門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【14限目】 第5回THE GATE審査員・大今良時さんインタビュー(前編)(2017/05/17)

全受賞作品を「モーニング」月刊「モーニング・ツー」「週刊Dモーニング」のいずれかの媒体に掲載する“超実戦型”の新人賞が【THE GATE】です。

ただいま応募受け付け中の第5回から新たに審査員を務める鈴ノ木すずのきユウさん(「モーニング」にて『コウノドリ』連載中)と大今おおいま良時よしときさん(「週刊少年マガジン」にて『聲の形』を連載。現在『不滅のあなたへ』連載中)のお二人に、5月末の応募締め切りを前にインタビューを敢行!

今回は、小学生時代から漫画を描き始めていたという大今良時さんが、デビューに至るまでの経緯、新人時代に「やっておいたほうがいいこと」、そして前回の鈴ノ木ユウさんの発言(前編後編)を受けてキャラクターの「行動原理」についての考え方を語ってくれました。



キャラクターの気持ちを、しっかりと咀嚼しなければいけない

——審査員をお願いしたいという話がきた時はどう思われましたか?

大今良時(以下、大今) 人前で話すことがあまり好きではないので、授賞式が厳かな雰囲気のものだったらやりたくないなあと思ったのですが……モーニングの新人賞の授賞式はくだけた雰囲気だと聞いたので、それならと引き受けました。

——審査員をご一緒される鈴ノ木ユウさんに先日お話を伺ったのですが、大今さんの『聲の形』をすごいと思った、というお話をされていて。漫画を描くときは、「『この人(キャラクター)は、本当にこういうことを言うのか?』ということを、常に自分に問うてOKを出さなければいけない。大今さんは、その部分のジャッジがすごく厳しい方なのではないか」とおっしゃっていました。

大今 なんだか……そんなふうに言われると、そうです! と言いたくなってしまいますね。むしろ、そこに注目して、そんなふうに考える鈴ノ木さんがすごいです。どうなのでしょう、確かに「このキャラはこんなこと言わないだろう」と思ったりすることはあります。

——やはりそうなのですね。

大今 キャラクターの気持ちを、しっかりと咀嚼しなければいけないと思っていて。ストーリー上はこうしたほうが読者に喜ばれるとわかっていても、「このキャラはそれはやらない」と思うことがあります。「きっとこうする」「こう言う」より「これはやらない」「言わない」と思うことが多いですね。

——ストーリー上はそうしたほうが通りがいいとか、読者が喜ぶかもしれないと思っても、そのキャラクターのことを考えて「やらない」と思ったら、そっちを選ぶということですね。

大今 はい。『聲の形』の石田は、私に近いキャラクターなので、自分と同期しやすいし、描きやすくはありましたね。主人公の心の動きが物語になるので、ストーリーラインも作りやすかったですし。
『聲の形』より。右が石田将也。小学生時代、耳の聞こえない少女・西宮硝子にしたことを悔い、手話を覚え、5年後、西宮に会いに行った。



大今 でも今描いている『不滅のあなたへ』の主人公のフシは、考えることができないキャラで。

——確かに、今のところ自分の意思はなく、誰かを写し取っていくのみですよね。

大今 マーチも考えないキャラですね。まだ幼く、欲に従って動くので。そういうキャラを描くのは難しいです。読者からしたら読み応えのない感じになるとも思っていて。考えることができないということは、能動的に動くことができないということで、ストーリーを動かせないということ。外的な事件とか出来事に乗っかったり、抵抗したりすることしかできない。今、それがつらいのですが。
『不滅のあなたへ』より。主人公・フシ(左)と、物語序盤でフシと共に旅をする少女・マーチ(右)。フシは、この時は人間の少年の姿をしているが、さまざまな生き物の姿を写し取り、変化する。



