例えば登場人物たちが幼なじみ設定なのも、同じマンション内にいさせたいというのが先で、そのためには幼なじみがいい、という後付けなんです。

阿部 同じく物語を作る人間として、登場人物たちを同じ学校に通わせて、さらに同じ所に住んでいるということを最初に描くと、話がすんなり始められていいなあと、思ったんですよ。その良さを「効率的」だと言ったんですけれど、それって実は、作り手にとってリスキーなことでもあるじゃないですか。「手を抜いている」と見られてしまう。なので、そう見えない工夫をしなければいけない。

咲坂 そうですね。

阿部 そこで『ふりふら』第1巻の、出会いの工夫ですよね。ヒロインの1人・由奈ゆなちゃんは、王子様である理央りおくんに「ウンコ」を踏みそうになっているところを止めてもらって出会い、もう1人のヒロイン・朱里あかりちゃんは、由奈ちゃんに駅で突然「お金を貸してほしい」と頼むことで出会う。どちらも少女マンガではなかなかない出会いのシチュエーションだなと思いました。こういったシーンがあることで、「手を抜いている」とか「ありふれている」という印象が全部飛んでしまう。感銘を受けました。




咲坂 確かに少女マンガでの出会いは、描き尽くされているとは思うので、工夫しなくちゃという意識はあります。しかも今回主人公の女の子二人のタイプがまったく違うので、学校生活が始まってからの出会いだと、同じグループにはならず仲良くならないかもしれないですよね。そういう二人がどうやったら自然に出会って仲良くなれるかなと考えました。お金を貸してもらうシチュエーションは、周りの人に聞いてみたら、経験したことのある人もちょこちょこいたんですよ。なので、ありかなと思いました。

阿部 ぎりぎりあるかないかぐらいの感じという絶妙なところがいいですよね。



「自分で考える」のが咲坂作品のキャラクター

阿部 咲坂さんは、どの作品でも何かを「仕掛ける」のがすごく早いですよね。「告白」はもちろん、人間関係が変わるきっかけを仕掛けるのが早い。どろどろした状況を引っぱらずにスパッと新しいことを仕掛け、状況を切断して次に行く。

咲坂 思いついていることは、描きたくなってしまうというのもあります。ただぎりぎり まで仕掛けずにいると、いざ仕掛けた時に「とってつけた感」が出てしまうような気がするんですよ。最初から組み込まれているものとして出したい、というのがあるので、早めに仕掛けるのだと思います。

阿部 そのリズムの速さが、咲坂さんのマンガのキャラクターたちの個性というか、生き方のリズムになっているような感じがあって。そこで際立ってくるのが、キャラクターたちの能動性ですね。みんなすごく積極的に動いていくじゃないですか。

咲坂 そうですね。

阿部 その能動性が、咲坂さんのマンガにしか見られない何かなのではないかなと。

咲坂 (連載誌の)「別冊マーガレット」には「女の子ががんばる」という傾向があるんです。受け身に回らない。私自身も、女の子は待ちの姿勢でいずに動けばいいと思っているので、そう描いているのだと思います。

阿部 由奈ちゃんは、どちらかというと庇護されるタイプとして、能動的には見えない登場の仕方をしています。でも話が展開するにつれて、そういう子じゃないなとわかっていきますね。

咲坂 そうですね。

阿部 自分から動くし、動くだけではなく、「自分で考える」。これは咲坂さんのキャラクターみんなに言える特徴だと思うんですが、常に自分は今何をすべきか考えて、行動する。その姿を追っていくうちに、第一印象の先入観が消えて、このマンガにしかいない女の子なのだということがわかってきます。

咲坂 読んでいる方の多くは、登場した頃の由奈タイプだと思うんです。なかなか能動的にはなれない。でもそれではもったいないな、という気持ちがあって。自発的に行動できるような環境になかっただけで、やってみればできることがたくさんあると思うんです。由奈にも、ほかの人をうらやんでばかりの子にはなって欲しくなかった。逆に朱里は、今の少女マンガの主流としては、読者さんに好かれないタイプだと思います(笑)。「好き勝手にやれていて、自由じゃん!」と思われてしまうのではないかと。

