門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【11限目】 特別インタビュー「僕が“森川ジョージ”になるためにやってきたこと」(4/4)(2016/10/11)

「週刊少年マガジン」にて、連載開始より今年で27年目を迎えるボクシング漫画『はじめの一歩』を連載中の森川ジョージさん。森川さんは、4歳の時から「ちばてつやになる」と決めて漫画家を目指していたという。

ちばさんに会うために「ちばてつや賞」の授賞式にもたびたび出席される森川さん(ご自身はちば賞出身ではありません)。その席で受賞者に、ちばさんの逸話やご自身のお話をしてくださるのですが、それがあまりに面白く、漫画家を目指す新人さんにぜひ聞いてほしい内容だったので、このたびインタビューを敢行しました!

小学3年生から「連載漫画」を描き、自ら「読者アンケート」を取るなど、漫画家になるための「戦略」を練り続けていたという森川さんの言葉には、すぐ真似したい「漫画家になるための具体策」が満載です!!

また、森川さんの漫画家人生を変えた、ちばさんの「ある言葉」も必読!

取材時間2時間半、2万字超えの大ボリュームで全4回にわたりお届けします!!(第1回第2回第3回

写真=関根虎洸



【第4回】
キャラクターは「作る」んじゃない。
いる中から「選ぶ」んだ


主人公のキャラクターは3種類しかない

——前回、森川さんの漫画の描き方は、「キャラクターたちが勝手に世界を作り上げていくから、自分はタイムマシンに乗ってその先の世界を見て、それをわかりやすい形で紙に落としていくだけだ」とおっしゃっていました。そうすると、漫画を描くうえで、まずはキャラクターを作りこむことが大事なのでしょうか。

森川 編集者はよく「漫画はキャラクターが勝負だ」とか「キャラクターを作りこみなさい」とか言いますが、全部間違いですよ。

——どうしてですか?

森川 少年漫画に限れば、ですけど、主人公のキャラクターは3種類しかない。気の弱い子。普通の子。出てきた時から強い天才。この3つしかないわけだから、どれか一つを選べばいいんですよ。みんな差別化しようと思ってキャラクターを作りこむから、「こんな人いねえよ」っていう人物になってしまって、読者には嫌われるの。

——それでいうと、『はじめの一歩』の主人公・一歩くんは、「気の弱い子」ですね。

森川 そうですね。「そういえばあいつ、教室のあそこにいるな」みたいな存在。実際、「いる」んですよ。主人公は、いるやつから選ばなきゃいけないんです。それなのに自分で作ろうとして、奇怪な人物になっちゃうわけですよ。そんなキャラクターがウケるわけがない。少年誌しか分析していないですけど、主人公は少年の読者が等身大で感情移入できるキャラクターを選ぶべきなんです。

——作るのではなくて、いる中から「選ぶ」んですね。

森川 読者が自分の横にいてほしいと思う人、自分がなりたいと思う人が主人公。奇怪な人物は脇に置くべき。そうすると、主人公がその奇怪な人物に出会って、へんなリアクションをしたりして、漫画はおもしろくなっていく。一歩の場合は、鷹村みたいな奇怪な人物に出会ったことで、変わっていった。キャラクターはスタンダードでいい、っていうのが、今の僕の持論です。……ちょっと今、キャラクターを作りましょうか。僕が言ったことに答えてくださいね。「ねえねえ」。

——は、はい。

「ねえねえ」(隣にいる女性編集者に)

——はい!

「ねえねえ」(カメラマンに)

——はい。

森川 今、3人とも声のトーンが違ったでしょう。1人目は意図がわからなくて恐る恐る答えた。2人目は、自信満々に答える。3人目は男の人だから低いトーンの声で答える。これがキャラクターです。このリアクションの違いをキャラクターにすればいいだけ。『一歩』だったら、「青木!」って呼べば青木は「ヘイ!」って答えるし、「木村!」って呼んだら木村は「なんすか?」って答える。一歩は「はい!」って答えるよね。それだけでいい。こねくり回すとダメになっちゃうんです。

