門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【4限目】 過去の新人賞から「戦略」を得る! [後編](2015/04/03)

モーニングの新人賞(ちばてつや賞一般部門、MANGA OPEN)では、2次選考と最終選考の過程を「議事録」として公開しているのをご存じだろうか。

「投稿者が自分の作品の評価を知るためのものでしょう」と思ったあなた。決してそれだけではありません!

選考会での漫画家の先生方や編集部員たちのコメントには、漫画家志望者が「戦略」として生かせるヒントがあふれているのです。

今回は、授賞式でしか聞くことのできない先生方の貴重なコメントも、特別に掲載! お見逃しなく!!

※前編「第66回ちばてつや賞一般部門編」はこちらで公開中です!


前編のちばてつや賞編に続き、2014年前期・第36回MANGA OPENの選考過程(※1)、そして授賞式にも筆者が潜入。こちらは、森高夕次先生、東村アキコ先生という全くタイプの違った両先生が審査員を務めている。

「今回はいつもより意見が食い違わなかったですね」と笑うお二人だが、異なる視点からの講評は読み応えたっぷり。そしてすぐに取り入れたい「戦略」が満載です!


  • ※1 MANGA OPENの選考過程
    1次選考=MANGA OPEN事務局員が参加
    2次選考=モーニング編集部員が参加(議事録全文はこちら
    最終選考=森高夕次先生、東村アキコ先生+モーニング編集部員が参加(議事録全文はこちら



【大賞】 『わかりあえたら』 伊澤わさ子


主人公のハナは、入院中の祖母の看病を献身的に行っていた。一方、姉のアキは、仕事にかまけてばかりで、あまり祖母を心配しているように見えなかった。そのことが、ハナは不満だった。だがある日、祖母が亡くなり、その斎場で姉の意外な姿を見かける——。
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2次選考議事録より

モーニング編集長・島田 テーマはよくある話で、誰でも描きそうなもの。こういうものの大半は、読み終わって「だいたい思ったとおりだった」という感想になるんだけど、これはそうはならなかった。それは、感情を細やかに描いてるから。こういうところは、実は、ものすごく力量が問われる部分だと思う。

事務局長・篠原 そうですね。「予想できるけど、最後までちゃんと読まされてしまう」という感想です。

モーニング編集長・島田 「予想もつかない物語」なんてのは、そうめったに描けるもんじゃない。それより重要なのは、「予想できてしまう物語」に納得感を与えること。こっちの方が、力量の差が出る。


最終選考議事録より

東村アキコ (前略)おばあちゃんが死んだっていう話だけでこの長い一話をここまで読ませるっていうのは、天才だと思います。ダサいはずの普通の演出なのに、お姉さんが瑞々しくて色っぽい。(後略)

★ ポイント① ★
「予想通り」でも、納得感さえあればOK!



最終選考議事録より

森高夕次 (前略)この人は本当に才能があると思う反面、実戦投入寸前と考えてみると、どうしても絵が弱いと思ってしまいます。ぎりぎり、モーニングに載る可能性のある絵だけど、この人の絵を見て、おっさん読者は「あ~女の絵だな」と思ってしまうかもしれない。
(中略)
東村アキコ 私は、絵はすごい好きなんです。特に、後半のお姉さんが泣いているあたりの顔は感動しました。
(中略)
森高夕次 私は、青年誌に載っていてもおかしくない、という路線に変えて行くべきだと思うんだけどなあ……。

東村アキコ 星里もちる先生の絵を目指してみたらどうでしょうか。このニュートラルな感じの絵柄ってすごい武器だと思うんですよ。

モーニング編集長・島田 没個性に見えるけど、意外と思い出せる絵ってことか。

森高夕次 確かに、人気が出て、なおかつ売れそうな感じはしますね。

★ ポイント② ★
ニュートラルな絵も、突き詰めれば武器になる!



【ポイント①】 「予想通り」でも、納得感さえあればOK!

読者の予想を裏切りたい、誰も読んだことのない話を作りたい——。そう思ってしまうかもしれないが、プロにとってもそれは簡単なことではない。

そこにこだわって考え続けるよりも、予想通りの物語を納得感あるものに見せる工夫、「細やかな感情」表現など、今の自分にできることを見つけよう。
個性は強くないが、ニュートラルで安定感のある絵柄。
「女子高校生の体のラインと、ちょっと年上のお姉さんの
体のラインの描き方なんかは非常に上手い」(森高先生)。




【ポイント②】 ニュートラルな絵も、突き詰めれば武器になる!

