門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【16限目】 ちばてつやに「間」を学ぶ(前編)(2017/08/21)

モーニング創刊35周年を記念して、本連載『漫画家になるための戦略教室』内で、モーニングにゆかりのある漫画家たちが「講師」となり、直接、新人漫画家を指導する『漫画家になるための漫画教室』を開講します!

第1回の講師は、37年間にわたってちばてつや賞の審査委員長を務めるちばてつや先生。自身の創作活動と並行して、文星芸術大学にて教鞭を執るなど若手漫画家の育成にも力を入れていらっしゃいます。

かねてより「私はたっぷりコマを使うほうだと思う」と話してきたちば先生の講義テーマは「演出」——特にについて今回教えていただくことになりました。

文星芸術大学の授業を1コマお借りし、学生さんたちと一緒に課題に取り組んだ3時間の講義を、前後編に分けてレポートします! 実際の課題と回答例も掲載しますので、ぜひ一緒に挑戦してみてください。



12:40 受講生集合

講談社からバスで15名の新人漫画家=受講生たちが到着。教室に入ると緊張した面持ちで筆記用具などを準備している。

なんと、受講生の中には森川ジョージさん(『はじめの一歩』)おざわゆきさん(『傘寿まり子』)一本木蛮さん(『同人少女JB』)と、ベテラン漫画家お三方の姿も! 「ちば先生の講義を受けたい」と、新人作家に交じって参加してくださったのだ。


13:00 ちばてつや先生挨拶、講義スタート

ちば先生が教室へ。

「暑い中を、はるばる来ていただいてありがとうございます」という優しい挨拶からスタート。


ちばてつや先生(以下、ちば) ふだん学生たちに時々教えている“間”というものがあります。これは落語にも、お芝居にもあるものです。(学生たちの作品を読んでいて)「あ、ここにもう一つ間があったら、読者に気持ちが伝わるのになあ、惜しいなあ」と思うことがよくあるので、今日は“間”について授業したいと思います。

せっかく来ていただきましたし、(新人の漫画家さんたちは)みなさん画力があるし、演出力もあるのだから、実際に(ネームを)描いていただいて、それもみんなで見ながら……漫画を描いて遊びましょう、ということです(笑)。






まずは、ちば先生初期の頃の少女マンガ『1・2・3と4・5・ロク』を例に、先生の間の使い方を解説していただく。『1・2・3と4・5・ロク』は、刑事をしているお父さんと、お母さん、男女5人兄弟と犬1匹の家族の物語だ。

ちば先生が、実際どれくらいたっぷりとコマを使っているのかを見るために、あるワンシーンを、テキストで説明したものが受講生に配布された。この数行の文章に、どれくらいのページ数を使い、どんなコマ割りをするのか、予想しながら読んでもらう。


朝。4階建ての団地。
豆腐売りのラッパが響く。

ベランダから女性が顔を出し、
豆腐屋に、いま買いに行くから待っていてくれ、と声をかける。

室内。
女性(姉)が起きてきた弟に、
豆腐と油揚げを買ってくるように頼む。

弟、豆腐屋のもとへ向かう。
豆腐と油揚げを買い、姉のいる部屋に戻る。


そして、実際のシーンがこちらだ。


※クリックまたはタップで拡大表示になります。



弟が団地の4階から1階まで階段の段数を数えながら駆け降りていく様子を追うように描くなど、たっぷり6ページを使っている。


ちば 私としてはたっぷり使ったつもりはないんですよ(笑)。季節が変わって新しい話が始まるのに際して、季節はいつなのかどこに住んでいるのか、社会状況はどうなっているのか、という「これだけは知ってほしい」という情報が、読者にスーッと入っていくように考えて描きました。

よく読み込んでいくとわかってくる、というのではなくて、サラッと眺めただけでわかるようにするにはどうしたらいいかな、と考えて、私はこれだけのページ数とコマを使ってしまったんですね。

ただ編集さんからは、子供が豆腐を買いに行って帰ってくるまでの話ですから、それに6ページ使うのはいかがなものか、描き直してくれと言われたんですよ。でも私としてはこうしないと私自身が話の中に入り込めないし、読者にも入ってきてもらえない、と思った。それでちょっと編集さんと言い争いになったんですけど(笑)、幸いなことに……というのか私は描くのが非常に遅いので、今から描き直すと締め切りに間に合わない、と言ったら、そのまま載せましょう、と(笑)。

そういえば、『あしたのジョー』の出だしもそうですね。ジョーが猫をどかしたりなんかしながら歩いてくる。こういう入り方は、私のくせですね(笑)。


また、“間”以外のこまやかな演出についても、こう語る。


ちば これは、今でいうともう“時代劇”ですが(笑)、当時私が住んでいた練馬に、“団地”というものが出来た。団地に住むというのは憧れで、この家族が中流よりちょっと上の暮らしをしている、ということを知らせるために4階建ての団地を描きました。