——この方法はすごいですね……! 漫画を描いている人は、すぐに実践できそうです。

森川 『あしたのジョー』の矢吹丈だって、普通の子なんですよ。ただいろんな過去があって、ちょっと曲がっちゃってるだけ。それが丹下段平っていうもっと曲がったやつに出会ったことで、どんどん人生が狂っていくわけですよ。丹下段平に出会わなければ、ジョーは鑑別所にはいかなかった(笑)。
『あしたのジョー』第1巻より。矢吹丈(ジョー)と丹下段平の出会いのシーン。ジョーの軽やかな身のこなしを見た段平が、自分と組んでボクサーとして一旗あげることを持ち掛ける。
『あしたのジョー』©高森朝雄・ちばてつや/講談社



——まさに、主人公が奇怪な人物に出会ったことで、ストーリーが動いていった例ですね。

森川 これは新人さんにはためになるんじゃないかなあ。出会わせるのは人物じゃなくて事象でもいいんですよ。ボクシングに出会った時に「やる」って言うかもしれないし、「やらない」って言うかもしれない。それがストーリーです。



「世界観」を描くのか、「キャラクター」を描くのか

——森川さんの創作方法のお話、非常にシンプルでわかりやすいです。

森川 そうですかね。僕ね、漫画には2種類あると思っていて。もちろん多様性があるから決めつけてはいないですよ。今の、僕の意見というだけです。「マガジン」の漫画のタイトルをいくつか言いますね。『あしたのジョー』『七つの大罪』『フェアリーテイル』『はじめの一歩』。どんな違いがあるかわかりますか?

——キャラクターの名前が入っているものと、入っていないものに分かれていますか……?

森川 そうそう。名前が入っていない漫画は、世界観を描こうとしていると思うんです。『フェアリーテイル』は主人公より「ギルド」という世界のほうが目立っている。だけど、『あしたのジョー』みたいに主人公の名前が入っているものは、主人公が目立つんですよ。

——おおお……本当ですね!


森川 ちばさんの作品は、『紫電改のタカ』『のたり松太郎』みたいに、ほとんどの作品に名前が入ってるんです。『あした天気になあれ』の主人公の名前は太陽だから「天気」は太陽のことでしょう。『はじめの一歩』もしかり。そうすると、キャラが生きる漫画になっていく。『島耕作』がいい例ですよね。あと『タッチ』はタッちゃんの話でしょう。これ、僕の研究成果です(笑)。『フェアリーテイル』や『七つの大罪』は世界観を楽しむ漫画ですよね。絶対にその2択というわけではないんですけど、結構タイトルで判断できるんです。

——タイトルをつける時に、その人の嗜好が無意識に出てしまうということなのでしょうか。

森川 そうだと思いますよ。ちばさんは主人公の一生を描こうとしているんだと思う。ちばさんの漫画で最終回があるのって、『紫電改のタカ』と『あしたのジョー』だけなんです。あとは最終回がない。なぜかっていうと、その2作は主人公が死んでいるから。だけど『のたり松太郎』とか『おれは鉄兵』は主人公がまだ生きて、人生が続いているから最終回はない。いったんここで終わるよ、というだけ。あの人は、人生を描いているんです。

——自分が世界観を描きたいのか、キャラクターを描きたいのか、どっちのタイプなのかを、タイトルをつけることで発見できるかもしれないですね。

森川 タイトルをつけるのって重要なんですよ。でも、何気なくできるものでもあって。『はじめの一歩』っていうタイトルも何気なくできた。最初、ネームが通った段階では一歩は「純」っていう名前だったんですよ。幕之内純。ドラマの『北の国から』の純くんの性格が反映されているから。

——なるほど。ナイーブな感じで、敬語を話しますし。

森川 あとぐじゅぐじゅしている感じというか(笑)。でも純じゃダメだよね、ってことで担当編集と考えていた時、『一歩二歩三歩』だったかな……そんなタイトルの本がぱっと目に入って、「一歩ってどうですかね?」と僕が言って、主人公の名前は一歩に決まった。そうすると、タイトルはもう『はじめの一歩』になっちゃいますよね。

——今となってはこのタイトルしか考えられないですよね。いろんな意味を含んだ、とてもいいタイトルです。

森川 そうなんですかねえ。ウケた漫画はね、そう言われるんですよ。強いやつが勝つんじゃなくて、勝つやつが強いんですよ。



若者の未来には希望しかない

——森川さんは毎回ちばてつや賞の授賞式にも来てくださったり、新人の作家さんに会う機会も多いと思うのですが、最近の若手作家や新人作家を見ていて、どうお感じになっていますか?

