門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【21限目】 第9回THE GATE審査員・古屋兎丸さんインタビュー(後編)(2019/05/29)


全受賞作品を、「モーニング」「モーニング・ツー」「週刊Dモーニング」「コミックDAYS」「ベビモフ」「モアイ」のいずれかの媒体に掲載する“超実戦型”の新人賞《THE GATE》

第8回から審査員に就任した古屋兎丸さん(月刊「モーニング・ツー」にて『アマネ†ギムナジウム』を連載中)に、2度目の選考となる第9回の応募締め切りを前にインタビューしました! 前編からの続きです!



——『π』を始めるまでは高校の先生をしていらしたんですよね。

古屋 はい。漫画家デビューして10年くらいは二足の草鞋でした。だから漫画家はしばらく「遊び」のような感覚だったんですよ。失敗してもいいと思っていたし、遊びなんだから思い切りやろう、という立場でやっていたんですよね。だから『ショートカッツ』みたいなギャルものを描いたり、荒俣宏先生と組んでアーティスティックなもの(『裸体の起源』)を描いたり。売れなくてもいいやっていう気持ちのまま、いろんなものを描いていたのが今につながっているのかもしれませんね。

——学校の先生を辞めて、漫画家一本に絞ろうと思ったのはなぜですか?

古屋 週刊連載を始めたい、という欲求が勝ったからですね。当時の編集さんの言葉がすごく胸にささって。「古屋さんは今、32歳ですよね。週刊連載をやるなら最後のチャンスです」と言われたんですよ。多くの人が20代前半くらいまでに週刊連載を始めて、早く描くスキルを手に入れて、30歳を超えたら月刊誌に移ってゆっくりやるようになるのだから、これ以降だとそのスキルは手に入れられない、と言われて「じゃあやります!」と。人生の中で、今がチャレンジする時なのかなと思いました。





自分が飛び越えられる高さから始める

——新人のころを振り返って、あの時がつらかったな、と思い出されることはありますか?

古屋 僕は……つらいことはあまりなかったんですよ。売れなくてもいいやと思っていたので「仕事がなくてつらい」みたいなこともなくて。「1人売れっ子」なので、仕事があってもなくても勝手に描いていましたし。

——やはりそれを続けられることがすごいなと思います……。

古屋 なんか落ち着かないんですよ。描いたり、何か考えたりしていないと。特にネームを書いていないと落ち着かないですね。漫画を描く中で一番クリエイティブなのはネームなんですよ。絵は肉体労働ですから、時間が経てばできあがっていく。でもネームはゼロから生み出す作業ですから、一番おもしろいし、「こんなものが出来たんだ!」っていう喜びがある。『アマネ』なんかは、かなりその喜びがある作品ですね。自分でもこんな話見たことないなって思うんですよ。人形を作ったらそれが動きだして、その世界に自分が入ってしまう。しかもそれが自分の黒歴史のノートに書いた設定で……描いてるうちに「なんだろこれ」みたいにおもしろくなってきちゃいましたね(笑)。

——ネームが一番苦しい作業、とおっしゃる方も多いですよね。

古屋 もちろん楽ではないし「わーい、わーい」と思ってやってはいないですけど(笑)、ああでもない、こうでもないと考えて出来上がっていく作業が楽しいんです。

——編集者からダメだしをされるようなこともあまりありませんでしたか?

古屋 それもノーギャラの場所(「ガロ」)で、しかも4コマを8ページだけですから……ダメ出しも何もないというか(笑)。そのあとは隔週で4ページの連載だとか、ダメ出しされない程度のところから始めてちょっとずつページ数を増やしていった。あとは「COMIC CUE」とか自由に描かせてくれるところでやらせてもらっていて。僕がよかったのは、ド新人の時に「少年ジャンプ」とか厳しいところに持って行かなかったことですね(笑)。やさしく「いいね」と言ってくれるところ、もしくはページ数が少なすぎてダメ出ししようがないようなところでやってきた。もしいきなり「少年ジャンプ」に持って行っていたら、すぐ挫折していたと思います。

——「もっとこう描かなきゃだめだよ」と言われたら「それなら描きません」と?

古屋 描かないというか、描けないんですよ、僕には。新人のうちは、あまり無理しないほうがいいと思っていて。自分の憧れとして、ゆくゆくは『バガボンド』みたいなものが描きたいと思っていたとしても、投稿時代から『バガボンド』を描こうとするのはハードルの設定が高すぎる。最初は4コマとか、自分ができる範囲の何かでいいと僕は思うんです。ただ、『進撃の巨人』の投稿作として描かれたものを読んだ時は、最初から壮大な物語を描ける人もいるんだ!と思いましたが、それはまれなケースで。参考にしていきなり壮大なものを描いてしまったら、ダメ出しをされて途中で折れてしまう人が多いと思う。諌山さんは、何を言われても折れないだけの何かがあったんだと思います。乗り越える力があった。なので、最初は自分が飛び越えられる高さから始める、というのがいいと思います。これだったらできそう、ということからどんどんやってみる。「やってみる」と先ほどから言っていますが、それは「無茶なことをやりなさい」ということではなくて、やるのならどのくらいなら飛び越えられるかをまず考えたほうがいい、ということですね。





