門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【17限目】 ちばてつやに「間」を学ぶ(後編)(2017/08/26)

モーニング創刊35周年を記念して、本連載『漫画家になるための戦略教室』内で、モーニングにゆかりのある漫画家たちが「講師」となり、直接、新人漫画家を指導する『漫画家になるための漫画教室』を開講します!

第1回の講師は、37年間にわたってちばてつや賞の審査委員長を務めるちばてつや先生。自身の創作活動と並行して、文星芸術大学にて教鞭を執るなど若手漫画家の育成にも力を入れていらっしゃいます。

かねてより「私はたっぷりコマを使うほうだと思う」と話してきたちば先生の講義テーマは「演出」——特にについて今回教えていただくことになりました。

文星芸術大学の授業を1コマお借りし、学生さんたちと一緒に課題に取り組んだ3時間の講義を、前後編に分けてレポートします! 実際の課題と回答例も掲載しますので、ぜひ一緒に挑戦してみてください。(前編はこちらで公開中!



14:45 ベテラン漫画家お三方のネーム講評

続いてちば先生は、実作に参加してくださったベテラン漫画家お三方のネームを解説していく。

まずは、一本木蛮さんのネームから。


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ちば 一番初めに「できた」と手を挙げてくれた一本木さんのネームですね。まずお母さんの視点から(物語を)始めていますね。夕飯の買い物をした袋を持って歩いていたりして。

てつやは名前を呼ばれて気が付くんだけど、最初は声を出さない、というような細かい演出を入れています。ラストは、二人きりなんだけれど家族の団らんができるなあ、という良い終わり方です。

そして最後のコマに小さく、砂で作られた家と、お母ちゃんとてつやが描かれている。指で「てつや」「かーちゃん」と書いてあってね。となりのページに大きく描いて説明してくれました。

てつやはひとりで家に帰るところを想像して作ったんだろうけれど、このことはお母ちゃんには言わない……。とても良い演出ですね。


続いて、おざわゆきさんのネームへ。


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ちば 心が空っぽの時、一緒に遊びたいという気持ちもあって虫をからかったりしますね。でも虫はなんにも知らないからびっくりして飛んで行ってしまう。そういう出だしです。

お母さんが働いている工場を砂山で作って、「お母ちゃんのとこまでひとっとび~」と思ってジャンプするんだけれど、ぐしゃっと潰してしまう。ここでお母ちゃんの工場を潰したのと同時に、自分の心も潰れてしまったんですね。

お母ちゃんが迎えに来た時、てつやは胸が詰まって「お母ちゃん」と言えずに「おが…ぢゃ…」となってしまうのもいい。子供らしさが出ています。最後は目のアップで終わる演出がさすがです。


最後に、森川ジョージさんのネーム。


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ちば 主人公がてっちゃんじゃなくて“ジョージ”になっていますね(笑)。

気の強い乱暴者、という性格が、動きと顔つきで一目でわかります。周りにいる子供たちはたぶん「ジョージは寂しくなると、ちょっと怖い」と思っている。

キーン、ちゅどどどどーんと飛行機のおもちゃで遊びながら、友だちが砂で作ったものを壊して回っていますね。そこに友達のお母さんが迎えに来て、みんな帰ってしまって、どんどん寂しくなってくる。でもそんなこと気にしないふりをして遊び続ける。

ガランと広いコマを使って、誰もいなくなってしまった園庭で一人で遊んでいるところを描いている。そういう演出がうまいです。

そしてここもすごく良かったんだけど、門の外を誰かが通りかかって、お母ちゃんかな!? と思ったら、犬を連れた人だった……。こう、ハッとさせるところがすごかったです。

ストーリーがどんどん進んでいって、最後は夕日が沈むなかで終わる。胸にしみるような作品でした。




15:00 質疑応答

当初、実作は課題を2つやる予定だったが、ちば先生から「みんな疲れちゃうから、1つにしておこう」と提案があり、1本のみに。

そのかわりに時間をたっぷりと使って、ちば先生、一本木さん、おざわさん、森川さんにお話をしてもらったり、受講生からの質問に答えてもらうことになった。

ちば先生の「日本の漫画が海外に広がっている」という話を受け、まず一本木さんが、震災の復興を願う「おきあがりこぼしプロジェクト」の一環でウクライナを訪ねた際の話をしてくれた。

