門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【3限目】 過去の新人賞から「戦略」を得る! [前編](2015/03/27)

モーニングの新人賞(ちばてつや賞一般部門、MANGA OPEN)では、2次選考と最終選考の過程を「議事録」として公開しているのをご存じだろうか。

「投稿者が自分の作品の評価を知るためのものでしょう」と思ったあなた。決してそれだけではありません!

選考会での漫画家の先生方や編集部員たちのコメントには、漫画家志望者が「戦略」として生かせるヒントがあふれているのです。

今回は、授賞式でしか聞くことのできない先生方の貴重なコメントも、特別に掲載! お見逃しなく!!


前編は、2014年後期・第66回ちばてつや賞一般部門の選考過程(※1)、そして授賞式に筆者が潜入取材。そこで聞かれた「戦略」に生かせるコメントを、受賞作ごとにピックアップ!

30年にわたって、投稿作一作一作をていねいに読んで最終選考に臨む、ちばてつや先生の言葉には、愛情と、やはり「戦略」があふれていました……!! 編集者たちのリアルなコメントも、必読です。


  • ※1 ちばてつや賞〈一般部門〉の選考過程
    1次選考=ちばてつや賞事務局員が参加
    2次選考=モーニング編集部員全員が参加(議事録全文はこちら
    最終選考=ちばてつや先生+モーニング編集部員が参加(議事録全文はこちら



【大賞】 『泣き虫とうさん』 サイ


まもなく大学進学のため故郷・札幌を発つ主人公。彼女も一緒で前途洋々のはずが、心配事が消えない。それは頼りない父親のこと。そして父と二人で残される母親のことだった。
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2次選考議事録より

編集部員・X この作品に限らない質問なんですけど、選考会では「いい話」ってよくネガティブな意味で使われるじゃないですか。『泣き虫とうさん』はハートウォーミングにもかかわらず評価されたのは何故なんでしょうか。ちなみに僕も評価高いですが。

モーニング編集長・島田 お父さんのキャラが立ってるから。あと、今まで何度も描かれている話じゃないから。(中略)
父と息子の関係って残酷な部分もあって、本当はそっちも描く上で大事な要素。だけどそっちが前に出て、残酷な話だねってなったら、それはそれでダメだと思う。結局、漫画ってエンタテイメントで、80~90%は広い意味でいい話じゃないとダメな気がする。

★ ポイント① ★
「いい話」には「立ったキャラ」が必要だ!



最終選考議事録より

ちば先生 (前略)主人公である息子が母親に、何故あんな男と結婚したのかと聞くシーンがありますが、さらっと母親は答えるけど、この子何言うのかしらという一拍があってから答えてもよかったのかもしれない。「タメ」が全体的にもっとあるとよかったのかもしれませんね。とってもいい話なのでもったいなかったかな。(後略)


授賞式より

ちば先生 物語のラスト、主人公が飛行機で飛び立つ時に泣き出すんだけど、その前にぐーっと涙をこらえる描写があると、さらに主人公の感情が伝わってきたかなと思います。

★ ポイント② ★
「タメ」「間」をうまく使い、読者の心をつかめ!



【ポイント①】 「いい話」には「立ったキャラ」が必要だ!

選考の際、「いい話」の作品が出てくると、「いい話なんだけどね……」と編集部員の見る目が厳しくなる傾向が。

確かに、ただの「いい話」は「よくある話」にもなりかねない。だがキャラをしっかり立てれば、「いい話」も新鮮に見えてくる!

漫画はエンタメであると考えれば、ただの「残酷な話」では読者に受け入れられないのもまた事実。キャラを立てて、臆せず「いい話」にチャレンジを!
すぐに泣いてしまう、心優しきお父さん。
キャラ、立ってます。




【ポイント②】 「タメ」「間」をうまく使い、読者の心をつかめ!

「ここぞ」という大事な場面や、感情が変化する瞬間を、さらりと流して描いてしまったら、読者もさらりと流して読んでしまう。

しっかりと「タメ」を作る=「間」をきちんと取って、読者の印象に残る場面を作り出そう!
大事な質問に答えるお母さん。
あと少し「タメ」があれば、印象はぐっと変わる。
主人公が泣き出すシーン。
ここに「間」があると、さらによし!




