門倉紫麻 漫画家になるための戦略教室

熱意はある。努力もしている。「才能あるよ」とも言われた。
でも、なぜか漫画家になれない——。
そんな漫画家志望者のあなた。
熱意はあって当たり前。努力も言わずもがな。
才能は、確かにあったほうがいい。
でも、漫画家になるためには、それでは足りない
「戦略」が、必要なのです!
漫画ライター・門倉紫麻が、作家陣へのインタビュー、モーニング編集部への
潜入取材を敢行して探った、その戦略とは!?
どこよりも実践的な漫画教室、開校!!

【15限目】 第5回THE GATE審査員・大今良時さんインタビュー(後編)(2017/05/17)

全受賞作品を「モーニング」月刊「モーニング・ツー」「週刊Dモーニング」のいずれかの媒体に掲載する“超実戦型”の新人賞が【THE GATE】です。

ただいま応募受け付け中の第5回から新たに審査員を務める鈴ノ木すずのきユウさん(「モーニング」にて『コウノドリ』連載中)と大今おおいま良時よしときさん(「週刊少年マガジン」にて『聲の形』を連載。現在『不滅のあなたへ』連載中)のお二人に、5月末の応募締め切りを前にインタビューを敢行!

今回は、小学生時代から漫画を描き始めていたという大今良時さんが、デビューに至るまでの経緯、新人時代に「やっておいたほうがいいこと」、そして前回の鈴ノ木ユウさんの発言(前編後編)を受けてキャラクターの「行動原理」についての考え方を語ってくれました。(※前編はこちら



最初の持ち込みは「ドッジボール」のギャグ漫画

——高校生の時は、投稿ではなく持ち込みを先にしたのですか?

大今 そうですね。週刊少年マガジンに。どの編集部に持ち込むか迷ったのですが、友だちに「マガジンでしょう!」と言われて。なぜでしょう……絵の感じですかね。

——どんな作品を持ち込んだんですか。

大今 ドッジボールの話です。ノリで誰もが考えるような……つまらないギャグです。シリアスギャグってみんなやりたがりますよね。

——シリアスギャグというのはどういうものですか。

大今 命をかけて、ドッジボールをやる! というような。

——編集者の反応はどうでしたか。

大今 「もっと読みたいです」と言われて。「やったぜ! もっと描くぜ!」とその気になって、次の作品を描きました。ただその時に「担当さんがついた」とは思っていなかったので、次の作品はその方には見せずに、新人賞に応募するようになってしまって。持ち込みの時とは違う担当さんがついてくださいました。

——新人賞に投稿したのはどんな作品ですか。

大今 『不滅のあなたへ』の原型のようなものですね。『聲の形』の前に3つくらい投稿しているのですが、そのうちのふたつは、主人公が『不滅のあなたへ』の「フシ」でした。

——高校に通いながら漫画を描くのは大変ではなかったですか。

大今 そんなにプロのような感じではやっていなかったので、大変という感じではなかったです。高校を卒業してからは、とりあえず賞を獲ろう! と思い、バイトと自動車学校に通っていましたね。バイトはしんどいので、早く漫画家になりたいと思っていました。



『聲の形』は“義務教育”のように、やらないといけないなと思っていた

——のちに連載になる『聲の形』が「週刊少年マガジン新人漫画賞」に「入選」されたのですよね。

大今 はい。投稿歴も長くなってきていたし、そろそろ賞に入ってほしい! と思っていたころでした。

——描いている時に、手応えはありましたか。

大今 あった……と思います。担当さんの直しが、いつもより少なくて。

——ご自分では何が良かったのかわかりますか。

大今 私がもともと知っていた情報を描いたから、でしょうか。

——お母さまが手話通訳者をしていらしたんですよね。

大今 それもありますが、実体験も情報としてたくさん入っていて。そうすると作品に説得力が出ますよね。自然に心の動きを説明することができるので。

——それまで実体験を活かして描いていなかったのはどうしてでしょう。そのほうが描きやすいようにも思うのですが。

大今 描きたい話とは違ったからでしょうか。現代ものを描きたいとは思っていなくて。ファンタジーを描きたいと思っていました。

——『聲の形』の時は、なぜ実体験を活かして描こうと思ったのですか?

大今 近くにあるものを使いたいと思いました。早く家を出たいと思っていたのですが、その前に、この家の生活感を漫画に利用しておきたいと思いました。自分の家を、背景に使いました。

——確かに写真を見て描いただけとは違う、その場所の空気感まで描かれています。

大今 投稿作版は特にそうですね。実家そのままです。
投稿作版の『聲の形』より。電話を受ける石田の周りのリアリティと生活感あふれる「自宅」の様子は、大今さんの実家の空気感までそのまま表現されている。



——通常は入選したら、その作品が雑誌掲載されてデビュー、という道をたどるはずが、投稿作そのままの形では掲載するのが難しいという理由でデビューにならなかった。受賞後1年ぐらいたったところで冲方丁さんの小説を原作にした『マルドゥック・スクランブル』でデビューされますが、それまでの1年というのは、もやもやする時期だったのではないでしょうか。

大今 していましたね……もやもやと。
デビュー作となった『マルドゥック・スクランブル』。原作の持つ壮大な世界観が、大今さんの高い画力によって、より刺激的な作品へと進化していった。



——そのもやもやをどう乗り越えましたか?