森川 常に僕は、若者のほうがすばらしいと思っているんですよ。だから、「最近の若い奴らは……」って誰かが言っているのを聞くと「先に生まれただけで威張るんじゃねえよ!」って思う。

——その言葉は、森川さんの人生においてかなり重要なキーワードですね。

森川 いやあ、ほんっとうに思うの。よくさ、ジジイ連中が「なんだ、スマホばっかり見て!」とか言うでしょう。馬鹿言うなって思うよね。昔のラッシュ時の駅の写真とか見ると、みんな新聞広げて、たばこを吸っていて、よっぽど迷惑だよって思う。今はたったこれだけ(スマホ分)のスペースで済んでるんだから。

人って、どんどん良くなっていると僕は思う。だから漫画家もどんどん良くなっていると思う。技術も上がっていると思うし、漫画家になる人の分母が増えてるから、いい漫画家も増えていると思うよ。昔のほうがよかったって言うやつもいるかもしれないけど、昔『進撃の巨人』ほど売れた漫画が講談社にありましたか?って訊きたい。集英社の『ONE PIECE』なんて、今までの漫画の中で一番売れているわけでしょう。それにこれから、『進撃』『ONE PIECE』を抜く子たちも出てくると思う。常に若い子が偉いんです。

——漫画家になりたいと思っている若者たちに、エールをお願いできますか。

森川 若さだけでポーンと世間に出ていくのは恥でしかない、とは言ったけど、でもね、未来は何も決まってないじゃない。ということは、希望しかないってことなんだよね。若者には、それがあるよねって思う。失敗するかもしれないけれど、失敗しかないとも決まっていない。何も決まっていないんだから思い切りやってほしいなと思います。もしかしたら、ボクシングで言うところの、世界チャンピオンになれるかもしれないんだから!

——やる気が出るお言葉ですね!

森川 でも……ボクシングではね、ジムに入ってきたばかりの子がぴょっとパンチを打った瞬間に、成功するかどうかわかったりするんだけど(笑)。でもあとで化ける子もいるからね! 一番大事なのは、がんばることですよ。トレーナーだって、ボクシングセンスのある人間より、その隣でもくもくとシャドウをやっているような子に「がんばれよ!」って思うものだし。


——漫画もそうなのでしょうか。パッと見て成功する子かどうかがわかりますか?

森川 わかる。それはわかる。申し訳ないけど、ぴょっと線を引いただけでわかるんですよ。僕が19歳で初めて週刊連載をした時に、同じくらいの年代の人をアシスタントにお願いしますって頼んでおいたら、18歳の、日芸(日本大学芸術学部)の学生が来たの。僕が描いた見本を渡して描いてもらったら、明らかに僕よりうまくて。なんじゃこら! と。それが、三浦建太郎だったの。

——『ベルセルク』の!

森川 うん。もうね、すぐ違うなってわかるよ。あと、『一歩』の助っ人で来てくれた子に、観客席にいる人たちを描いてもらったことがあって。普通はハンコで押したように、どのコマも同じような感じで描くんだけど、その子は一歩がバーンって叩くと、観客の顔もその方向に向くの。一歩が打たれたら、観客もウッていう顔になっているところを描く。この子はもう、ここにいてアシスタントをしていたらダメだと思って、すぐその日の分のお金を渡して「帰りなさい」って言った。自分の漫画を描きなさい、って。それが曽田正人(代表作『昴』など)だった。

——えーーっ!

森川 のちの三浦建太郎と曽田正人(笑)。三浦くんにも同じように言って帰ってもらったんだけど、「少しお話ししたい」って言うから、「こっちのほうが話したいよ!」って思ってね。大学帰りでスケッチブックを持っていたから見せてもらったら『ベルセルク』の前身になるような絵が描いてあってさ。「いつか力をつけたら、これを描こうと思ってるんです」って。それから15年くらいして『ベルセルク』が始まるわけ。すげえなこいつ!って思った。申し訳ないけど、センスのあるやつは一発でわかるんだよ。



漫画家同士はケンカしなきゃダメなんだ!