現地の人々から感じた漫画への熱や、日本に対して愛情を持っていることなどをお聞きした後、おざわさん、森川さんにも今日の感想や演出に対する考え方などを話していただく。

おざわゆき(以下、おざわ) 課題が思ったより難しくてびっくりしました。何ページ描いていいのかも全然わからない中で、手探りで頭をフル回転させて描きました。すごく実践的ですよね。自分のネームもここに持ってきてやったら、効率よくできるのかもしれない(笑)。

シンプルなお題だけれど、自分の個性、状況、時間、人間関係などを短い中で構成していくのが大事なことなのだと、よくわかる授業でした。

森川ジョージ(以下、森川) 僕は、ちばてつやに憧れて漫画家になったの。心の師匠なんです。ちばさんの本もいっぱい持っているんだけど、その中で「漫画を描くうえで大事なことは何ですか?」という質問にちばさんが答えていて。

よくある答えは「キャラクター」とか「ネームが7で絵が3」とかなんだけど、「演出が8割」だと言った作家が、ちばてつやです。

最初、意味がわからなくて。「ちばてつやの言う演出ってなんなんだろう……?」と思って研究しているうちに行き着いたのは、「演出とは“お願い”」ということです。作家から読者への「これでわかっていただけますか?」というお願い。ちばてつやの漫画には、それがすごく現れている。だから今どういう季節で、何時何分で、誰が動いているのか、ということがすぐわかるんです。

新人漫画家の皆さんも、一人よがりにならずに「これでわかっていただけますか?」というふうに描けるようになったら、プロになったということだと思います。



この後、受講生から先生方への質問の時間となった。


質問者① 漫画を読むと、感動したり、ワクワクしたり、自分も頑張ろうと思えたりします。また、それぞれの漫画家さんの根底にある「伝えたいもの」に触れると、いいなあと思います。先生方の根底にある「伝えたいもの」は、どういうものですか。


ちば 作品によっても違うんですけれど、私は森川さんと違って(笑)、性格が引っ込み思案でおとなしいほうなので、そういう自分のような子の話をいつも描いているんですよ。

でも時々ねえ……乱暴者になってみたいなと思うことがあるの。どんどん悪い奴にぶつかっていくような、元気いっぱいの少年時代を送りたかったなあという気持ちもあって、それを漫画にしたこともあります。『おれは鉄兵』という漫画がそうです。そういう子が大きくなるとどうなるかなと思って描いたのが、乱暴者のお相撲さんの話『のたり松太郎』ですね。

自分ができなかった生き方をキャラクターに託しているんだね。読んだ人が彼らを見て、俺も図太く生きたいなと思ったり、逆にこんなやつにはなりたくないなと思ったり、そうやってキャラクターに思いを馳せてくれたらうれしいなと思います。


一本木蛮(以下、一本木) まずは「自分の感情を共有してもらえること」というのが最初にあります。言ってしまえば「共感」なんですが、主人公と読者の間に何か接点がある作品、読んでいて何かを思い出してもらえるような作品を描きたいと思っています。それが描けるのなら、アクションものでもいいし、お色気が入っているものでもいいし、ジャンルは問いません。

ただ、苦手なものもあって……。自分が考えつかないような悪人は描けない。自分の原稿に、そんなやつを描くのも嫌だ、という気持ちもありますし。本当は、そういう人が出た方が面白いんですけれどね……私の弱点です。


おざわ 以前描いていた『あとかたの街』という戦争ものに関しては、ベースに両親が体験した話がありましたので、当時の人たちの感覚……熱さとか辛さとかむなしさとか、そういうものが読者に伝わるといいなという気持ちで描いていました。