ベランダに置いてあるのは七輪と、その頃出まわり始めた洗濯機ですね。台所にある鍋がみんな大きいのは、大家族だから。そういう小道具を描きながら、時代や生活状態がわかるようにしています。

押し付けるように知らせるのではなくて、読者の目の端にこういったものを入れながら、どんな雰囲気の漫画なのかを感じてもらえたらいいなと思っています。


また、お豆腐屋さんと男の子のやりとりから、二人の関係性もわかってくる。


ちば お駄賃に油揚げをもらっているところからすると、この男の子は何度もお豆腐を買いにやらされていて、このおじさんとは顔見知りなんでしょうね。なんとなく良い関係なんだろうな、というのを描きたかった。

あとこれはね、私が子供の頃に、味噌汁に入れる油揚げを刻まされて、それをこっそり食べたことがあってね(笑)。お豆腐屋さんから油揚げをもらったら嬉しいだろうなと思って、描きました。


間をしっかり使うこと、小道具ややりとりなどで演出をすることの重要性がわかったところで、受講生たちの実作へ。

課題はこちら。


幼稚園児のてつやは一人っ子で
母親しかいない。

しかしその母親も生活のために
出稼ぎに出ていて、
まだしばらくは帰ってこない。

夕方、他の園児たちは
親が迎えに来て帰ってしまい、
てつやは一人。

預けられた親戚の家は
なんとなくいづらいし、
楽しくもないのに一人砂場で遊んでいる。

仕方ないとはわかっていても、
母ちゃんが早く帰ってきたらな…
と思うてつやであった。

そんなとき園の入り口に人影が…。

てつやの感情が伝わるように『間』を使って自分なりに演出せよ。コマ割りやページ数は自由。


ちば先生作の、間を使っていない、基本のネームがこちら。


※クリックまたはタップで拡大表示になります。



実作では、たっぷりと間を使って演出したネームを作ってもらう。



13:27 実作

制限時間は20分。「キャラクターは、マルと棒でもいいですよ。自分だったらどれぐらいのコマを使うかなあ、と考えて、試しにやってみてもらえたらと思います」

受講生の手が一斉に動き出す。


「できた人から手を挙げてください」と告げると、まずは制限時間より少し早く、一本木蛮さんから手が挙がる。

さっそく、ちば先生が一本木さんの机へ向かい、講評が始まる(※一本木さん、おざわゆきさん、森川ジョージさんのネームは後編で公開!)。



13:47 ちば先生が受講生の机を回って講評

20分が過ぎると、次々と手が挙がる。見開き2ページに収めたり、5~6ページにわたって展開したり、様々な長さのネームが見られた。

ちば先生は「このコマはとてもいいね」「この演出方法は気がつかなかったなあ」「前の出来事に遡って説明しているんだね」「夕日をうまく使っているね」と必ずそれぞれの「良いところ」を挙げ、講評をしていく。


20分経っても仕上がらない受講生もたくさんおり、焦っている気配を察すると、「みんなそれぞれのペースがあるんだから、ゆっくりでいいんだよ」とやさしく言葉をかける。

近くにいる人同士でネームを交換し、意見を言い合う姿も見られた。






ほぼ全員のネームを講評したところで、一旦休憩へ。



14:37 ちば先生回答例解説&全体講評

まずは、ちば先生作の、間をたっぷりとった回答例を見ながら、演出のポイントを解説。


ページをめくると……


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ちば先生はさらに、「“なぜそのコマを追加したのか”がわかりやすいように」と、コマごとのてつやの「心の声」を書き入れてくれた。


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ちば 「てつや」という声で、てつやは呼ばれたことに気が付くんですね。それで、振り向く。そして「私よ てつや お母ちゃんよ」と言われて、今まで手に持って遊んでいたスコップを、ポトッと落とします。

立ち上がってお母さんの方を見るんだけれど、逆光でよく見えないのと、まさか帰ってきていないだろうという気持ちがあるから、まだ表情が変わりません。

だけど次のコマで「お……お」と声が出る。この辺の間が、私は大事なのかなと思うんですね。

「おかあちゃん!」って言いたいんだけれど、言えない。読む方に、そういうてつやの気持ちが伝わってくれたらいいかなと思いました。

そして最後にめくりを使って、「おかあちゃあ~んっ」と(1ページ丸々使って)やりました。


「皆さんも、てつやと友達の関係や、その家族との関係を描いたり、てつやの寂しさを表すのに砂山を使ったりといろいろと工夫して間を使っていました」と感想を述べ、先生が特に気になった受講生のネームをピックアップし、プロジェクターで映しながら解説していく。