ストーリーは考えず、キーワードだけをメモ

——投稿者から「描き終えられない」という話もよく聞きますが、そういう方は自分に無茶な要求を課しすぎているのかもしれませんね。

古屋 30ページとか、最後まで描き切れる人は描けばいいと思うんですよ。でもいつも10ページぐらいでその先が描けなくなるという人は、最初から10ページの作品を描けばいいと思うんです。

——なるほど、30ページ想定の話が10ページで止まってしまったら賞に応募することもできないですが、ページ数に制限のない賞や短編の賞なら、最初から10ページで描けば応募することができますね。

古屋 10ページのものを3本描いてもいいわけですから。ストーリーも、もし考えるのが難しかったら、落語とか、『桃太郎』や『かぐや姫』のようなもとからあるものを現代風にアレンジしてみるといいと思うんです。そこに、自分なりの思いを乗せればいい。誰に感情移入させるかでも変わってきますしね。かぐや姫なのか、アタックする側の男なのか、月から送り込んだ親の立場なのか……と。

——それは新人作家にとってはそのままやれるアイデアですね!

古屋 僕は1つのワードから物語を引っ張ることも結構あるんですよ。『帝一の國』は、ある時ポンと「権力闘争」という言葉を書いたんですよ。それで、これから何か描けないかなあと考えて。権力闘争……選挙……そういえば『白い巨塔』は学長選挙の話だったな、主人公は黒いやつだったな、じゃあ主人公を黒い奴にしてみよう!という感じで出来ていく。別々にあったキーワードとかイメージが、何か考えようと思った時にぶわっと合わさるようなことがあるんですよね。『アマネ』は人形作家の方と知り合って、人形作家の話を描いてみたいなと思ってはいて。でもそれだけだと話にならないなと思っていたら、萩尾望都先生の『トーマの心臓』が好きだと言っていたことを思い出して。じゃあギムナジウムと人形作家を合わせたらどうなるのかな?と話がふくらんでいきました。




『アマネ†ギムナジウム』①巻19ページより。



古屋 きっかけはなんでもいいと思うんです。そういう思考実験みたいなものを繰り返すと、「行けそう」なものと「行けなさそう」なものが出てくる。「これはおもしろいけれど、プロデューサー的な立場から見ると、古屋兎丸が描く意味がないな」とか、「ほかの人の絵でしか浮かばないな」という判断になったものは、そこで捨てます。

——すべてのワードが物語になるわけではないんですね。

古屋 iPhoneのメモ帳には、そういうものがいっぱい入っているんですよ。「友だち依存症の話」とか。後から見返していたら、それがふくらんで『少年たちのいるところ』ができた。ネタをストーリーとしてストックしておくことはほぼないですね。キーワードだけです。

——メモした時は、物語は浮かんでいない状態なんですね。

古屋 浮かんでいないです。なぜかというと、描く時間はないのに、友だち依存症の話を考えてしまうと、いざ描こうとした時にはもう気分が違っているんですよ。「今、描く」という時に、キーワードを引っ張り出して考えないと、自分が乗れないんです。物語を作り出す時は、冷静だとできないんです。熱さが必要。今わきあがってきたこと、今思いついたことを描かないと。





パッションとエンタメが合わさったものが読みたい

——新人にも、「熱さ」は必要ですか。

古屋 パッションは必要ですね。ただ新人の時って、まずは自分の中にあるドロドロした膿みたいなものを全部出し切る必要があると思っていて。それが描き終わって初めて「創作」に行けると思うんです。最初から創作をできる人は少ないので、まずはそれから始めるといいと思います。僕もデビュー前は、自分のトラウマみたいなものばかり描いている時期がありましたから。誰にでも、何かしらそういう膿みたいなものはあると思います。

——さきほど教えていただいた「キーワードから考える」というようなやり方は、ドロドロを出し切って既に「創作」段階まで行った人がやること、ということでしょうか。

古屋 そう思います。

——膿を描いている段階のものを応募してもいいのでしょうか。

古屋 もちろん応募は自由ですが、審査ではこの人が今どの段階にいるのかをその作品だけで見極めるのは難しいので……ドロドロしているだけのものは、漫画としてはおもしろくなかったりもするんですよ。「商品」になるかならないかを、審査員側は判断しますから。

——どういった応募作を読みたいと思われますか?

古屋 パッションとエンタメがうまく合わさったものが読みたいですね。10代とか20代のころは、エンタメ性よりも勢いとか、こういうものが描きたい!というパッションの方が強いと思うので、それはそれで持っていてほしい。ただそれだけではなくて、見せ方とか、絵のうまさとか、話のおもしろさとか、パッションに何かしらの武器が加わっていることが、新人に求められていると思います。 🎨




第9回THE GATE、締め切り迫る!

第9回THE GATEへの作品応募受付は、まもなく5月31日(金)締め切りとなります!(当日消印有効/ウェブ応募は同日23時59分まで)

応募要項などの詳細はこちらのページをご覧ください!

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プロフィール

門倉紫麻(かどくら・しま)
1970年、神奈川県出身。漫画ライター。
Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

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