——だからと言って、センスがない人はダメ、というわけではないですよね。

森川 うん。こうやって(自分を指して)化けるやつもいるから。ただ僕も15歳で出てきた時は天才って言われたんだけど(笑)。

——当時、「マガジン」編集部では「天才少年が来たぞ!」と話題になったと聞きました。

森川 もう、本当にこう(鼻を高くするポーズ)だったもん。あのね、あだ名が「天狗様」だったの。

——(一同爆笑)

森川 ああ、笑われちゃった……。ちょうど、「マガジン」が上昇気流に乗っていたころ。僕が『一歩』でずっと1位を獲っていたから「戦う相手がいなくて退屈だ」って言ってたの。小林まことさんとか、しげの秀一さんとか、楠みちはるさんとか、先輩にかみつくつもりでいたんだよ。でもね、力をつけてリングに上がった時には、もうみんな大体「マガジン」を卒業する直前か、しちゃったあとだったんだよね。「やっつけるリストのやつらがいねえ!」と思って(笑)。

その頃、ちょうど「ジャンプ」では『スラムダンク』と『ドラゴンボール』が終わるところでね。僕、その情報をちょっと早めに聞いていたから「今だ!」って思って。「マガジン」のほかの作家たちに「今なら日本一の雑誌になれそうだから、一緒に『ジャンプ』をやっつけようよ!」って言ったんだよ。

——熱いですね!

森川 僕は「マガジン」で1位だったけど、それじゃつまらないと思っていた。「マガジン」を日本一にしてから1位を獲ったら、日本一の作家ということでしょう。だから「誰が日本一の漫画家か決めよう!」って言ったんだよ。そうしたら、友人の作家さんが僕に「天狗様だね」って(笑)。もうおめえらなんかあてにしねえ!って思った(笑)。

で、「何かいい連載が始まればいいのに」と思って待っていたら、『金田一少年の事件簿』と『GTO』が始まってどーんと売れた。僕も1位を獲り続けようと思ってがんばって……そうしているうちに「マガジン」が日本一になったんだよね。やっぱり漫画家同士はケンカしなきゃダメなんだよ。

——森川さんに、ようやく『金田一』や『GTO』というケンカ相手ができたんですね。

森川 新人同士とか、アシスタント同士は仲良くなったらダメなんだよ。自分より上の人間とだけ話したほうがいい。アシスタント同士で飲みに行くなんてもってのほかですよ。なんの勉強にもならない。先輩の話を聞いて、「こうやって戦っているんだ」って気持ちを引き締めるほうがおもしろかったなあ。パーティも行かなかったしね。行くのは売れている人だけでいいと思ってた。お前らが飲んでいる間、僕は描いてるからな!って。真島(ヒロ・代表作『フェアリーテイル』など)と寺嶋(裕二・代表作『ダイヤのA』など)と話した時も同じような感じだったよ。彼らには、やっぱり気概があるよね。


——本当にいいお話を、たっぷりうかがうことができました! ありがとうございました。

森川 こんな感じで大丈夫? ちょっと僕、気ィ強すぎるよね(笑)。

——いえいえ、漫画に対する熱さを感じました!! 新人作家がすぐに試せそうな、実践的なお話もたくさんしていただきました。

森川 ああいう話は、本当はちゃんと黒板に書いて、コマ割りはこうで、演出はこうで、って話さないといけないんだけど……ただ話すだけじゃ伝わりにくいから。

——ではぜひ今度、新人作家に向けた講義をやってください!

森川 いやいや(笑)。「漫画とはこうだ」とか言い切るのはすごく怖いんですよ。ながやす巧さん(代表作『愛と誠』など)に初めて会った時に、ぽろっと「最近ようやくGペンの使い方がわかってきたんですよ……」って言われてね。うそーん!と思って。ながやすさんは、もう70歳近い大ベテランなのに! ながやすさんもちばさんに憧れて漫画家になっているから「じゃあ我々は兄弟弟子ですね!」みたいな話をしていたらそういう話になって。たぶんながやすさんは、絵が日本一うまい漫画家だと思うんですよ。そんな人がそう言っているのに、俺は何を天狗になってたんだ!って思いましたね。

あとね、1年くらい前に「月刊少年マガジン」の企画で、ちばさんとニコ生に出たんです。僕が「ちばさん、いつ死ぬかわからないんだから、今後のために漫画の描き方みたいな教材を書いてくださいよ!」って言ったら、ちばさんがまじめな顔をして「僕、漫画のこと、全然わからないんだよね。わからないことを人に教えられないじゃない」って言うの。重鎮たちがそういうことを言うから、僕にはまだ、漫画がわかったようなことは言えません(笑)。



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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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