今連載させていただいているのは、80歳のおばあちゃんがヒロインになって冒険するという話(『傘寿さんじゅまり子』)で。設定が“普通”とはいえないので、それはやっぱり、自分がそうなれたら面白いだろうなと思って描いています。読んでいる人も「いいな」とか「なれるかも?」と思ってしまうような、読んでいる人に繋がるような物語を描きたいなと思いました。私も、自分がこうしたいな、という願望を込めて描くというのがベースにあると思います。


森川 僕は、プロの世界というのは、何を描きたいとか何を訴えたいとか、そういうことではないと思うんですよ。

僕の話を聞くとみんな勇気づけられると思うんだけど、僕は15歳で持ち込みを始めて、17歳でデビューしたんです。当時は天才とか言われて天狗になっていたんだけど(笑)、21歳までに連載が3つ打ち切られたんですよ。編集会議ではっきりと「お前はいらない」と言われている。そういう作家なんです。

23歳から『はじめの一歩』が始まって28年間連載が続いているんだけど、生き残るにはどうするか、ということしか考えていなかった。そのためにどうすればいいのかはわからなかったけれど、何でもやりました。その時流行っている漫画を読んだり、会話がうまく書けるように、新宿アルタ前に6時間ぐらい居続けて、待ち合わせをしている人たちの会話を勝手に考えてノートに書いたりね。

(文星の学生さんに向かって)ちばさんが、「マンガはガマン」と言うのを聞いたことあるでしょう。本当に、漫画を描くのって辛抱、辛抱なんです。でもそうやって辛抱していくと、「お前、なかなかいいじゃないか」って許される瞬間が来る。その時に、主人公が生きている世界が、足元からちょっとずつ出来ていく感覚がわかるんです。連載の1回目に世界観なんてないですからね。「続きを読みたいな」って言われた瞬間から、世界が出来ていくんです。

これは僕がよく言うことなんだけど、漫画家にはそれぞれ一台タイムマシンが用意されていて、漫画家はそれに乗って未来を見に行くことができるの。例えば1週間後の幕之内一歩の試合を、僕は見に行ける。そうやって見てきたものを読者に伝えるだけなんです。どうやって面白く伝えようか、どうやってわかってもらおうか、という時に必要なのが、今日やってきた“演出”なんだと思います。


質問者② 先程、『1・2・3と4・5・ロク』の家族が揃って笑っているシーンを見て思ったんですが、男の人と妹たちは口を開けて笑っていて、お母さんと高校生のお姉ちゃんは、口に手をあてて笑っている。ちば先生のほかの作品を見ていても、例えば『あしたのジョー』のサチは活発な女の子なので口を開けて笑っているけれど、紀ちゃんは口を押さえて笑っていた気がします。そういったキャラクターそれぞれの所作のようなものは、意識的にストックがあってそこから引き出しているのか、無意識に描いているのか、お聞きしたいです。


『1・2・3と4・5・ロク』より
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ちば先生 私は無意識のうちにやっている気がするんだけれど、もしかしたら日ごろから観察していたのかもしれないね。女の人って子供の時はこう笑うけれど、大人になるとこういうふうに笑うんだなあとか。みんなも結構観察していると思うんだよ、無意識のうちに。この人はこういう性格だから歩き方はこうだろうなあとか。人間って、性格を体で表しているんだよね。

私は電車に乗った時に、手帳に、乗っているお客さんの似顔絵を描いたりすることがあるんです。この前は、目の前に座った女の子を描きました。私はかわいいなあと思ったんですけど、その子の目配りを見ていると、彼女はたぶん自分の顔を好きじゃないんだろうなあと感じてね。周りを見る時に、顔を上げずに俯いたまま、首を左右にスーッと動かすんですよね。元気で、周りの人がどう思うかを細かく考えないような人は、だいたい上を向いていますね。だからその子はきっと、内気で繊細なんだろうなあって。そういうところを私はかわいいと思ったから手帳に似顔絵を描いたんだけれど、彼女自身はもっと堂々と生きたいと思っているのかもしれないよね。普段もあまりしゃべらないんだろうな、もしかして、しゃべったら訛りがあったりするのかな……そういうことを考えながら、人を観察している。