【入選】 『ヲタヤン小林』 大内優


吹奏楽部でヘタクソなトランペットを必死に吹きまくるリーゼントのヤンキー小林。彼がヤンキーらしからぬ楽器に明け暮れるのには、もっとヤンキーらしからぬ深い理由があった…!
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最終選考議事録より

ちば先生 (前略)ゲームで遊ぶ人には面白さが伝わるのだろうが、自分はやらないのでピンとこない部分があった。そういう人にも伝わるようにしていかないとね。(後略)

★ ポイント③ ★
「趣味」「経験」は武器! だが読者が楽しめるように工夫を!!



【ポイント③】 「趣味」「経験」は武器! だが読者が楽しめるように工夫を!!

大好きな趣味や自分だけの経験は、漫画を描く上での大きな武器! けれど読者のほとんどは、それをまったく「知らない人」だということを、忘れてはいけない。

漫画にする時は、誰にでも伝わるように、さらに「知らないけど、おもしろい!」と思ってもらえることを目指して描こう。
ゲーム好きならではの迫力ある絵が描けるのは、大きな武器!




【入選】 『台風一家』 西山貴史


大型の台風の目の中に閉じ込められたソウスケとミユ。二人以外誰一人と存在せず外界とも接触できない世界でも二人三脚で乗り越えていくのだが……。愛に溢れる家族の物語。
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2次選考議事録より

編集部員・F 確かによくある話。でもよく出来ている。演出が素晴らしい。シーンとシーンの繋ぎ目がすごく凝っていて、台風で車が巻き上げられた後、場面が変わって空にむかって視点を移して鳥を映したり、焼き鳥食いてえなとボヤいてたら、その後、空から鳥が降ってきたり、その2年後にもその焼き鳥を食べて生活をしてるとか。(後略)

編集部員・K 後半になるにつれてグイグイ引き込まれていく。小さい演出が上手いので、細かいところまで考えて描く人なのかなと思った。トラックで押し出すラストシーンは一緒に応援したくなるぐらい気持ちが持っていかれた。

★ ポイント④ ★
効果的な「演出」で読者を引きつけよ!



最終選考議事録より

モーニング編集長・島田 ここ10年くらいの新人賞投稿作品って、「実は死んでました」という話がすごく多いんですよね。それで、ちょっとハートウォーミングな終わり方をする。でもこの主人公でいくらでも話が作れるなって感じるのであれば、即OKなんですよ。ただ、それだけの画力や構成力はあるのに、関心がキャラクターにいっていない作品が多いんですよね。この作品も絵は相当達者なんですけど、話の印象は残るけどキャラクターの印象が全然残らないんです。

ちば先生 この作品はキャラクターの魅力じゃなくて、お話の設定の面白さで勝負しちゃったからかもしれないね。

モーニング編集長・島田 そこが罠なんですね。「実は死んでました」という話がそんなにたくさん新人賞に来てるとは誰も想像しないで描いてくるわけなんですよ。自分では「いい話がつくれたぞ」という感覚があるから、つい、その話をまわすことに夢中になってしまっている気がしますね。話は破綻していても、オチなんかなくても、このキャラクターすごい面白いなっていうほうが実はいいんですよね。

★ ポイント⑤ ★
印象的なキャラは、作品の難を超える!



授賞式より

ちば先生 絵も演出も話も、本当にありそうだなというリアルさでした。これだけリアルな話だったら、「台風のカベ」を絵で見たかったな。

★ ポイント⑥ ★
読者が「見たい」絵を意識しよう!



【ポイント④】 効果的な「演出」で読者を引きつけよ!

内容は「よくある」ものであっても、効果的な「演出」があれば、読者を引きつけることはできる!

なんでもないような場面でも、「もっといい見せ方があるかも?」と考えるクセをつけて、より効果的な演出を探ろう。
「トラック」を使った演出が効いた、迫力のクライマックス!




【ポイント⑤】 印象的なキャラは、作品の難を超える!