「自分の絵には個性がない……」と悩んでいる人は多いはず。だが「嫌いだ」という人の少ない「ニュートラル」な絵柄は、突き詰めていけば、大きな武器となる可能性も。

絵柄に関しては、後出の【投稿誌を研究せよ!】も参照のこと。



【森高夕次賞】 『お見事! 郷太郎/傲岸の虎』 小三島武良


困窮生活を送る郷太郎。武士として生きる父親によれば、すべての原因は島田という男にあるという。彼を殺さずには生きていけないと息巻く父と郷太郎は、ついに襲撃の日を迎えるのだった——。
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最終選考議事録より

東村アキコ (前略)全体的によくできてて、すごく好きです。強いて言うと、設定をきっちり作るつもりはないのかなって。私は歴史は全然詳しくないんですけど、この舞台が何時代で、世の中の情勢がどうなっていて、誰が殿様で、場所は江戸なのか京都なのか…少なくともそれくらいの設定と、あとは、このお父さんはどこの藩の武士で、なんで浪人になっているのかとかそういうバックグラウンドもきっちり作っておかないと、ちょっと幼稚に感じてしまうんですよね。
(中略)
編集部員・T橋 僕がこの作品の担当なんですけど、歴史考証に関しては、藤沢周平さんの小説みたいに、架空の藩ということにしています。

モーニング編集長・島田 架空の藩だとしても、緻密な設定は必要。そのへんの作り込みが、どうも甘いように見えてしまう。それだと大人の読者を納得させるのはむつかしい。

★ ポイント③ ★
「設定」はきっちり作り込もう!



最終選考議事録より

森高夕次 僕はこれ、素晴らしいと思いました。(中略)お話はよくできていて面白い。でもとにかく演出がやり過ぎ! このお話をもっと抑えめの演出で描いていたら、僕はこれは雑誌に載ってても面白く読めるレベルだと思う。本人は工夫しようと思っているんだろうけど、考え過ぎた結果、演出過多になってしまっていて、そのせいで逆に素人臭く見えちゃう。もっと時系列をちゃんと追って、ヒキの絵をちゃんと作って、もっと普通に見せれば、ぐっと良くなるはず。もっといろんな漫画を読んで、効果的な演出の仕方が身に付けば、この人はすぐ連載できるレベルだと思う。
(中略)
東村アキコ (前略)このお父さんが、相手を斬る前に我を失って「殺す…殺す…」ってブツブツ言ってるのは絶対にやめた方がいい! この作家さんはそういう演出は似合わないと思う。だって逆に殺されるってここで読者がわかっちゃうから。主人公はお父さんを信じてて、読者は主人公目線なんだから、「うちの父ちゃんは強いから絶対死なない、絶対勝つ。勝って父ちゃんにお見事です!って言うんだ」って思わせといて、サクッと殺されちゃうのがいいわけだから。その緩急のセンスが致命的に足りていないから、それは担当の人が言ってあげないとダメだと思う。(中略)河川敷の斬るシーンでも、すっごいヒキにして、草の線だけあって、首がパシって飛んでる方が、ショックがでかいみたいな演出ってあるでしょ。迫力を出したい時ほどヒキで、どうでもいいところほどヨリにするとか、いろんな漫画を読んでそういうテクニックを身に付けてほしい。この人ならすぐできそうな気がするから。

★ ポイント④ ★
演出は「やり過ぎ」注意!



【ポイント③】 「設定」はきっちり作り込もう!

歴史物など、特殊な世界を舞台にした作品は、作者が設定をしっかり作りこんでおかないと、読者が読んでいる途中「あれ?」とひっかかりを覚える可能性が大。

すべての設定を原稿に反映することはないとしても、自分の中で作品世界を強固にしておくことが大事だ。



【ポイント④】 演出は「やり過ぎ」注意!

演出に力を入れることは大切だが、やり過ぎはNG。「この作品の場合は、少年誌的な迫力とかはいらない」と森高先生。大人向け作品では抑えた演出のほうが、より効果的に見えることもある。

東村先生が具体的に挙げている、「迫力を出したい時ほどヒキで、どうでもいいところほどヨリにする」など、演出の様々なテクニックを身に付けるために、両先生とも「いろんな漫画」を読むことを推奨。
全編にわたって迫力ある演出が頻出。
だが時には抑えめの演出が、さらなる感動を呼ぶ。




【東村アキコ賞】 『花法主はなほっす』 野﨑慎一郎


前年の大飢饉による惨状が色濃く残る、応永29(1422)年。赤子の頃、京都六角堂執行・池坊専永(いけのぼうせんよう)に拾われた道慶(どうけい)は、飢えに苦しむ人々だけでなく、野に咲く花をも思いやる、優しい心の持ち主に成長していた。それを見込まれ専永に、観音様に供える花を用意する、「花番」の役目を任されるが……。
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最終選考議事録より

森高夕次 この方は掲載を狙えるような作画レベルだから、テーマや題材、商業ベースに乗るような発想を、直近で考えられるかどうかが課題だとは思いますね。この作品だと真っ先に、「華道漫画か、単行本にして何部売れるかな」って考えてしまいますよね。そんなことを考えさせない題材が欲しいですよね。

東村アキコ これって、実際にいた人の話なんですよね? ってことは、アニメの『一休さん』みたいにメジャーなキャラクターを設定できればいいってことですかね。

森高夕次 時代劇として描きながらも、親子でも何でもいいから現代の問題を絡めて表現できると、それはそれでいいですよね。
(中略)
東村アキコ 『一休さん』だと、新右衛門さんみたいに、実在の人物だけど華やかなキャラクターが登場したじゃないですか。だから、この作品も当時実際に京都にいた人たちが登場してもいいかなって思ったりもします。この人の中にもう完成形のストーリーがあるなら、そんなことを言うのは野暮なのかな。でもまあ、この男の子が超カワイイから、この男の子に周りの大人が転がされていくっていうふうにするのもいいんじゃないでしょうか。(後略)

★ ポイント⑤ ★
「商業ベースに乗るか」を常に意識しよう!