——なるほど。主人公の気持ちを追うようにストーリーを進めていく、ということができないんですね。

大今 はい。それに読者は、無意識にハッピーエンドを求めていて。たとえば男と女が出てきたら、無意識に二人がくっつくことを求めますよね。このキャラの頬を赤らめるとか、チューさせるとか、人が死ぬとか……そういう読者に喜んでもらえる「方程式」みたいなものもあることはある。確かに、自分も読者として読んでいる時は、そこに興味が行ってしまいます。でも描く時には、そこで立ち止まって考えないといけない。「本当にこのキャラはこういうことをするのか」っていうところと、読者の求めるものとが、ぶつかるのだと思います。

——このキャラはそういうことをするな、と思えたら読者の期待に応えられる場合もあるけれど、どうしてもやらないと思ったら描くわけにはいかない、ということですよね。鈴ノ木さんは、「本当にこのキャラはこういうことをするのか」を考えるのが一番「しんどい」と表現されていたんですが、大今さんにとってもしんどい作業ですか。

大今 しんどいです! 特に担当さんと意見が食い違った時はさらにしんどいですね。担当さんは人気を取るための方程式を知っているので、それはすごく参考になります。でも、そことぶつかる時がある。



作家は、自分の漫画を守らないといけない

——新人の場合、担当さんとのそういった意見のぶつかり合いやつき合い方をどうしていけばいいんだろう、という悩みがあると思うのですが。

大今 ちゃんと意思表示をしたほうがいいですよね。「ええ~っ」とか「うーん……」とか、ちゃんと言ったほうがいいと思います。私も最初のころは「担当さんの言うことは正解」だと緊張でカチコチに固まっていました。でもそれでは自分の意志を見失う。作家は、自分の漫画を守らないといけない。もちろん担当さんの意見を聞けば、もっと面白くなる場合もあるので、難しいのですが。

——いつ頃からちゃんと自分の意見を言えるようになりましたか?

大今 私の場合は、最初の担当さんが「僕の言うことが『違うな』って思った時は、理由がわからなくてもいいから『違う』って言っていいんだよ」と言ってくれて。すごく楽になって、それ以降「違う」と思ったら「違う」と言うようになりました。最初の頃って、なんでも「わかりました!」「はい!」になってしまいがちなのですが、そうなってしまうのは、やはりキャラクターのことがよくわかっていないからなのだと思います。

——先ほどの「本当にそうするのか」という話につながりますね。

大今 そうですね。何をするかしないか、キャラの行動原理が理解できていないと、何も言えない。理由があるから行動するのに、ここで主人公が勝つと面白いからそう描いた、ということだけだと、担当さんを説得できません。

——行動原理がわかっていたら、担当さんに自信を持って説明できますもんね。

大今 そう思います。「このコマ、余分じゃない?」と言われても「いや、このキャラは、この瞬間に気づきがあったのです」と説明できたら「ああ、そうなのか」とわかってもらえます。キャラの全部の行動を説明できるようになっておけばいいと思います。最初の頃は担当さんにどうやったら勝てるかを考えていましたね。担当さんが漫画を描くわけではないので、作家が言葉で解説できないと、打ち合わせもしにくいと思います。
『聲の形』単行本②巻のカバーに使用されたカラーイラスト。



小学生の時にはこれをやって、中学生の時にはこれをやって……と考えていた

——大今さんは、子供の時から漫画家になろうと思っていらしたのですか?

大今 そうですね。ただ漫画家になりたいから漫画を描こう、と思ったわけではなくて、漫画を描くほうが先だったのですけれど。 小さいころから家にあったA4のコピー用紙を半分に折って、本のような形にして、コマ割りをして、いきなりペンで一発描きの漫画を描いていました。10歳くらいの頃ですかね。

——誰かに見せたりしていましたか?