みんなも、周りに面白い友達とか憎たらしい友達がいたりしたら、どうして憎たらしく見えるのか、どんなしゃべり方をしているのかをメモしてもいいのかもしれないですね。


質問者③ 先生方は、漫画家という仕事をずっと続けてこられて、そして今日こうして授業をしてくださるということは、若い人に対して「みんなも漫画家になってみたら?」という気持ちもあるのだと思います。先生方が考える漫画家という仕事の素晴らしいところ、これまでに「漫画家をやっていてよかった」と思った時のことを聞かせてください。


ちば 漫画というのは、いろいろと考えないといけなかったり、締め切りがあったり、サラサラと楽しんで描けるものじゃないよね。でもいいものが描けたら、印刷されて、あるいはネットに載って、何千人、何万人、何百万人の人が面白いと言ってくれるかもしれない。さらには、アニメーションやゲームにしたいと言って、その漫画を買いに来てくれる人が現れるかもしれない。最近はハリウッドが日本の漫画を買いつけに来ていますよね。世界中が、日本の漫画に憧れています。 さっき森川さんも言っていたけど、僕も何度も挫折していますよ。だけど素晴らしい可能性を秘めた仕事だから、苦しくても自分の世界を作るまで頑張ってくださいね、と言いたいです。みんな、すごい才能を持っているんだから。

それにもし漫画家になれなくても、今は、いろいろなところでキャラクターが使われたりするでしょう。だから漫画を勉強する中で学んだ、キャラクターを作る技術を活かして携われる仕事がたくさんあります。3年後にはオリンピックですから、漫画の好きな外国人がたくさん来ます。すでに会場をガイドしてくれるキャラクターをうまく使ったりしていますよね。いろんな形で漫画に関する仕事が広がっている。

大変な仕事だから誰にでもお勧めすることは出来ないんだけれど、一緒に頑張っていこうねっていう気持ちでいます。漫画を描いているというだけで戦友みたいに思うの。二十歳そこそこの頃は、漫画を描いている人は全員ライバルだと思っていたんです。松本零士さんとか石森章太郎さんとかね。手塚治虫さんは少し先輩だったけど、面白い漫画を描かれると悔しくてねえ。「負けた、俺はこの世界ではもうやっていけない」って心が折れそうになったことも何度もあります(笑)。

でもずっとこの仕事をしていくうちに、大変な思いをして描いているのは自分だけじゃないんだなあと思うようになって。同じく締め切りに追われて冷や汗をかいて、編集さんにボツを食らったりなんかしながら頑張ってきたんだなあと。だから今は、みんな戦友だと思っています。


一本木 音楽と絵というのは、言語が全く違う国でも通じるんですよね。タクシードライバーに、絵を描いて見せて「これが欲しい」と言ったら「それならあっちだぜ」と教えてくれたりする。世界の共通言語です。

それと、漫画というのは、一部の天才は別にして、人の気持ちや心の痛みがわからないと、描くのは難しいと思うんですね。全部のキャラクターの気持ちになって描くものなので。でも最初はあまりわかっていなくても、漫画を描き続けるうちに、人の気持ちがわかるようになって、人を思いやることができる人になっていく。それも漫画家という仕事のいいところだと思います。


おざわ 今、ずっと考えていたんですがうまく説明が出来ないなと思って……。私の経歴について言えば、最初にデビューしたのは高校1年なんですけれど全然売れなくて。2回目にデビューしたのが10年後ぐらい。そしてやっぱり売れなくて(笑)、そのあとずっと同人活動とかをやっていました。ちゃんと仕事をもらえるようになったのはここ10年ぐらい、40歳を過ぎてからです。小さい仕事でも一生懸命やっているうちに次に繋がって、今があります。

その間どうやって諦めずにいたかというと、執着心があったのと、ほかにできることが見つからなかったというのもあるんですが、一番大きい理由は、小さい頃に素晴らしい先生の作品にたくさん触れたことで、「こんな世界はほかにない」と刷り込まれてしまったからなんですよ。漫画表現というものは、力強くて、世界観が多様で、訴えかけてくるものがこんなにあるのだ!と。

