門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【10限目】 特別インタビュー「僕が“森川ジョージ”になるためにやってきたこと」(3/4)(2016/10/07)

「週刊少年マガジン」にて、連載開始より今年で27年目を迎えるボクシング漫画『はじめの一歩』を連載中の森川ジョージさん。森川さんは、4歳の時から「ちばてつやになる」と決めて漫画家を目指していたという。

ちばさんに会うために「ちばてつや賞」の授賞式にもたびたび出席される森川さん(ご自身はちば賞出身ではありません)。その席で受賞者に、ちばさんの逸話やご自身のお話をしてくださるのですが、それがあまりに面白く、漫画家を目指す新人さんにぜひ聞いてほしい内容だったので、このたびインタビューを敢行しました!

小学3年生から「連載漫画」を描き、自ら「読者アンケート」を取るなど、漫画家になるための「戦略」を練り続けていたという森川さんの言葉には、すぐ真似したい「漫画家になるための具体策」が満載です!!

また、森川さんの漫画家人生を変えた、ちばさんの「ある言葉」も必読!

取材時間2時間半、2万字超えの大ボリュームで全4回にわたりお届けします!!(第1回第2回

写真=関根虎洸



【第3回】
漫画家は、タイムマシンを持っている


無言で去っていく一歩を描いた時、初めて連載が続くかもしれないと思った

——『はじめの一歩』の1話目でアンケートの1位を獲り、手ごたえみたいなものは感じましたか?

森川 いやあ、まったく。だって一番信用できないのは自分なんですよ。4歳から漫画家を目指してきて、この時23歳ですから、20年間も漫画の勉強をしてきたことになる。それなのに、全然通用していなかったんですよ。努力はしてきたけど、僕は才能を持っていないんだとわかってしまった。2話目以降も自信はなかったですね。2話目に出てくる宮田くんなんて、一歩のスパーリングの相手で終わるはずでしたから。

——ところが宮田くんは、一歩の長きにわたる重要なライバルになっていきますね。

森川 そうそう。2話目が7位だったから、ああこれは打ち切りだと思っていたんですよ。今までそんな順位になってから上がることはなかったから。打ち切りになったら、僕、アシスタントの腕はあるからそれで生きていこうって思っていた。すでにそのとき子供もいたけど、2~3件兼務すれば大丈夫かなって(笑)。そうしたら3話目が3位で4話目も3位で、5話目で1位を獲るんです。宮田が一歩のリングシューズを選んであげる回(7話目)で、もっと数字が跳ね上がった。これで宮田がすごく人気だということがわかって。だったらこれからも宮田くんを描こう! と思った。読者が喜ぶところを徹底的に描くわけですね。
『はじめの一歩』第1巻より。鴨川ジムに入り、初めてリングシューズを買いにスポーツ用品店に行った一歩。騙されて高いシューズを買わされそうになるが、たまたま居合わせた宮田が一歩に適したシューズを選んでくれる。宮田の意外なやさしさが、ファンの心をつかんだ。



——ずっと読者が喜ぶことを第一に考えていらっしゃった、森川さんらしい判断ですね。

森川 そうですね。『一歩』って、ボクシングに詳しい方ならわかると思うんですけど、ボクシングのシーンでは僕が好きなところは描いていないんです。

——そうなんですか。

森川 本来のボクシングは、ただパンパン! と打っているようでも、よく見るとフェイントが入っていたりするんですよ。わざと相手に自分の都合のいいところに打たせるように動いて、そこに打ってきたところで、パカーン! と打つ、とか。僕はボクシングオタクですから、本当はそういうところが描きたい。でも「マガジン」の読者の中で、ボクシングに詳しい人なんて少ししかいないから、そういう読者に向けて描いたらまた打ち切りになるわけです。だからマニアックな部分を描くのは捨てました。それで『一歩』は人間漫画になっちゃったわけですよね。

——まさに人間漫画ですよね。とにかくキャラクター一人一人が魅力的ですし、その関係性を見るのが楽しい作品です。

森川 ボクサーたちは、実際にいそうなやつらばっかりなんですけどね。
『はじめの一歩』第9巻より。1コマ目右から、鷹村、木村、青木。鴨川ジムで一歩と共にボクシングに青春を懸ける仲間たち。「いつもジムの誰かと誰かが話し合っていますよね。話し合いで進んで行く漫画だなと思います」(森川さん)



——キャラクターを魅力的に描こう、というのは意識されていたんですか。

森川 そんなわけないじゃないですか(笑)。宮田だって偶然だし、青木(一歩と同じジムの先輩)なんて、最初は「青木がやられたー」っていうセリフだけが出てくるんですよ。僕はそのセリフを自分で書いたにもかかわらず、「このジムには青木ってやつがいるらしいぞ」と思ってあのキャラを描いた。後付けですよ。

——あんなに濃いキャラが後付けだったんですね……。

森川 何話続くかわからなかったですしね。あ、でも連載が続くかもしれない、と思った回はありますよ。

——どの回ですか?