【ポイント⑤】 「商業ベースに乗るか」を常に意識しよう!

漫画家を「職業」にするということは、「読者にお金を払って読んでもらえる作品=商業ベースに乗る作品」を継続的に描くということ。

テーマそのものの選び方はもちろん、もしマイナーなテーマでいくのなら「現代の問題を絡めて表現」したり、「メジャーなキャラクター」や興味を持ってもらえる展開を考えたりすることが大事。

常に「この作品は商業ベースに乗るかどうか」を意識する習慣を身につけたい。
このかわいらしい主人公を生かす展開を考えるなど、
「商業ベース」に乗せる工夫を。




【編集部賞】 『踏んばれ、がんばれ、ギランバレー!』 たむらあやこ


2002年の秋、2年目の新米看護師・田村は、国の指定する難病ギラン・バレー症候群を発症。生活は一変し、長く苦しい入院生活が始まった……。健康はおろか自由さえ奪われても、ユーモアと明るさは失わなかった著者が、当時を振り返って綴る前向き闘病エッセイ漫画。
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最終選考議事録より

森高夕次 この人の力量は買います。ただ、オリジナルの作品を見る前にエッセイを見せられても、この人のパーソナリティーがわからないので、エッセイ漫画本来の面白味はどうしても薄れてしまう。そういう意味で、投稿作でエッセイ漫画というのがクエスチョンマーク。俺だったら、自分がかかった病気のことを、架空のキャラクターを使って30ページくらいの物語にして出したと思う。

東村アキコ 内容とかじゃないんですけど、この作品4コマか、あるいは8コマとかの方がいいんじゃないかと思いました。要するに、1個のトピックを8コマくらいで描いてもらえると読みやすいかなって。例えば、「病気になった瞬間」とか、「ベッドでの過ごし方」とか、「親はこうしてる」とか。私この病気は名前は聞いたことがあったけど詳しいことは知らなくて、知らないことを知れるっていう意味ではすごくよかったんですけど、あとは形式を、担当がもうちょっと整理してあげたらいいのではと思いました。

★ ポイント⑥ ★
最適な「形式」を探るべし!



2次選考議事録より

モーニング編集長・島田 この人が前向きであることは確かなんだけど、それでも俺は、他人がつらいと自分もつらいと思ってしまうし、やっぱり読んでて苦しいと思うな。

編集部員・K 僕は「こんなにつらかったんだ」っていう闘病記は好きじゃないんですね。でもこの人は良くなってるんですよね。どんどん良くなってきた喜びに溢れてるから、自分が痛かった時のことを、あんなにユーモラスに短く描けるんですよね。良くなっていく人の話っていうのは、いいものですよ。


最終選考議事録より

東村アキコ 私は、結局その痛さというのは体験した本人しかわからないと思うから、それよりも、周りの家族の描写があったじゃないですか。お父さんが頑張って働いて医療費工面するとか、叔母さんが無理矢理でもご飯食べさせてくれるとか。本人のもの凄い痛みとかは、もちろん情報としてはあっていいんだけど、そこばかりを描くよりは、そういう周りの対応にスポットを当てて描いてほしいと思いました。その方が漫画としてエンターテインメントになるから。

★ ポイント⑦ ★
重いテーマも「エンタメ」に!



【ポイント⑥】 最適な「形式」を探るべし!

自分だけの特異な体験を漫画の題材にする際には、最も効果的に見せるにはどんな「形式」がいいのかを、しっかり考えて挑みたい。

長いエッセイものがいいのか、4コマ形式のエッセイがいいのか、フィクションでいくのか——。ひとつの題材には、いくつもの表現形式があることを忘れずに。



【ポイント⑦】 重いテーマも「エンタメ」に!

闘病記のため、「つらくて読めない」「よっぽど元気な人しか読めないのでは」という人もいれば、逆に「明るさを感じた」などと、2次選考では編集部員の意見が大きく割れた。

重いテーマもエンターテインメントとして読めるようにするには、本人だけでなくその「周り」にスポットを当ててみたりと、工夫が必要だ。
パワフルな叔母の登場シーンでは思わず笑いが。
周囲の人にスポットを当てるのも、エッセイ漫画を
「エンタメ」として成立させるひとつの方策。




【奨励賞】 『葉緑体人間』 水越翔大


地球の食糧問題を解決するため、とある科学者は葉緑体を持った人間を開発することを計画する。自らを実験台として研究を開始した彼だったが、その過程で植物と化してしまう。しかし研究は予想外の形で実を結び、地球の食糧問題は解決したかに見えた——。
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最終選考議事録より

森高夕次 「哲学的な感じ」と「SF的な感じ」を、伊藤潤二風に描いているところが、潔くて良いと思います。この人の本来持っているオリジナルの作風だけでは、この作品の「哲学的な感じ」と「SF的な感じ」を読者に伝えることができなかったかもしれないので。(後略)

東村アキコ 私も伊藤潤二先生の影響を受けているのは、むしろ好感が持てます。何の真似もしていない人だと、どういう漫画を描きたいのかわからないしね。私もいろんな人の真似をしまくって描いてきたわけだし。

★ ポイント⑧ ★
入り口は「○○風」でも問題なし!