まずは、キャラ! 設定や話を組み立てることに夢中になるあまり、キャラがおろそかになってはいけない。印象的なキャラは、「ありがちなストーリー」も「話の破綻」も「オチがない」ことさえも、凌駕するのだ。

ひとつの話にとどまらず、ほかの作品でも使いたくなるような、魅力的なキャラクターを作ろう。



【ポイント⑥】 読者が「見たい」絵を意識しよう!

この話で読者が「見たい」と思う絵、必ず描いておかなければならない絵は、どの部分なのかを意識しよう!

自分が「描きたい」絵、筋を伝えるための絵を描くだけでなく、客観的に見て「ここ!」という重要な場面を、逃さずにきっちり描くことが大切。



【入選】 『いがぐりの恋』 石田純平


あこがれの同級生と同じ高校に行きたいと、猛勉強に励む「いがぐり」。念願かなって志望校に合格したものの、やっぱり待ってた「ほろ苦い真実」。半歩、男に近づく少年の物語。
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最終選考議事録より

ちば先生 この作者は非常に絵を描きなれていて、背景を入れるべきところと、省略すべきところの緩急がとてもうまく読みやすい。まったく迷わずに読めました。(後略)

★ ポイント⑦ ★
背景は省略も必要。コマの「緩急」が読みやすさを生む!



授賞式より

ちば先生 『いがぐりの恋』は、すごく完成度が高い。だから、これ以上の作品を描くのは、もしかしたら難しいかもしれないぞ。新人賞の投稿作は、練って練って、好きなだけ時間をかけて描けるでしょう。これから先は時間に追われて描くことになるので、なかなか難しいとは思うけど、がんばって!

★ ポイント⑧ ★
プロには「締め切り」があることを忘れずに!



【ポイント⑦】 背景は省略も必要。コマの「緩急」が読みやすさを生む!

すべてのコマにぎっしり背景を描きこめばいい、というものではない。選考会では、「熱意は感じるけど、全部のコマに描きこみがあって読みづらい」と言われてしまう作品も多かった。

時に大胆に背景を省くコマを作って、ページの中に緩急をつけると、漫画はぐっと読みやすくなる。また、そうすることで大事なコマで目を止めさせるなど、読者の目線をコントロールすることもできるのだ!
背景があるコマと省略したコマを、効果的に配置。
緩急を作り出している。




【ポイント⑨】 プロには「締め切り」があることを忘れずに!

投稿作にじっくり取り組むのは、もちろん大事。けれどプロとしてデビューした後は、締め切りに追われ、時間と戦う日々が待っている……そのことも、肝に銘じておきたい。



【佳作】 『コーラを飲んでも歯は溶けない。』 美輪多緒


大介が住む団地の公衆電話が鳴り出した。かけてきたのは同じ団地の少女・ゆみ。さらに、奈緒と名乗る謎のお姉さんと知り合ったことで、「いい子」だった大介の生活は少しずつ変わっていく。
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2次選考議事録より

編集部員・B つっこみどころは満載だけど、絵の表情がものすごくよかった。誰よりもパターンがあって、力が飛び抜けている。(後略) 編集部員・C 細かい粗をおし切れるくらい、今回の応募作のキャラクターの表情がよかったですよ。

★ ポイント⑨ ★
「表情」でポイントアップを狙え!



最終選考議事録より

ちば先生 (前略)ストーリーはなかなか面白いし、心を揺さぶってくれる雰囲気があっていい。ただ離婚したお父さんの状況を電話の声だけで説明するのは難しいよね。いい話なんだけど読み込まなければわからないのが残念。(中略)
この人は絵が上手なんだけど、顔がアップになると、時々大人と子供、男と女の見分けがつきにくくなるのが問題。アクセサリーやメイクなどで顔が出ている部分だけでも、誰かわかる特徴をつくるとか、出来ればシルエットだけでわかるように描けるといいね。(中略)
漫画はできるだけ読者を迷わせないように、すーっと読めるように意識して描かないと。自分だけの「目」じゃなくて、読者の「目」を考えてほしいな。

★ ポイント⑩ ★
読者の「目」で、「わかりやすく」描く!