西本のりあきさんのネーム
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ちば 砂をつかんで、サラサラとこぼす。非常にむなしくて、(僕は)何をしているんだろうなという、てつやの気持ちがわかりますね。この「ギュッ」という書き文字が、寂しいのと悔しい気持ちを表しています。



糸吉了一さんのネーム
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ちば アタリ程度でいいよと言ったんだけれど、とても子供らしい手を描いてくれました。それと、背景にさりげなく、ひまわりのシールのようなものがガラスに貼ってある。幼稚園に行くと、だいたいこういうのがあるんだよね。私も描けばよかったなあと思いました(笑)。こうやってさりげない背景を描きながら雰囲気を出す、というのもとても大事です。



清水痎升さんのネーム
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ちば 昔はありませんでしたが、今はこうやって、「夕焼け小焼け」かなにかの音楽がスピーカーから流れますよね。それで夕方であることを表している。ホースで砂場に水をジャバジャバと流し込んでいますが、子供って、こんなふうにすぐ穴をあけて水をためたり、その中に手を突っ込んで泥だらけになったりしますよね(笑)。そしてこの水に、少年の涙を重ねている。そういうところがうまいなと思いました。



灘優貴さんのネーム
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ちば みんな自分の幼稚園の頃の体験を思い出しながら描いているのだろうと思いました。これもその中の一つですけれど、砂場で遊ぶと、爪の中が真っ黒になるんですよ(最後のコマ)。砂が入っちゃってなかなかとれない。しかも、この子はたぶん、毎日毎日、お母さんが帰ってこない間は砂場で遊んでいて、常に砂が爪に詰まっているのだろうな、ということも表しているように思います。



北森サイさんのネーム
※クリックまたはタップで拡大表示になります。



ちば 友達は楽しそうなのに、どうして自分だけこんなに寂しいんだろう……という気持ちがあって、せっかく作った山を「どかーん」と蹴とばします。その後、お母さんが帰ってきて今度は「どかーん」と言ってお母さんに抱きつく。「どかーん」を重ねたところが面白かったですね。その前に出てくるてつやの寂しそうな表情もよかった。みんな、プロですねえ。表情を見てグッとくるものも多かったです。



小森江莉さんのネーム
※クリックまたはタップで拡大表示になります。



ちば 寂しくて、てっちゃんがぐーっと空を見上げます。その時後ろから『てっちゃん!』と声がかかる。そうすると、子供っていうのは頭が重いから、このまま後ろに倒れてしまうんですねえ。これは使えたなあと思って、私は、ちょっと悔しかった(笑)。








近日公開予定の後編では、
一本木蛮さん、おざわゆきさん、森川ジョージさんのネームを公開!
また、受講生とちば先生、お三方との質疑応答も必読です!



第72回ちばてつや賞、締め切り迫る!

2017年度後期・第72回ちばてつや賞一般部門の応募受付は、まもなく8月31日(木)締め切りです!(当日消印有効/ウェブ応募は同日23時59分まで受け付け)

応募要項等の詳細はこちらのインフォメーションページをご覧ください!


ネームを紹介した受講生のプロフィール

西本のりあき(にしもと・のりあき)

兵庫県出身、在住。24歳。モーニングゼロ2016年6月期にて『AI』で期待賞受賞。2016年後期・第70回ちばてつや賞一般部門にて『先生失格!』で奨励賞受賞。現在、新作を執筆中。

糸吉了一(いとよし・りょういち)

千葉県出身、在住。26歳。2015年前期・第67回ちばてつや賞一般部門にて『誰も知らないブルース』で佳作受賞。「Dモーニング新人増刊2015夏」に『ふぞろいの家』が掲載。現在、新作を準備中。

清水痎升(しみず・かいしょう)

群馬県出身、東京都在住。22歳。モーニングゼロ2017年4月期に応募、惜しくも選外。アルバイトをしながら入賞~連載を目指して奮闘中。現今のマンガのメインストリームに背を向け、ひたすらわが道を歩む異才。

灘優貴(なだ・ゆうき)

鳥取県出身、東京都在住。24歳。第3回THE GATEにて『おとろし』が奨励賞受賞。現在、新作を準備中。

北森サイ(きたもり・さい)

北海道出身、埼玉県在住。50歳。2014年後期・第66回ちばてつや賞一般部門にて『泣き虫とうさん』で大賞受賞。2016年1月より月刊「モーニング・ツー」にて『ホカヒビト』を連載、単行本全②巻発売中。現在、新作を準備中。

小森江莉(こもり・えり)

京都府出身、東京都在住。25歳。モーニングゼロ2016年9月期にて『織り職人のしごと』で期待賞受賞。第4回THE GATEで編集部賞受賞。受賞作『アビの日』は「モーニング」2017年24号に掲載。現在、「モーニング」での連載を目指し準備中。
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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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