【ポイント⑧】 入り口は「○○風」でも問題なし!

前編の【まずは「模倣」からでOK!】でも触れた通り、うまくなるための入り口として、まずは好きな作家の作風を真似てみるのは問題なし!

新人の場合は「どういう漫画が描きたいのか」が審査員にストレートに伝わる、という利点があるとは目からウロコだ。強烈なオリジナリティを持った両先生の口からそう語られるというのも説得力大。

ただもちろん、森高先生が「でも、このどこかで見たことのある感じ、から将来抜け出せるかということを考えると、僕は積極的に才能評価はしないです」と言うように、いずれは「○○風」から抜け出し、プロとして自分なりの道を見つける必要がある。
作者がどんな作品に影響を受けてきたかが伝わってくるが、
同時に著者のやりたいこと、目指す方向性もよくわかる。




【奨励賞】 『とっておきの日。』 天川蛍


フリーターの浩人は、大学を中退し、自分の無力さに軽く絶望していた。自分がいてもいなくても、世界は変わらない。だったら、生きている意味もないんじゃないか。そう思い、自殺を決意する。だが、大学の元同級生・結は、彼を必死に励ます。それでも、彼の決意は変わらない。そして、彼は自殺を決行しようと、街を歩き始めた——。
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2次選考議事録より

事務局員・寺山 あと、なんとなくですが、この作者はすごくガッツがあるタイプだと思います。こういう人は、伸び代も大きいと思います。(中略)これだけの原稿を仕上げられるのは、漫画に対する熱量が高いからだと感じました。

モーニング編集長・島田 (前略)漫画に向かう姿勢がすごいよね。20歳でこれだけの原稿を描いてくる、っていうのが。話の中身はまだ幼い感じがするけど、まだ20歳だったらこんなものかな。でも、真剣に描いてる。表現への衝動が伝わってくる。才能があるかはわからない。でも、可能性は十分にあると思います。
(中略)
事務局長・篠原 この作品はすごく言葉が多くて読みにくいのですが、それは担当がついて打ち合わせすれば簡単に変われる部分だと思います。それに、作家さんには、こういう多情多弁で言葉が溢れてくる人が多い。才能ありそう、と僕も思います。
(中略)
事務局長・篠原 作家になる人って、僕たち編集に立ち入らせない聖域みたいな部分があるものですよね。

★ ポイント⑨ ★
「熱意」から開ける道もある!



最終選考議事録より

森高夕次 エンターテインメントを作ろうという気概は感じられません。(中略)起承転結をつけて、きちんとお話を作ろうとしたという感じには見えませんね。ただし、逆にそこがとても今風なところであり、こういうふわっとしたつくりの作品がすごく共感を呼ぶということは往々にしてあるんです。
(中略)
東村アキコ 私、少女漫画の新人賞の審査員もやるんですけど、少女漫画だと、こういう感じで絵を描くのも、仕上げるのも好きで、真面目でっていう方はたくさんいるんですよ。私のアシスタントにもこういう作品を描いている人はたくさんいるんですけど、毎回見て思うのは、なぜ恋愛をさせないのかと。ただ、最初の頃は描けなくても長年やっているうちにキスシーンとかが開き直って描けるようになるっていう瞬間もあったりするんですけどね。

★ ポイント⑩ ★
「ふわっとした」話から抜け出そう!



【ポイント⑨】 「熱意」から開ける道もある!

熱意「だけ」では漫画家になれない。だが大量の熱は作品からあふれ出て、編集者に伝わる。担当編集がつけば、そこから共に「戦略」を練り、漫画家になる道が開ける場合もある。

投稿作には、自分の持っているものすべてを注ぎ込もう。
ぎっしり書きこまれた言葉の数々。
ページの端々から作者の熱意が感じられる。




【ポイント⑩】 「ふわっとした」話から抜け出そう!

起承転結のない、ふわっとした作品は「今風」かもしれないが、逆に言えば、今たくさんの人がそれを描いている、ということ。そこから一歩抜け出すには、登場人物に「恋愛」させるなど、強い要素を入れてエンタメとして成立させる努力を!