【ポイント⑨】 「表情」でポイントアップを狙え!

漫画において大切なのは、キャラクターの感情を、言葉ではなく「表情」でしっかり見せること。

背景のパースがとれない、人物全身のバランスがうまくいかないなど、絵が苦手という人も、「表情」にこだわってじっくり取り組めば、作品の評価を上げられる可能性も!
絶妙な表情に注目!
だが女性キャラの描き分けには、もうひと工夫ほしい。




【ポイント⑩】 読者の「目」で、「わかりやすく」描く!

お話も、キャラクターも、自分では何度も考え、長くあたためてきたものであっても、読者にとってはすべてが初めて出会うもの。読者の目から見た「わかりやすさ」を常に意識していたい。

キャラの混同は、アクセサリーや髪の色などの「記号」で、すぐに回避できるもの。キャラの描き分けは、当たり前のようでいて疎かにしがちな、基本にして重要なポイントだ。



【佳作】 『メガネスポーツ』 玉田曜


メガネでスポーツ競技者のみなさん、こんなことはありませんか? 高校野球部に入ったメガネの根甕君と共に一つずつレッツ・チェック! メガネだってスポーツできる!
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最終選考議事録より

ちば先生 このままの描き方だと、甲子園を目指しても、読者は感動しないし、主人公が健気ともあまり思えない。切り口を間違えたのかな、という印象がちょっとあったかな。この作品はきっと作者は楽しんで描いていると思う。楽しんで描いたものが、読者にとっても楽しければ最高だけど、作者のひとりよがりで終わってしまうことが多い。とっても大変だけど、プロは自分が苦しんで、読んでる人を楽しませなきゃいけないんだよね。

★ ポイント⑪ ★
楽しむのは「自分」ではなく「読者」だ!



授賞式より

ちば先生 スポーツをする人間にとっていかにメガネがわずらわしいものか、よく伝わってくる。ただ主人公の運動能力にも問題があるので、ちょっとテーマがぼけてしまったのが残念。ギャグ性を強くしたほうがよかったのかもしれないね。

★ ポイント⑫ ★
テーマはひとつに絞ろう!



【ポイント⑪】 楽しむのは「自分」ではなく「読者」だ!

長きにわたって漫画を描き続けている、ちば先生ならではの厳しい言葉。

「自分」が楽しんで描くのは、大いに結構。けれど、プロとして描いていくなら、自分よりも「読者」を楽しませることを第一に考えなければならない。そのためには当然、苦しむことだってある。

新人賞に投稿した時点で、「読者」はいる。このプロ意識を、始めから持っておきたい。



【ポイント⑫】 テーマはひとつに絞ろう!

あれもこれもと欲張ると、どうしてもテーマは「ぼける」。経験の浅い新人のうちは、ひとつのテーマを徹底して描こう。
笑えるギャグが満載!
それを引き立てるためにも、テーマは絞ったほうが吉。




【佳作】 『WAKE ME UP!』 呉昕庭ゴ シィンティン


足の速い聖は、日々、あちこち走り回っている。1年前に他界した母と約束した、300人分の使い走りをするためだ。達成すると、母からプレゼントが届くというのだが……!?
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最終選考議事録より

ちば先生 (前略)この方の絵やキャラクターから情熱は感じるんだけど、読んでいてわからないことがたくさんあって、引っかかってしまった。何故パシリの回数を300回にこだわるのか、なぜ領収証をとるのか、なぜそれを燃やすのか。(中略)
男の子がのびのびと走っている絵は魅力的だし、走り終えたときの充実感もうまく表現していて演出力もあるんだけど、お話で読者にわかってもらいたいところは抜けちゃっているかな。作者の目だけじゃなく、読者の目をもって描くこと、「読者を迷わせない」工夫を大切にしてほしいですね。

★ ポイント⑬ ★
「わかりにくい」は徹底的につぶせ!



【ポイント⑬】 「わかりにくい」は徹底的につぶせ!

この作品に限らず、ちば先生は繰り返し「わかりやすさ」「読者の目」について話されていた。なぜなら、それが抜けている投稿作が多いから!

