GIANT KILLING extra

【extraコラム②】 監督の采配に見るチャンピオンシップ(2015/12/05)



G大阪が長沢を先発起用した意図と狙い

監督視点のコラムを執筆してもらえないか。そう編集部に打診されてJリーグチャンピオンシップ決勝第1戦が行われる地、万博記念競技場へと向かったが、2試合合計180分で争われる最初の90分だけで数え切れないほどのドラマが起こった。

選手たちを一度ピッチに送り出せば、指揮官である監督にできることは限られている——サッカーではよく使われる常套句ではあるが、ガンバ大阪の長谷川はせがわ健太けんた、サンフレッチェ広島の森保もりやすはじめという、ほぼ同世代の2人が見せた采配は試合の流れを変え、両チームにとって明と暗が分かれる結果となった。


まずスターティングメンバー選びからその駆け引きは始まっていた。広島の森保監督はリーグ2ndステージ最終節とメンバーを全く変えず、3バックの一角に負傷明けの水本みずもと祐貴ゆうきでなく佐々木ささきしょう、ウイングバックにかしわ好文よしふみではなく好調を維持する清水しみず航平こうへいを起用してきた。それに対してG大阪の長谷川監督は、CS準決勝の浦和レッズ戦から1トップを変更して、パトリックではなく、長沢ながさわ駿しゅんを起用して試合に臨んだ。


前半を見る限り、スコアこそ0−0ではあったが、スタメン選択の狙いはG大阪の長谷川監督に軍配が上がっていた。長沢は前線からの守備を積極的に遂行、それにより今野こんの泰幸やすゆき遠藤えんどう保仁やすひとのダブルボランチが絶妙なポジショニングを取ることができ、広島の最終ラインや、中盤の底を担う青山あおやま敏弘としひろからの縦パスを封じていた。広島は1トップ2シャドーからなる前線と、それ以外との距離が遠く、サイドでしか攻撃の糸口を見出すことができない。そのサイドにおいても、G大阪から見れば左サイド、広島から見たら右サイドの藤春ふじはる廣輝ひろきとミキッチが激しい攻防を繰り返していた。


先に動いたのは、劣勢に立たされていた広島の森保監督だった。58分という早い時間帯に、FW佐藤さとう寿人ひさとを下げ、スピードのある浅野あさの拓磨たくまを投入する。試合前から、G大阪の長谷川監督も「先に点を取られると、どうしても60分過ぎから浅野を入れられてカウンターというパターンにはまってしまいますので、そういう展開だけは避けたい」と警戒していた。

ここでも長谷川監督の「長沢を起用する」という選択は効果を発揮する。パトリックよりも前線からの守備に労力を惜しまない長沢が、ファーストDFとして広島の最終ラインに圧力をかけていく。2列目の宇佐美うさみ貴史たかし阿部あべ浩之ひろゆき大森おおもり晃太郎こうたろうもそれに続くことで、広島が浅野投入後に狙うロングフィードを完全に封じた。さらに長沢は60分に、森﨑もりさき和幸かずゆき千葉ちば和彦かずひこのパス交換のミスを突き、ボールを奪うと、先制点まで挙げる結果を残したのだから、まさに長谷川監督からしてみれば、「してやったり」という状況であっただろう。


先制点を許した森保監督の逆襲

さらに62分には大森に代えて、スピードと突破力のある倉田くらたしゅうを入れて、G大阪は追加点を狙いに出る。

ただ、ここから広島、森保監督の逆襲が始まる。69分、森保監督は2枚目のカードを切り、ミキッチに代えて柏を送り込む。柏本人が試合後に明かしてくれたが、「ポイチ(森保)さんに『全部、柏のほうのサイドから(攻撃に)行くぞ』という指示でピッチに送り出してもらいました」という。広島が崩れないサイドをフレッシュな柏から崩そうとする意図は如実に現れ始める。

そしてこれが80分にドウグラスが決めた1−1の同点弾につながる。浅野が粘ってゴール右の角度のないところからシュートを放ち、ポストに当たって跳ね返ったこぼれ球を柏がシュート。それをドウグラスが頭でコースを変えて追いついたのである。


その1分後にはFKのこぼれ球から今野がボレーを決めて、G大阪が再びリードを奪った。しかし、1点目に続き、2点目の失点シーンでも今野のマークを外してしまった森﨑和幸を代えないところに森保監督の信頼や芯の強さが見て取れる。実は直前の試合に、対照的と言える采配があった。G大阪が勝利した準決勝で、浦和レッズのミハイロ・ペトロヴィッチ監督は、パス交換によるイージーミスで今野に先制点を許した那須なす大亮だいすけを、ケガ明けというコンディション面もあったのであろうが途中交代させたのである。