【奨励賞】 『あんな冬の日』 瑞樹くろ


高校1年になった悠希(ゆうき)のもとに、昔となりに住んでいた“あんちゃん”こと押切安奈(おしきりあんな)から届いた一枚の葉書。そして思い出す6年前の淡い初恋——。
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2次選考議事録より

編集部員・T本 (前略)「このお姉さんが可愛いな」と男目線でも思えたこと。男の感情がわかってる女性作家さんだと思うんですよね。話には目新しさとかはなかったんですけど、ネタさえうまくマッチングすれば、男性誌でも活躍できる作家さんだと思います。


最終選考議事録より

森高夕次 よくできていますよね。(中略)でも、なんでモーニングに投稿してきたんだ、とは思いますよね。たまたま締め切りが近かったから出したのか、分からないですが、やっぱり今まで審査員をさせていただく中で、この人いいな、って思う投稿者がいても、その人がモーニングのこと全然知らない人だった場合、その後モーニングで活躍できたかどうかは疑問ですよね。もし自分が投稿する立場だったら、傾向と対策というか、これから投稿しようという雑誌にどういうものが載りやすいのか、ということは研究するのにな、とは思いますね。漫画家になりたいっていうときに、戦略はとても重要なんですよ。どの雑誌に投稿するかっていう選択も含めて才能だと思います。だから、作品自体は良いんですが、この人の雑誌の選択には問題があるかな。
(中略)
モーニング編集長・島田 (前略)一目で女性とわかる絵柄でも全く問題はないです。むしろ題材とか、読者をひきつける何かを今後作り出せるかどうかだと思います。

★ ポイント⑪ ★
投稿誌を研究せよ!



【ポイント⑪】 投稿誌を研究せよ!

「色気を感じる」など概ね高評価だったが、少女漫画風の絵柄には、2次選考、最終選考を通して様々な意見が出た。

少女漫画の絵柄で青年誌に投稿しても、もちろんその逆もOK。ただし、どちらの場合も投稿誌を念入りに読み込み、対象読者を惹きつけるために「戦略」を立てて臨むことは必須。

前編の【読者との「接点」があれば、主人公の年齢は関係ない!】も参照のこと。
「色気がある」という声も多数。
だが少女漫画風の絵柄で青年誌で連載するためには、
工夫が必要だ。




【奨励賞】 『又旅』 田中ガス


自らの死期を悟った猫は旅に出る。家族に何も告げずに。
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最終選考議事録より

森高夕次 (前略)完成品だから、雑誌に載せて読者の反応を見るしかないと思う。でもやっぱり笑える部分がなさすぎる。4コマの体裁をとっている以上、哲学的な雰囲気に加えて、最後には笑いを取る姿勢が欲しい。笑わせるというモチベーションを意識的に高めていかないと、商品としては弱いままで終わってしまうから。
(中略)
モーニング編集長・島田 (前略)売れてる、評価を得ている漫画で、笑いの要素が一切ない漫画って実はものすごく少ないんじゃないかな。モーニングの漫画だって、ほとんど全部の漫画に、どこかにユーモアがあるじゃん。

★ ポイント⑫ ★
「ユーモア」は忘れずに!



【ポイント⑫】 「ユーモア」は忘れずに!

たとえ「死」というシリアスなテーマを扱っていても、4コマ形式である以上、「笑い」の要素はやはり必要。

さらに編集長が指摘しているように、優れた漫画の多くには、程度の差はあれ「ユーモア」が含まれているのも事実。自作には「ユーモア」があるか、一度振り返ってみよう。
「死」の扱い方は「大人っぽくていい」と森高先生。
さらに「笑い」を絡めることも意識したい。




【奨励賞】 『イクラリオン戦記』 臼倉史


もういい大人なのに、いまだにしっかり出来ずにいるタケシ。実家に帰った際、ある一冊のノートを発見する。そこには、タケシが高校時代にこっそり描いていた漫画『イクラリオン戦記』が……。そして記憶は当時に遡り——。
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最終選考議事録より

森高夕次 僕はこの作品、新人の投稿作にはありがちだなと思ってしまいました。最初の方はよくできているなと思っていたんですけど、ラストはもっとオチをちゃんとつけてほしかった。どうなるのかなと思って読んでいて、最後はカタルシスがあるのかと思っていたら、それがなくてモノローグのような形で終わってしまった。話をまとめる力がもうちょっと欲しいなと思いました。前半がうまいだけに残念。

★ ポイント⑬ ★
まずは「オチ」のあるラストを!



【ポイント⑬】 まずは「オチ」のあるラストを!

主人公の心象風景で終わるあいまいなラストは、2次選考、最終選考を通して「このままでいい」「ブツ切れ感がある」と意見が分かれた。

この路線を追求していくのももちろんアリだが、商業誌で作品を発表することを考えると、まずはしっかりとオチをつけたラストを描き、読者にカタルシスを与えることを意識したほうがよさそうだ。
ここから、議論を呼んだ抽象的なラストへ。
東村先生はラストと共に「個人的には絵が好き」と個性的な絵柄も評価。




【奨励賞】 『群青の月』 猫太マナ


さまざまな事情から、家族と離れなければならなかった子供たちが、兄弟として生活しながら切り盛りするレストラン。そこに一人の家出少年、ムギがやってくる。兄弟たちと同様、家族に問題を抱えていた彼だったが、レストランを手伝い、皆と生活を共にするうちに、少しずつ心を開いてゆく。
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最終選考議事録より

事務局員・吉原 でも、この作品に出てくる部屋の広さとか、建物がどんな構造になっているのかがよく分かりませんでした。空間を把握して描くことはできていないなあ、と感じました。

★ ポイント⑭ ★
頭の中にある「場所」は、正確に、わかりやすく!