大今 乗り越えてはいなかったと思います。もやもやしながらも新しい作品を作らないといけなくて。『不滅のあなたへ』の原型はあったので、担当さんには「それをやってもいいんじゃない?」と言われたのですが、まだ描きたくなくて……年をとって、もっと知らないことが少なくなってから描きたいと思っていました。

——ということは、今『不滅のあなたへ』を描けるようになったのは、大人になったからでしょうか。

大今 いえ、まだ大人にはなれていないと思うのですが。でもやりたいことがたくさんある中で、やりたいものから順番にやっていかなければ、と思い、描くことにしました。『聲の形』は“義務教育”のように、描かないといけないなと思っていて。

——描きたいものというよりも、描いておかなければ、というような感覚でしょうか。なぜそう思ったのでしょう。

大今 早ければ早いほどいいと。どんどん小学生時代の自分とは離れていきますよね。年を取ると、その時の価値観が薄れていってしまうので。

——『聲の形』では、コミュニケーションの難しさを描きたかった、とおっしゃっていましたね。聴覚障害そのものがテーマではなかった?

大今 「コミュニケーションの難しさ」というのは、作品全体に対する説明を求められたときに言う文言で。もちろん聴覚障害を描きたいという気持ちはありました。

——ご自身が詳しいものを描こうという気持ちですか?

大今 詳しい、とは思っておらず、この程度の知識しかない、という自覚があって。そのままのこと、私が生活で経験した、私が知っていることを描くだけだと思っていました。ただ実際にどのくらいの音を立てると驚くのかとか、そういうことは聴覚障害の方に教えてもらいましたね。
『聲の形』より、大今さんが聴覚障害の方に実際に話を聞いて、執筆されたエピソード。本作は、2015年に第19回手塚治虫文化賞新生賞を受賞。2016年にはアニメーション映画化もされた。



「爆発」している漫画を読みたいです

——漫画家になるために、これはやっておいたほうがいい、こんなことをやってきた、ということはありますか。

大今 「その時期ならでは」のことをやったほうがいいと思います。たくさん食べたり、漫画をたくさん読んだり、おもしろいことをたくさんしたり。まあそればかりしていても、漫画を描く時間がなくなってしまうのですが。早くデビューしたい人は、期限を決めたほうがいいと思います。例えば3ヵ月以内に1作品を仕上げて、次の賞に応募する、とか。

——出来上がったら応募しよう、というのではなく、自分で締め切りを作るわけですね。

大今 そうですね。あとはメモをたくさん書く。私はクロッキー帳に書いていました。

——どんなことを書くのですか?

大今 漫画のネタも、キャラクターデザインも、映画の感想も、全部同じクロッキー帳に書いていました。映画は「なぜここがおもしろかったのか」「なぜここで泣いたのか」まで分析して、メモしておくと、いいのではないでしょうか。

——それは、いつ頃からやられていたことですか。

大今 ただの落書き帳がずっと続いているだけなので……期間はすごく長いです。中学生くらいからでしょうか。ここ(仕事場)にあるのは、全部そうです(※そう言って指差した机の横の棚には、10冊以上のクロッキー帳がぎっしり!)
これまで書き溜めてきたクロッキー帳。古い順に番号がふってある。大今さん自身による凝った表紙デザインにも注目を。



——わあ! 本当ですね。映画の感想も、キャラデザも、漫画のネームのようなものもあります。

大今 高校時代に途中で描くのを諦めた漫画もありますね。連載するのって、本当に消耗することだと思うのですが、私は『マルドゥック』の時に、自分の引き出しの中のものを全部出し尽くした感じがして……。実際にクロッキー帳を見返したりはほとんどしないのですが、こういうものがストックしてあると、新しい作品を作る時に、自分をやる気にさせてくれると思います。

——これから応募作を読むことになるわけですが、どういうものが読みたいですか。

大今 モーニングの賞なので、自由度が高い気がしていて。なので、ぐちゃぐちゃになったようなものを……想像の外にあるようなものを読みたいです。岡本太郎の「芸術は爆発だ!」という言葉が好きなのですが、「爆発」している漫画を読みたいですね。(了)



大今良時さんに、あなたの漫画を読んでもらえるチャンス!

第5回THE GATEは、5月31日(水)締め切りです!(当日消印有効)

応募要項等の詳細はこちらのインフォメーションページをご覧ください!
  • 感想を送る
  • 更新情報

公開中のエピソード

プロフィール

門倉紫麻(かどくらしま)
漫画ライター。
1970年神奈川県生まれ。慶應義塾大学卒業。Amazon.co.jpエディターを経て、フリーライターに。「FRaU」「ダ・ヴィンチ」「レタスクラブ」などで主に漫画に関する記事の企画・執筆、コラムの連載を行う。
著書に、「ジャンプ」作家に漫画の描き方を聞く『マンガ脳の鍛えかた』、宇宙飛行士らへのインタビュー集『We are 宇宙兄弟 宇宙飛行士の底力』『We are 宇宙兄弟 宇宙を舞台に活躍する人たち』がある。

お知らせ »

お知らせの一覧へ

新着Webコミック »

アクセスランキング