大今 友だちや母親に勝手に見られたりはしていましたね。周りに漫画を描いている人もいたのかもしれませんが……見せ合ったりするような雰囲気ではなくて。家族からも特に干渉されなかったので、完全な自己満足の漫画です。

——そこから自然に漫画家になろう、と思うようになっていったのでしょうか。

大今 漫画家に憧れてはいましたね。漫画家になるための知識……というか漫画を描くための知識を蓄える前に、描き始めていたので、漫画を見ながら「どうやったらこのテンテンを描けるのだろう?」と、スクリーントーンを見て思ったりしていました。

——どうやって描き方がわかるようになったのですか?

大今 本屋さんで原稿用紙を見て、ああこれに描くのだなとか、わかるようになりました。でも小学生にとっては原稿用紙も高いので、特別な時以外は極力使わないようにしていましたね。

——漫画を人に見せるようになったのはいつですか? 早いうちから投稿や持ち込みもされていたのでしょうか。

大今 早くプロになりたかったので、高校生になってからは持ち込みや投稿をするようになりました。それまでは自分から進んで誰かに読んでもらうことはしませんでした。漫画を友達に見せたいという気持ちはなかったので。

——では中学生時代もコツコツ自分で描き続けていた?

大今 はい。ただ美術部に入っていたので、人に見せて恥ずかしくない絵を描こうとはしていました。私の学年は、部員が私一人でした。何か特別な理由がない限り、全員運動部に入らなければいけないルールだったのですが、私は美術部に入って絵を描きたかったので、先生に美術部に入ることを認めてもらいました。

——中学生が、そういう主張をするのって勇気がいると思うのですが……どうしてできたのでしょう。

大今 よく覚えてないのですが、そんなに勇気のいることだとは思っていなかった。運動みたいに興味がないものに時間を費やしたくないと思っていて。漫画に限らず、とにかく絵を描きたかった。小学生のうちにできることをやって、中学生のうちにできることをやって……といつも思っていました。その時々で残したいですよね、作品を。そういう価値観でやっていましたね。

——小学生の時からそんな意識があったのですか!

大今 小学生の時から雑誌にイラストを投稿し始めたのですが、掲載された名前の横に年齢も載りますよね。「10歳でこんなに描けるのか!」と思ってもらいたくて、投稿していたようなところはあります。

——10歳で雑誌掲載……それはかっこいいですね。

大今 ファンレターも頂いたりして、嬉しかったです。ただ中学時代は漫画というよりは、そういう「うまい一枚絵」を描きたいと思っていました。画力に関心がありましたね。

——はじめて投稿用に漫画を描いたのはいつですか?

大今 高校2年か3年の時だと思います。

——それがプロデビューするために描き上げた初めての作品だったわけですね。作品作りはどうでしたか?

大今 難しかったです。漫画に描けるような知識は何もないですし。なので、ファンタジー作品を描いていました。頭のなかにある情報で描けるので。

——知識が必要な作品も、本当は描きたいと思っていた?

大今 うーん、知識が必要な瞬間がいつか来るだろうな、とは思っていましたね。例えば警察の漫画を描こうと思ったら、どういう役割の人がいるのかとか、制服のこの部分はどういう機能を持っているのかとか、そういう知識が必要になるだろうと。

——先ほどおっしゃっていた、「小学生のうちにできることをやって、中学生のうちにできることをやって……」という発言もそうですが、ちょっと自分の人生を俯瞰で見ているような、客観性がありますね。

大今 そうなのでしょうか。大人になればもっとできるだろうな、という感覚ですよね。今はできていないけれど、あと10年くらいたったらできるようになっているだろうと。実際できるようにはなっていないのですが。

——自信みたいなものもあったのかもしれないですね。今これだけやっていて、ここまで描けているから、10年後はこうなれるだろうと。

大今 自信というか、楽観視していたのだと思います。




大今良時さんに、あなたの漫画を読んでもらえるチャンスです!

第5回THE GATEは、5月31日(水)締め切りです!(当日消印有効)

応募要項等の詳細はこちらのインフォメーションページをご覧ください!
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プロフィール

門倉紫麻(かどくらしま)
漫画ライター。
1970年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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