最終選考議事録より

東村アキコ 17歳にしては絵も上手いし、ちゃんとできてるから才能はあるとは思うんですが17歳だからといって、これからだって言っててもしょうがないわけで。少女漫画だと、もう17歳でプロとしてデビューして描いている人も割といるんですよね。自分の身の回りを描くのか、自分とはかけ離れた世界を描くのかどっちか決めて、もう少しページを短くして描くのがいいんじゃないでしょうか。

森高夕次 最初は、この作者の年齢を見ずに作品を読んで、30歳くらいの人がこういう漫画を描いてきちゃったのかなあ、典型的に売れない漫画家だなあ、なんて思っちゃったんですが、17歳っていうことならOKだと思います。なんで売れない漫画家だなあ、なんて思ってしまうかというと、ものすごく独りよがりなんですね。でも、ここまで独りよがりになれるということは、逆に言うと自分の世界を持っているということだから、将来性はあると思います。予言めいたことを言うなら、この人はブレイクする可能性はあります。ただ、他人に見せるというトレーニングをしたことがないんだなあ、っていうのが作品からよく分かるから、とにかく描いて他人に見せるっていうことを繰り返したほうがいいと思います。アシスタントに入るなりして、社会性を身に付けていくのもいいですし。

★ ポイント⑮ ★
「若さ」は武器。でもやるべきことも多い!



【ポイント⑭】 頭の中にある「場所」は、正確に、わかりやすく!

作品の舞台となる建物や場所は、作者本人がしっかりと構造や広さなどを把握した上で描かないと、読者はどんな場所なのかわからずに混乱するし、空間の描かれ方に違和感を覚えると、必要以上に背景に気を取られてしまうことも。

漫画を描くことに慣れないうちは、頭の中にある場所を正確に紙に写し取るのは難しいもの。「パース」(遠近法)など、基本的な勉強をしておくことは、やはり大切だ。
場の「空気感」はよく伝わってくる絵だが、
部屋の広さ、構造など、違和感を覚えるところも。




【ポイント⑮】 「若さ」は武器。でもやるべきことも多い!

10代など、早い時期から漫画を描き始めることの強みはある。これから多くの時間を漫画に費やすことができるし、新人賞では「可能性」を買われることも。

ただ、若さゆえに甘く見てもらえる、というわけではもちろんない。プロとして、自分の方向性を意識し始めたり、「独りよがり」にならないように、周りの人に積極的に作品を見せて意見を聞いたり、やるべきことを今からどんどんやっていこう。



【奨励賞】 『ししまい番長』 さとう柏花


高校デビューに失敗した里中レイは、合格発表の日に出会った「ししまい王子」に憧れ、地域のお囃子会に入ることに!?
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最終選考議事録より

森高夕次 この作品は、正直印象に残りませんでした。前半でこんなにキャラを作り込まなくていいと思います。ししまいの動きだけを読ませるくらいの割り切り方が大事。もう少し描きたいところを絞っていく構成力が必要ですね。

東村アキコ 私も詰め込み過ぎだと感じました。絵も上手いし、かわいいとは思うのですが、もう少しネーム(セリフ)を整理したほうが良いです。(中略)ししまい好きな女の子が、所構わず、すぐししまいをやりたがるのはアリなんじゃないですか。ひたすら、ししまいが好きな女の子が空回りするギャグ漫画です。タイトルは「ししまいガール」(笑)。

★ ポイント⑯ ★
「割り切って」描け!



【ポイント⑯】 「割り切って」描け!

どうしても描きたいテーマがあるのなら、そのことだけに集中して描いてみる。そうすれば、読者の印象に残る作品になる可能性が出てくるはず!
思い入れたっぷりに描かれたししまいの動きは秀逸!
「割り切って」得意分野に全力投球を。


東村先生のアドバイスを受けたさとうさんはその後、ししまい好きな女の子が空回りするギャグ漫画『総天然色 ししまいガール』を描き、作品は見事【週刊Dモーニング 新人増刊号2014冬】に掲載された。


【週刊Dモーニング 新人増刊号2014冬】掲載の『総天然色 ししまいガール』より。




【奨励賞】 『特になにもしてない』 さかぐちまや


特になにもしていない主人公の基本1ページ完結のオムニバス漫画。本当に特になにもしてない日常を坦々と描く。
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2次選考議事録より

事務局員・吉原 絵上手いですよねー。作者のさかぐちさんが、何かにハマっててくれたらいいなあって思いながら読みました。すでにご自身がハマってるものがあれば、それを漫画にしたらすごく達者に面白く描けそうな人だなって。ハマってるものは、テレビゲームでも、特殊なジャンルであればあるほど面白そうです。


最終選考議事録より

東村アキコ とにかく絵が上手い。昔の高野文子先生を見ているようで、すごい心地が良かったです。『るきさん』みたいな漫画を描いてほしいです。何てことない話なんですが、絵が上手いから読めてしまうんですね。それはすごい才能だと思います。もし、何も賞がないのであれば、東村賞をあげたいくらいです。