自分も漫画家になれたらいいなと思って、描くという行為がそこに繋がると信じて、チラシの裏に描くことから始めました。なので私にとって漫画家はおすすめしてなる仕事というより、自然になりたいと思ってしまった仕事だったので……。漫画家という仕事の良さは、自分なりに面白いものを考えて、自分の机の上で、自分だけで、その世界を広げることができるところだと思います。あまり答えになっていないんですけれど(笑)、いい職業だと自分では思っています。


森川 漫画家になってよかった、と思った瞬間だよね? とっておきのやつを話してあげる。21歳の時……今僕は51歳だから30年前だけど、初めてちばてつやと遭遇した時の話です(笑)。『スーパードクターK』の真船一雄と一緒に「バーツ」っていう野球チームを作って色々なチームと試合をしていたんだけど、そろそろちばてつやの「ホワイターズ」と試合をやらないかっていう話が来たの。顔には出さなかったけど内心ドキドキなんだよね、初めてちばさんに会えるから。

当日、ちばさんはどこを守るんだろうと思って探したら、ファーストにいるのよ。バッターボックスで構えている時も、視界に入ってくるわけ(笑)。ご挨拶するには絶対に塁に出ないといけないでしょう。僕はそんなに打てるほうじゃなかったんだけど、たまたまパカーン!て打っちゃったの。足は速かったから本当は三塁まで簡単に走っていけたんだけど、一塁でピタッと止まって(笑)。バーツのメンバーは「なんで回らないんだ、ばかやろう!」とか言ってるんだけど「うるさい、うるさい、黙ってろお前ら」って思ってね。

そうしたら、一塁を守っていたちばさんが「ナイスバッティング」って言ってくれたの。その時に「漫画家になってよかったなあ」って思ったんだよ。いい話でしょう(笑)。


ちば そういえばいたなあ、なんか気の強そうなのが(笑)。一塁で止まっちゃって動かないんだよねえ。懐かしいなあ。


ここでちば先生から、ご自身の漫画との出会いが語られる。


ちば ちょっと私の話をしますけれども……。私の母親は漫画が大嫌いだったの。漫画なんか読むとバカになるって言ってね。だから私は小さいころ、漫画を読んだことがなかったんです。でも8歳の時、道を歩いていたら草むらの中に、小さな本が落ちていたんですよ。豆本ですね。

『アラビアンナイト』を翻訳したもので、絵本じゃなくて、コマが割ってある漫画だった。少年の絵が描いてあって、今でも憶えているんですけど頭にターバンを巻いて、イヤリングをして、チョッキみたいなものを着て、袖もズボンも膨らんでいて、靴はとがっていた。一目で「日本人じゃない、外国の子供だ」というのが私にもわかったんです。


ちば先生がその場でサッと描いてプロジェクターに映した、アラビアの少年。


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ちば その少年が“ダイヤモンドの谷”に行くんだけど、蛇やなんかがいっぱいいて、人間が入っていくと殺されてしまう。どうしたらダイヤモンドを手に入れられるか考えた少年は、肉のかたまりを谷に落とすんですよね。そうすると、ダイヤモンドがいっぱい肉にくっつくでしょう。そこにコンドルが飛んで来て、肉を摑んで自分の巣で待っている子供たちのところへ運んでいくわけです。少年はコンドルを追いかけて、ダイヤモンドを取る、というお話。

いまだに覚えていますね。なぜ覚えているかと言ったら、一目見て、どんな物語なのかがわかったから。日本ではない外国のお話で、少年が元気で、やる気満々に何かをやり遂げるぞ!という意思が感じられた。

「漫画ってこんなにわかりやすくて、素晴らしいものなんだ!」と思ってうれしくてね。家に飛んで帰って、弟たちに「すごいものを見つけたぞ! 何だかわからないけど見てごらん」と言って渡して。弟たちも漫画を見たことがないから面白いって言ってましたね。