何度も読み返して、「わかりにくいかもしれない」と思うところは、徹底的につぶしていこう。
走るシーンは圧巻! ストーリーでは徹底的に、
「読者を迷わせない」工夫をしよう。




【奨励賞】 『がんばれ!マジカルセントプリティーバニー』 木下惠


怪人達から地球の平和を守ったヒーロー達は、怪人達がいなくなった後、やることがなくやさぐれていた。そしてもう一度、怪人達が現れてくれることを夢見ている。
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2次選考議事録より

編集部員・H 評価はしているんですが、キャラの造形が何か模倣のような気がしました。その点はいかがでしょうか。

モーニング編集長・島田 いや、最初は誰でも模倣から始まるんだよ。

★ ポイント⑭ ★
まずは「模倣」からでOK!



【ポイント⑭】 まずは「模倣」からでOK!

好きな漫画家、憧れの漫画家の描くストーリーや絵を徹底的に真似てみたら、そこから学び取れることがきっとあるはず! オリジナリティは、その先にあるもの。

本作に対しても、「模倣」という意見はありつつも、「キャラに華がある」「線から感情が伝わる」など絵を評価する声が多く聞かれた。うまくなるためには、誰かの「模倣」から入るのも、ひとつの手だ!
オリジナリティは問われたが、華のあるキャラが評価!




【奨励賞】 『榊山高校☆ダイエット部』 今村美紀


広島の片田舎の高校に、突如発足したダイエット部。幼なじみを痩せさせようとする女子部長の努力の裏には、秘められし大いなる野望があったのだ!
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2次選考議事録より

編集部員・H 私の短絡的な考えだと、「モーニング」読者にはサラリーマンが多いじゃないですか。主人公がサラリーマンとダイエットをすればいいんじゃないですかね。

モーニング編集長・島田 「モーニング」は『鬼灯の冷徹』がちゃんと人気を取れる雑誌だから、必ずしもサラリーマンが出てこなくてもサラリーマンに受けることは可能。(中略)
『鬼灯の冷徹』は、なんだかよくわからないラインで「モーニング」の読者と繋がっている気がするんだよ。この作品に躊躇する理由はそこだよね。あまりに「モーニング」という雑誌に接点がないな、という気がした。(中略)
でも、「なるほどこれならわかるな」と読者に思わせるのが、接点、ということだよね。今のままだと、それが足りない気がするな。

★ ポイント⑮ ★
読者との「接点」があれば、主人公の年齢は関係ない!



【ポイント⑮】 読者との「接点」があれば、主人公の年齢は関係ない!

雑誌掲載を目指す作品には、その雑誌の対象読者との「接点」が必要。だが、サラリーマンが対象の雑誌だからといって、必ずしも主人公がサラリーマンでなければいけない、ということはない。

主人公が高校生でも、「鬼神」でも、「なるほどこれならわかるな」と読者が自分との接点を感じられる「何か」があれば、題材はなんでもアリなのだ!
かわいい高校生たちの物語だが、「モーニング」読者との
「接点」を見つけられれば問題なし!



……[後編] 第36回MANGA OPEN編は
4月3日(金)更新予定です!





【番外編①】 愛のダメ出し集!

過去のちばてつや賞2次選考会潜入取材時に聞こえてきた、編集者からの厳しくも愛ある「ダメ出し」を、一挙掲載!

耳をふさぎたくなるところをぐっとこらえて、これまで自分の描いた作品、そしてこれから描こうとする作品を思い浮かべ、心して聞くべし!!


  • クセのない絵柄は、個性派揃いの「モーニング」では武器にならないと思う。

  • 例えば主人公がブサイクという設定でも、本当にブサイクに描いちゃダメ! “絵としては”ある程度、魅力的に!

  • どんなに絵が達者でも、キャラクターから体温が感じられないのはダメ。動く石像みたいに見えてしまう……。

  • 題材は目新しいけど、パターンをただなぞって描いているだけだよね。

  • 何から何までちゃんとしている。でも、おもしろくない。漫画はそれではダメ!

  • 経験したことを描いた、ただの日記。そうじゃなくて、自分の思ったことを描くのが漫画なんだ!