森高夕次 完成品であるということはわかります。それがわかった上で、もし本に載っていたらつまらないと僕は思ってしまいますね。ただ、つまらないんだけど、載せたくなる気持ちもわかります。絵に売れる要素があって、さらに「引きこもりモノ」で括ることができるこの作品は、現代の売れ線のひとつのパターンだと思うんです。正直、好感は持てなかったけど、これは載せるしかないというレベルの完成品だとは思います。それでウケが良いか悪いかを判断すればいいのではないでしょうか。
(中略)
東村アキコ たとえば、もっとノスタルジーっぽさを前面に押し出して、幼少の時の記憶で4ページで一話を繰り返せばいいんじゃないですか。この人はゼロから空想でポンっと話を作るタイプの人じゃない。この作品でも、「引きこもり」のところより、子供のときのエピソードのほうが私は好きです。

★ ポイント⑰ ★
絵のうまさを生かせる題材を探せ!



【ポイント⑰】 絵のうまさを生かせる題材を探せ!

題材がありがちなものであっても、絵の力で読ませることはできる。

だがより「おもしろい」ものを目指すには、「ハマっている何か」や「子ども時代のエピソード」など、著者ならではの、熱意を持って描ける題材選びが必要だ。
時折ある子どものころのエピソード。
画力の高さを生かし、情感たっぷりにつづられていく。


さかぐちさんは、2015年4月16日(木)発売の「モーニング」20号より新連載『まるシカク!』を開始します! 乞うご期待!


新連載『まるシカク!』より、先行カットを特別公開!




【奨励賞】 『ヒューマンレンタル』 方月春仁


人を貸し出す会社「ヒューマンレンタル」に勤める陽月想助。彼は、3年前から娘の父親役として、ある女性に定期的にレンタルされていた。だが、その女性は重大な事実を隠していた——。
※画像をクリックorタップで漫画が読めます!



最終選考議事録より

森高夕次 力作だと思いました。この人は鈴ノ木ユウ(ちばてつや賞出身。『コウノドリ』を「モーニング」&「週刊Dモーニング」にて連載中)の成長曲線を参考にするといいですね。商業誌に載るにはどうすればいいか、どうやって人の気持ちを惹く演出をするか。鈴ノ木ユウの最初のロックの漫画から読み直して、学んでいってほしいです。もちろん、鈴ノ木ユウとは違う存在にならないと載らないのですが。ただ、未来は感じるんだけど年齢が37歳っていうのがなあ……。

事務局員・高橋 この方は現在37歳で、30歳過ぎてから漫画を描き始めたそうです。

モーニング編集長・島田 鈴ノ木さんもわりと歳をとってから受賞していますよね。ただ彼の場合はストーリーじゃなくてパッションを描いていたんだ。感情をブチ撒ける絵が上手かった。話は未完成なところが多かったんだけど。

★ ポイント⑱ ★
投稿誌の「先輩漫画家」を研究してみる!



【ポイント⑱】 投稿誌の「先輩漫画家」を研究してみる!

応募する雑誌で活躍する先輩作家の作品は、連載中の人気作だけではなく、新人時代のものから通して読んでみるのもひとつの手。

初期の頃の魅力がどんなふうに強まっていくのか、どんな技術を身につけていったのか……学べることは、きっとある。
「物語の中でハードルを作って、それをどうクリアするか」
に挑んでいるところがいい、との声も。




【奨励賞】 『エスケープ』 佐藤啓


退屈な高校生活を送る前原と高瀬たちは、気晴らしと賞金のために小学生対象のドッジボール大会に出場することに。しかし、手強い小学生を前に、何事にも熱くなれない自分たちに疑問を抱き始める。
※画像をクリックorタップで漫画が読めます!



最終選考議事録より

東村アキコ (前略)登場人物の名前が普通すぎる! せめて、あだ名にするくらいはしたほうがいいと思います。(後略)

★ ポイント⑲★
キャラの名前も重要です!



【ポイント⑲】 キャラの名前も重要です!

読者にキャラクターを身近に感じてもらうためにも、名前は作品の重要な要素のひとつ。覚えやすく、印象に残る名前を考え出そう。
主役ふたりを始め、教師に「塚本均」など、ごく「普通」の名前が並ぶのが残念。
「デッサンがキッチリ描けている」(東村先生)と絵のうまさを指摘する声は多数。




授賞式の言葉にも「戦略」があふれている!

「モーニング」本誌およびこの「モアイ」での最終選考結果発表の際、審査員の両先生による「総評」があわせて掲載されるが(リンク先参照)、実際の授賞式では、両先生から受賞者に向けて、より長めの「総評」が直接送られる。

もちろんそれは、ただ受賞者を激励するためだけの言葉ではなく、実践的なアドバイスに満ちている……。通常は受賞者しか聞けない貴重なお言葉、心して聞こう!