そうしたら、それを見つけた母親が豆本を摑んで、バリッと破ってパッと火にくべちゃったの(笑)。ボーッと燃えてね。その日は大泣きしました。それが私の漫画との出会いです。これはすごいものだな、こういうものを描きたいと思うようになって、どんなに母親に怒られても、隠れて描いていました。

その基本がいまだにずっと忘れられないんです。もちろん漫画の世界には難しく表現する作品もあるし、読んでもよくわからないけれどいい味を出している作品もあります。いろんなジャンルの作品があるのが漫画だからね。

ただ私はいつも、どんな世界を描くとしても、字も読めないような子が見ても面白いと思ってくれるといいなあと考えながら描いています。それが、私が今日みんなに伝えたいことなんですね。

どうしたら季節や時間、そういったものをもっとわかりやすく、さりげなくスーッと理解してもらえるかということを考えながら描いてほしい。ただ、描き過ぎると読みにくくなったり、くどくなったりするからね。そのへんが難しいんだけれど。

私の中にはね、もう一人の“てっちゃん”がずっと居るんですよ。そのてっちゃんは、作者じゃなくて“読者”です。読者の目で見たら、どう感じるかなというようなことを、二人で相談しながら……時々けんかしながら(笑)、いつも描いているんですよ。





16:00 講義終了

全体の講義終了後も、バスの出発時間まで、受講生たちがちば先生のもとを次々に訪れ、次回作の相談などをしていた。



16:30 帰りのバス出発

おつかれさまでした!



おわりに

本記事では、受講生のうち6名分のネームしか掲載できませんでしたが、どの方のネームも20分という短時間の中でそれぞれに工夫が凝らされた、クオリティの高いものでした。

ふだん何気なくコマを割ってしまいそうなシーンも、“間”を意識するとこんなにもドラマを感じさせるものになるのだと、ネームを拝見してあらためて感じました。

ちば先生が繰り返しおっしゃっていたのは、「人それぞれ」という言葉。ある演出方法だけが正しいというわけではなく、それぞれに良いところがある……短い講評の中で、全員の長所を見つけ出し、伸ばそうとしていらした姿が印象的でした。

課題の内容が意義深いことはもちろんですが、本連載の第1限「東村アキコのクロッキー教室」同様、同じ道を行く新人漫画家が(しかも今回はベテラン漫画家の先生方も!)一つの空間に集まって同じ課題に一斉に取り組むことの意義を強く感じました。自分にはない発想に出会ったり、自分だけまだ描きあげられていないと焦ったりすること、それ自体が大きな刺激になるのではないでしょうか。

そして、そんな受講生たち=「戦友」に向けるちば先生のやさしいまなざしが、講座のあたたかい空気を作っていたのでした。



第72回ちばてつや賞、締め切り迫る!

2017年度後期・第72回ちばてつや賞一般部門の応募受付は、まもなく8月31日(木)締め切りです!(当日消印有効/ウェブ応募は同日23時59分まで受け付け)

応募要項等の詳細はこちらのインフォメーションページをご覧ください!



おまけの課題

時間がなくてカットした2つめの課題を公開します! ぜひ挑戦してみてください。

ちば先生が本講座のために3パターンも描き下ろしてくださった回答例も見られます!


夜中、一人で室内にいて、
集中して何か作業をしている主人公。

背後のドア(障子、ふすま等)の向こうで、
何かの気配・物音がする。

「誰…?」と問うが返事はない。

「気のせいか…」と向き直って作業に戻る。

だが、再び気配がする。

「G(ゴキブリ)かな…?」と
不審そうに立ち上がり、
歩いてドアに近づく。

ドアを開けると、そこには……!?

主人公はどんな人物で、どこにいて、何をしているのか、についても考え、読者に絵でわからせる工夫をして描くこと。
(例:新人のマンガ家が自室で一人、漫画を描いている、疲れたサラリーマンがオフィスで一人残業をしている、など)

上記をふまえ、主人公の感情が伝わるように『間』を使って自分なりに演出せよ。



ちば先生の回答例A(間を使っていないもの)

※クリックまたはタップで拡大表示になります。




ちば先生の回答例B


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ちば先生の回答例C



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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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