阿部 そういう二人を今回ヒロインとして立てたことにも野心というか、意欲があるなと思いました。

咲坂 やってみたら、難しかったですね。朱里に反発を抱く方もいると思うので。

——朱里は由奈とは違い、とりあえず男の子とつきあってみたり、カジュアルに恋愛を始める女の子です。今の少女マンガのヒロインとしては珍しいですよね。

咲坂 そうなんです。

阿部 なるほど。そういう意味では保守化しているんですね。90年代あたりだとまた違ったと思うんですよ。むしろカジュアルに恋愛を始めちゃう女の子のほうが主流だったというか。

咲坂 そうですよね。私もそのギャップを感じていて、主人公を二人立てたというのはあります。今は一途いちずで受け身の女の子の話が主流だからと、そういう主人公ばかり描いたら、読んでいる人には由奈の恋愛だけが正しいように刷り込まれてしまう。それは少女マンガとしてどうなんだろうと思っていて……。本来は、どちらの恋愛の仕方でもいいはずですよね。

阿部 Wヒロインという設定にはそういう意味もあったんですね。



モノローグの充実が読者の「もどかしさ」を高める

阿部 咲坂さんの最初の長期連載『ストロボ・エッジ』からの変化についてもお話しできればと思います。『ストロボ・エッジ』も自分から積極的に働きかけて、考えて、1つの答えにたどり着こうとするドラマですよね。もうちょっと具体的にいうと……「逆転劇」に向かうお話になっている。これは『アオハライド』でも『ふりふら』でもそうなんですが、いきなり主人公がふられるじゃないですか。本番はふられてからだよ、という始まり方をする。






咲坂 確かに、いつもふられてから始まりますね。突き落とされてから這い上がるのを描くのが、気持ちいいのかもしれません(笑)。

阿部 すごく説得力があるなあと思うんですよ。ふられるような極端な経験をして追い詰められないと、人は本気では考えないままだよなと。そこからスタートして、キャラクターたちはひたすら考えて、読者はひたすら彼女ら彼らが考えていることを追っていく。だから、彼女ら彼らの考えがわかるモノローグがすごく多い。読みやすいから気づかない人も多いかもしれないですが。

咲坂 多いですね。私の癖でもありますが、気持ちはちゃんと書かないと読者に伝わらないなと思っていて。実写だったら伝わることも、2次元では伝わらないことも多いんです。

阿部 そうやってずっとモノローグを追っていたら、第8巻で、ついに主人公が「カノジョになりたい」と口に出して……僕はそこに震えました。

咲坂 本当ですか!

阿部 はい。「俺もだよ!」と思いました。

咲坂 (笑)。




この続きは、
各電子書籍で発売中の
『阿部和重の漫画喫茶へようこそ!』でお読みください!
  • 作品情報
  • 感想を送る
  • 更新情報

公開中のエピソード

プロフィール

阿部和重
阿部和重(あべ・かずしげ)
1968年、山形県東根市出身。小説家。
1994年「アメリカの夜」で第37回群像新人文学賞を受賞しデビュー。その後、『無情の世界』で第21回野間文芸新人賞、『シンセミア』で第15回伊藤整文学賞・第58回毎日出版文化賞をダブル受賞、『グランド・フィナーレ』で第132回芥川賞、『ピストルズ』で第46回谷崎潤一郎賞を受賞。
近作に『クエーサーと13番目の柱』、『□』(しかく)、『Deluxe Edition』がある。
門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

作品紹介ページへ

単行本情報 »

  • 阿部和重の漫画喫茶へようこそ!

    モーニング

    阿部和重の漫画喫茶へようこそ!

    阿部和重 取材・構成 門倉紫麻

    発売日:2017/11/22

単行本の一覧へ

お知らせ »

お知らせの一覧へ

新着Webコミック »

アクセスランキング