「すぐ連載したいなら“キャリア”をアピールせよ!」(森高先生)

森高夕次 今回、どれを読んでも楽しかったですが、全体的な平均点が高い印象で、突出したものはあまりなかったです。

ここ何回かの選考をふりかえると、連載作家として一本立ちした受賞者の中で目立っているのは、『いちえふ』の竜田一人先生と、『バトルスタディーズ』のなきぼくろ先生だと思います。二人に共通するのは、「ものすごいキャリアがある」ということです。

新人作家は賞を獲った時点までに、自分のキャリアをどこまで重ねてこられたかで、スタート地点がある程度決まってしまう気がするんです。竜田先生は福島第一原発で働いていて、なきぼくろ先生にはPL学園の野球部レギュラーだった、というキャリアがある。

今ここにいらっしゃる方々が、人生の中でどういうキャリアを持っているかはわからないですが、もし何か突出したキャリアがあるなら、出し惜しみをしないで作品に反映していく、というのが、すぐに世の中に出る近道だと思う。

そしてキャリアは、編集者にアピールすること。なきぼくろ先生は、投稿作ではPL学園とはまったく関係ない漫画を描いていて、編集者と打ち合わせをする中で、そのキャリアがわかった。編集者は、何かいい題材があれば、「これで何本か話が作れるな」と考える人たちです(笑)。

もちろんじっくり行こうと思うのなら、物語を積み上げていくことを学んでいけばいいと思う。でもここにいる人は、やっぱりすぐ結果を出したい、来年からでも連載を始めたいと思っているでしょうから、ぜひ自分の人生、自分のキャリアをアピールしてみてください。



「気楽に、楽しく“数”を描く!」(東村先生)

東村アキコ MANGA OPENには、ものすごく壮大なSF、など変わった作品が送られてくることが多いのですが、今回は全体的に「ちゃんと描けている」印象でした。

それと17歳、20歳など、若い人が多い回だったように思います。それで思い出したことをお話ししようと思うのですが……。

先日、過去の自分の全作品を解説する、という取材を受けました。連載作については、はっきり覚えていて語ることができるんですが、20代の時にたくさん描いた読み切りに関しては、原稿のコピーを見せてもらっても、「こんなの描いたっけ?」と思うものがたくさんあった。たまにうまくいったものもあるという程度で、ヘタだし、おもしろくもないし、自分でも「0点だな」と思うようなものばかりでした。

私のそのコメントを聞いて、取材に来ていた編集さんが、「屍の山の上に今、立ってるって感じですね」とおっしゃったんです。「ひどいな」と思ったんですが(笑)、確かにそういうことなんですよね。

当時は「これはいい!」と思って本気で描いていたんだけれど、振り返ってみれば、屍みたいなものなんです。

今、受賞したみなさんは、これから勉強していい作品を描いてやるぞ! と張り切っていると思いますし、これからうんうん唸りながらがんばって描いていくと思うんです。でもたぶん、15年後くらいに振り返ったら、「0点だなあ」と思うはずで。

うちのアシスタントさん達も、「傑作を描かなきゃ」とか、「次はこれで勝負したいと思っている」と言うことがあります。でも、どれだけそう思っていても、「数」をこなさない限りは、結局それほどおもしろいのは描けないんです。

これまで審査員を続けてきて、授賞式やその後の2次会で、たくさんの受賞者の方たちと話してきましたが、今も残っている人はとても少ない。きっとみんな、「傑作を描こう」と思って、でもできなくて、行き詰まって描けなくなってしまうのだと思います。それは、とてももったいないことだと思う。

まずは気負わず、楽しく、数を描いていく。新人時代は、それがいいのではないか、と思っています。




おわりに

賞をとったことでその人の運命は大きく変わりますからね。僕が一番怖いのは、せっかくいい“芽”をふきかけているのに、それに気づかないことです」。これは30年以上にわたって新人賞の選考を務める、ちばてつや先生が以前おっしゃっていた言葉です。

選考会の前に、審査員の先生方が事前に記入する「採点表」を見せてもらうと、ちば先生、森高先生、東村先生のお三方とも、コメント覧には良い点、悪い点、アドバイスをぎっしりと書きこんでいらっしゃいました。そして選考会では、どの作者のことも頭ごなしに「ダメ」と否定することはなく、「どういうものを描けばいいか」「どうしたらもっとよくなるか」を探ろうとしていたのも印象的でした。

取材をするたびに、新人賞の選考は、投稿者にとって真剣勝負の場であることはもちろんですが、選ぶ側にとっても真剣勝負の場なのだと強く感じます。

一人でも多くの新人作家を発掘し、すぐにでも雑誌の「戦力」として活躍してもらうためにはどうすればいいのか——そこにまで考えが及んでいるからこそ、選考会での、また授賞式での言葉には、多くの「戦略」が満ちているのではないでしょうか。



編集部より

MANGA OPENがリニューアルします! 対象を「漫画」と「原作」に絞り、全受賞作に実戦の舞台を用意する全受賞作全掲載=“超実戦型”の新人賞、【THE GATE】が誕生!!

【THE GATE】についてのインフォメーションは、こちらのリンク先よりご確認ください。
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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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