GIANT KILLING extra

【データでみるJリーグ②】 数字だけではわからないサンフレッチェ広島の強さ(2015/08/06)



快進撃を見せる広島の省エネサッカー

ただ、走っているからすごいわけでも、動いているから偉いわけでもない。そこに“結果”が伴わなければ意味はない。

J1では今シーズンよりトラッキングシステムが導入され、各チーム、各選手の総走行距離と総スプリント回数が公開されている。これがチームの機動力を示すものさしとなっているが、数字にとらわれすぎると、サッカーの本質を見落とすことになる。

現に2ndステージで唯一の5連勝を飾り、年間順位でも浦和レッズを抜いて単独首位へと躍り出たサンフレッチェ広島は、1stステージ全17試合において相手よりも走行距離で上回った試合は、わずか2回しかない。要するにたったの2試合(!)しか相手に走り勝っていないのだ。

広島は1stステージで10勝しているが、唯一、走行距離で相手を上回っての勝利は、第13節のアルビレックス新潟戦(4−2)だけで、他9回は相手に走り負けながらも勝利していることになる。スプリント回数も同様で、10勝のうち相手よりまさった試合は、第8節の横浜F・マリノス戦(2−1)の1度しかない。

広島は走行距離でも、スプリント回数でも、ほとんど相手よりも下回りながら、ここまで勝ち点を積み重ねているのである。


チームを率いる森保もりやすはじめ監督は、データを踏まえた上でこう説明する。 「そういうデータがあることは選手たちにも全部伝えてあります。まあ、もちろん走れるに越したことはないけど、結果を見れば、うちのほうが勝っていますよね。うちは攻めるときにはしっかりとボールを保持しながら、5〜10mの距離を予測して各選手がポジショニングしている。スプリントの回数が少ないのも、それだけボールを動かしているからいい戦いができているということでもある。スプリント回数には表れない、動きや走りというものがありますよね」

スプリントの定義は、時速24km以上で1秒以上走ることとされている。それ未満の速さで走っていれば、当然、数えられることはない。森保監督が説明するように、予めボールホルダーが次に出すパスコースを予測して受け手が動いていれば、ダッシュをする必要はなく、必然的にスプリントする場面も減少する。夏場になっても勝率が落ちるどころか、連勝を続けている広島は、まさに省エネサッカーを体現しているのである。


スプリント回数“ゼロ”の森﨑和幸

また、1stステージの開幕戦を終えて、各選手の走行距離とスプリント回数のデータが公開されると、スプリント回数が、なんと“ゼロ”だったとして話題になった選手がいる。広島の中盤の底に位置し、時に最終ラインに加わりビルドアップに参加するMF森﨑もりさき和幸かずゆきである。それを本人にぶつけると、「めちゃめちゃチームメイトにいじられましたよ」と、はにかむ。

「あまりにみんなに言われるから、さすがにゼロはやばいなって思いましたけど。でも、スプリントって時速24km以上で走らなきゃいけないんですよね? それこそタクマ(浅野拓磨)なら6割、7割の力で走ってもそのくらいのスピードが出ると思いますけど、僕はもともと足が遅いので、100%の力で走ってもその数値が出るかどうか、わからないですからね(笑)」

事実、第9節のベガルタ仙台戦を除いて1stテージ16試合に出場した森﨑の総スプリント回数は72回だった。

1stステージ全17試合に出場した選手だけに限定してスプリント回数を集計すれば、3位はヴィッセル神戸のFW小川慶治朗の536回で、2位は名古屋グランパスのFW永井謙佑の511回と続く。上位には、主に走り直すことの多いストライカーや上下動を繰り返すサイドバックが名を連ねている。


  • 1位 FW小川慶治朗(神戸) 536回
  • 2位 FW永井謙佑(名古屋) 511回
  • 3位 DF田中隼磨(松本) 466回
  • 4位 FW武藤嘉紀(FC東京) 453回
  • 5位 DF藤春廣輝(G大阪) 419回


一方、スプリント回数のワーストに目を移すと、こちらも1stステージ全17試合に出場した選手に限定してだが、1位は広島の千葉和彦で104回、2位は同じく広島の水本裕貴で129回と、守備的な選手たちが名を連ねる。