森川 宮田と間柴(ヒロイン久美の兄で勝利への執着心が強い選手)が新人王戦で当たる回があるんです。8、9巻くらいで。

——東日本新人王トーナメントの準決勝で対戦していますね。

森川 僕は、準決勝では宮田が勝って、決勝で一歩と当たって、最後は一歩が優勝して終わる、と思っていた。

——全9巻ぐらいで『一歩』は完結するかもしれなかったんですか!?

森川 でも、準決勝で宮田が間柴に負けちゃったから……予想してなかったんですよ、自分でも。あのあたりは、ちょっとストーリーが生き物みたいになっていて、勝敗すらわからなかった。担当編集が何かのタイミングで「準決勝で間柴が勝ったらおもしろいよね」って言っていたことがあって、それがずっとひっかかってはいたんです。宮田と間柴それぞれの練習量と気持ちを天秤にかけて試合を描き始めたら、「あ……宮田、勝てない」って感じになってきたんです。で、宮田が負けた。間柴の反則で負けるんですけどね。その試合を見ていた一歩が、自動販売機をガーンって殴って、後ろ姿で去っていくシーンを描いたんですよ。
『はじめの一歩』第9巻より。医務室で、間柴に負けた宮田の様子を見た一歩は、やりきれない気持ちで思わず自動販売機を殴ってしまう。そして一人、静かに後楽園ホールを後にするのだった……。



森川 あれを描いたときに、「この連載を長く続けられるかな」って初めて思いましたね。それまでもすごい人気だったんですよ。アンケートもずーっと1位だったし。天狗になってはいたんだけど(笑)、全然実感がわかなくて。でもようやく続く気がするって思えた。なんだったんだろうなあ、あれ。一歩がずっと無言でね。そういうシーンって、おそらく若い漫画家には描けないと思う。……といっても僕もその時24歳くらいで、まだ若かったんだけど。

——でもキャリアは20年ですからね。

森川 そうだね(笑)。僕はずっと、ちばてつやは『あしたのジョー』を20代で始めたというのを気にしていたから、自分も『一歩』を20代で始められてよかったです。ちばさんのデビューは17歳で、僕も17歳なんですよ。かぶっているから、比べやすくて。ちばさんが「マガジン」を去ったのは55歳。僕が今50歳だから、あと5年はがんばろうと思っています(笑)。ちばさんはうちのおやじと同じ歳でね、僕とは27歳違いなんですよ。ちばさんは1月11日生まれでO型で、僕は1月17日生まれだから誕生日は1週間くらいずれちゃったんだけど、僕もO型なの。

——恋する女の子的な目線ですね……。

森川 本当にそう(笑)。でもね、1月17日は、カス・ダマト(マイク・タイソンを育てた名ボクシングトレーナー)とモハメド・アリ(伝説のボクサー)の誕生日だったんだよねえ。

——それはすごいです!

森川 僕、ボクシング漫画を描く運命だったのかなあって思いましたよ。



漫画家は、タイムマシンを持っている

——長く連載を続けてこられて、アイデアにつまったり、悩んだりした時期はありましたか?

森川 ないです。今までアイデアが枯渇するというか、ネームができないことはなかったですね。特に『一歩』では、ない。一歩くんがいて、鷹村に出会って、ボクシングに出会って。何かに出会ったときに、キャラクターたちがどうリアクションをとるか、で話を作っているので、話ができないことはない。ちばさんの本にも似たようなことが書いてあったんだけど、漫画家って、タイムマシンを持っていると思うんですよ。

——タイムマシンですか?

森川 キャラクターができあがってくると、彼らが勝手に世界を構築するんです。僕が作るのではなくて。キャラクターたちの世界があって、作者にはその世界を見る権利があるんですよ、おそらく。で、タイムマシンに乗って、彼らの世界の未来を見て、こうなっているよ、と読者に伝える。見てきたことをわかりやすく伝えるっていう作業しかしていないんですよ。だから、ストーリーは考えていないんです。よく「神が降りてきて物語ができた」って言うやつがいるけど、僕はあれはうそだと思う(笑)。

——もうあるものを紙に落としているだけ、という感じでしょうか。

森川 うん。感覚で言っているだけだから、うまく説明できないんですけどね。

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プロフィール

門倉紫麻(かどくらしま)
漫画ライター。
1970年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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