  • 絵はすごくうまいんだけど、ラクして描いているのが見えるよね。これくらい絵が描けるんなら、もっと野心的なものが見たいよ。




【番外編②】 編集長スピーチ in 第66回ちばてつや賞授賞式

ちばてつや賞の授賞式では、モーニングの編集長も毎回、受賞者に向けてスピーチをします。ここまで書いてきた実践的な「戦略」とは異なりますが、このスピーチは漫画を描く上での「心構え」として、きっと役に立つはず……ということで、特別に掲載!

授賞式に出席した人しか聞けない、編集長から新人漫画家への、熱いエールです。


今、必要なのは「考える」こと!

先日、高倉健さんのドキュメンタリーを観ていて、おもしろいと思ったことがありました。

健さんが40歳くらいの時は、日本映画の黄金期。月に10本くらい映画に出演していたそうです。本当にすごいと思うんですが、それだけたくさん撮っていたら、案の定、映画に出るのが嫌になって、3ヵ月間くらい失踪してしまった。

元々健さんは映画を観ない人だったそうですが、失踪中にふらっと映画館に入って、自分の出ている任侠映画を観た。超満員で、通路まで人があふれていて……。そして映画が終わったら、みんな人が変わっているんだそうです。みんな映画の影響を受けて、任侠映画の中の「高倉健」になっている。健さんは、それを見て、映画の力って本当にすごいなと感じた、と。

その時に私が思ったのが、漫画も本当にそうだな、ということ。読んだ後で「人が変わる」みたいなことが、おもしろい漫画には、ある。これが漫画にとって、とても大事なことだと僕は思います。

別にすごく高尚なところを目指せと言っているのではないです。今、漫画のライバルが増えたでしょう。昔はラジオとテレビくらいしかなかったんだけど、ゲームとかSNSが今はライバルになっている。時間をつぶさせるうまさに関しては、漫画は勝てません。じゃあ、それ以外に、漫画にしかできないことは何かというと、やっぱり、読んだ人を変えること。

もちろん映画とか小説でも起こりうることなんですけど、漫画が圧倒的に優れているのは、使う時間が少なくて済むこと。週刊誌の20ページなんて、数分で読めちゃう。でも読む前と読んだ後とでは、その人の人生が、「ちょこっと」変わることがある。漫画がこれから生き残っていくための、一番の武器になると思っています。

「人を変える」ために必要なものは、パッションだけじゃないんですよ。パッションは前提として必要なものだけど、それだけじゃない。

今回の受賞作を見ていても、みなさん若いですし、パッションは持っているんだけれど、意外と見落としちゃうのが、「考え方」なんだよね。

健さんの映画も任侠道なので、みんなすごく熱くなるんだけど、実はそこにあった、人を変えたポイントというのは、普段生きている自分の世界では持てないような人間観とか、目からうろこが落ちるような、ものの考え方だったような気がするんです。

今回、ちばてつや賞ヤング部門(「ヤングマガジン」主宰)の受賞作を見ていたら、ブルース・リーの「考えるな、感じろ=Don’t think, feel!」っていうセリフが出てきた。私もこのセリフが好きで、真理だなとは思うんですけど、ここ15年から20年くらいの間、ちょっと「feel=感じる」ばかりになり過ぎたなと思っていて。

もちろん「feel」は大事なんですよ。でも、特に大人の漫画の場合はだけど、more「think」、もっと考えることが、ものすごく大事だなと思うようになった。

これはもう、普段からの生き方の問題になってくるんですけど……自分なりのやり方でいいから、常に世間の常識みたいなものを疑うというか、「ものを考え続ける」ということが、漫画を描く上でも意外とポイントなのではないか、という気がしています。




編集部より

ちば先生は、授賞式後の懇親会の会場でも、受賞作の掲載誌を見ながら、受賞者一人ひとりに具体的なアドバイスを送っていました。

ちばてつや賞一般部門への投稿は、ちば先生から直接アドバイスをもらえる、またとないチャンスです!

ただいま第68回の作品応募を受付中です。詳しくはこちらのリンク先よりご確認ください。
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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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