だが、森保監督はシーズンを通して、そうしたネガティブな交代を全くしない。森﨑和幸はこの試合2失点に絡むとともに、すでに1枚イエローカードをもらっていたが、森保監督が切った3人目の交代枠は89分、清水に代えて山岸やまぎしさとるを投入するというものだった。

もし、ここで森保監督が森﨑和幸を代えていれば、逆転となる決勝弾は生まれていないかもしれないから、この選択は興味深い。日頃から森保監督が「ピッチの指揮官」と語る森﨑和幸への信頼を示し、そして森﨑和幸もまた、それに応えたのである。


個々の判断が試合を決めたのは意思統一の賜物

広島の逆転劇には、86分にDFオ・ジェソクが清水を突き飛ばして一発退場したという伏線がある。これによりG大阪の長谷川監督は、FW宇佐美を下げてDF米倉よねくら恒貴こうきを投入。1−2の劣勢に立たされていた広島は、一転、数的有利を生かし攻撃に打って出る意識が増したのである。


5分間のアディショナルタイムが表示されて間もない91分、広島は右サイドでFKを得ると、キッカーの柴﨑しばさき晃誠こうせいはクロスを上げるのではなく、近くにいた青山へつなぐと、先発起用された佐々木が、頭で決めて期待に応える。

2−2となり、数的不利となったG大阪からしてみれば、このまま第1戦を終えるのがストーリーとしてはベストではあったが、ホームという状況がそうさせたのか、はたまた試合終盤に追いつかれたことが彼らを慌てさせたのか、3点目を取りに行こうとした。96分、ボールがタッチラインを割ると、今野は、前線に残るパトリックに素早くスローインをしてしまう。遠藤は「チームとして声を掛け合って、落ち着かせれば良かった」と振り返ったが、森﨑和幸がそれをインターセプトして、前にいる青山につないだ。

森﨑和幸は「どこかでミスを取り返そうと思っていた」と試合後に語ったが、駆け上がって青山からリターンを受けると、さらに大外の左サイドを駆け上がってきた山岸へ展開。山岸はダイレクトでクロスを入れると、こぼれ球を柏が右足で決めて3−2とする逆転弾が生まれた。


試合後、森保監督は2−2の状況から3点目を奪いにいった選手たちについて「2−2で終わっていても、我々にとっては悪くない結果だったとは思いました。ただ、選手が相手の状況を見て、自分たちは何をすべきなのかを感じてプレーしたことが決勝点につながったと思います」と話した。

森﨑和幸も、「誰かが声を掛けたわけでもなく、相手が1人退場していたので、勝って終わろうという雰囲気がチーム全体から出ていた」と振り返った。

指示をされずとも、チームとしての意思統一を図れるのが広島の強さなのであろう。交代出場してきた選手を見れば、ピッチの中にいる選手たちは何をすべきかがわかるのだ。

また、森﨑和幸が言ったこの一言は、今季の広島の勝ち方を象徴するものだった。

「前半を0−0で折り返せれば、今シーズンのうちとしてはOKなので、後半どこかで絶対にチャンスを作れるかなって思っていました。ただ、ああいう形で先に失点してしまい、チームのみんなに迷惑をかけましたけど、本当に今日はみんなに助けられました」

前半、うまく攻め、うまく守っていたように映ったG大阪ではあるが、前半のうちに先制できなかった時点で、広島の術中にはまっていたとも言える。第1戦のこの流れを受けて、次はアウェイに乗り込むG大阪の長谷川監督は、いかなる策を講じてくるのか。それを広島の森保監督はどのように迎え撃つのか。第1戦、G大阪は相手に合わせて多少なりとも戦い方を変えた。

一方で、広島は最後まで自分たちの信念を貫き通した。両指揮官が出す第1戦を受けてのアンサーは、12月5日に行われる第2戦、残り90分にある。


選手交代の流れ

サンフレッチェ広島
58分 佐藤寿人out → 浅野拓磨in

ガンバ大阪
62分 大森晃太郎out → 倉田秋in

サンフレッチェ広島
69分 ミキッチout → 柏好文in

ガンバ大阪
77分 長沢駿out → パトリックin

ガンバ大阪
89分 宇佐美貴史out → 米倉恒貴in

サンフレッチェ広島
89分 清水航平out → 山岸智in

取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹



  • 感想を送る
  • 更新情報

公開中のエピソード

プロフィール

お知らせ »

お知らせの一覧へ

新着Webコミック »

アクセスランキング