  • 1位 DF千葉和彦 (広島) 104回
  • 2位 DF水本裕貴 (広島) 129回
  • 3位 MF富田晋伍 (仙台) 135回
  • 4位 MF遠藤保仁 (G大阪) 136回
  • 5位 MF藤田直之 (鳥栖) 138回


それだけに1試合出場が少ないとはいえ、森﨑のスプリント回数「72」という数字は極端に少ないと言える。彼が最もスプリントした試合は1stステージ第6節FC東京戦の10回だが、仮にその数値を足しても82回で、チームメイトである千葉や水本にも遥かに及ばない。

このデータだけで見れば、森﨑は運動量が少なく、ダッシュする回数も少ないため、試合での貢献度が低いと考えがちだが、それは浅はかというものだろう。


指揮官である森保監督が再び説明してくれた。

「カズ(森﨑)は先ほども言った、予測が誰よりも優れているということ。僕はデータよりも自分の目を一番信じている。データの数字が低いからといって、チームのなかで機能していないかといったら、どう見ても、どう考えてもしているでしょうってなる。機能しているかどうかが一番大事なことであって、彼はチームにとって、攻守にわたって貢献してくれている選手。カズは相手と駆け引きをして、常に予測して動いているし、パスを受ける前からいいポジショニングを取っているから走らなくてすんでいるということだと思います」

事実、1stステージにおけるパス本数のランキングでは、1位の川崎フロンターレの中村憲剛(1623本)、2位の同じく川崎の谷口彰悟(1506本)に続いて、森﨑(1413本)は3位につけている。パス成功率はリーグトップの92.8%という驚異の数字を叩き出している。


パス成功率から見ると、森﨑はチームメイトが出したパスを確実に次の選手へと届けているということ。セーフティーなプレーに終始していると考えがちだが、これまた違う。

試合中の動きを見ていると、違う選手間でパス交換がされているとき、常に森﨑は予測して動き、パスコースを作り出している。

最終ラインのビルドアップから攻撃を組み立てる広島と対戦する際、相手チームは前線からプレスを掛け、パスコースを潰そうとするか、自陣に引きブロックを作る傾向にある。前線からプレスを掛けられたときは、CBを務める水本や千葉、さらにはウイングバックのミキッチや柏好文も、一度、前に仕掛けてみたものの難しいと判断すれば、後ろに戻そうとする。そのとき、確実にパスの受け手となり顔を出しているのが、森﨑なのである。

パス本数が多いのは、裏を返せば、それだけパスを受けているということ。また成功率が高いのはそれだけ、確実に次へと展開しているということ。要するに彼がカバーしてくれる安心感がチーム全体にあるから、水本や千葉、さらには塩谷司らもドリブルで前に持ち運ぶことができるのだ。


得点につながったボール奪取は1位

また、森﨑のデータを調べていて、面白い数字があった。1stステージにおいて、自らのボール奪取がゴールにつながった回数では、浦和レッズの柏木陽介、那須大亮と並んで5回とトップだった。これについて森﨑自身が説明してくれた。

「単純に走るということにおいては、確かに足は遅いかもしれません。ただ、相手の見えないところからアプローチをかけるときは、逆に速いと言われる。相手の視界から消えて、ボールを奪取する。それはスピードじゃないんですよね。まあ、最終的にはボールが奪えればいいわけで、足が速くても追い込み方が悪いと奪えない選手もいる。得点につながるパスが出せるか、得点につながるボール奪取ができるかのほうが大事ですね」

そうデータについてコメントする森﨑が、自身のことを分析できているとわかるエピソードがあった。彼はふっとこう言い出したのだ。

「昨シーズンはJ1全体で見てもインターセプトの回数は上位だったと思うんですけど、今シーズンはおそらく減っていると思いますよ」

気になって調べてみると、昨シーズンは30回だったのに対して、今シーズンは1stステージを終えてわずか8回。まだシーズン半分とはいえ、昨シーズンの約1/4である。


「これはあまり言いたくなかったんですけど、今シーズンは前でボールを奪う意識を強めているんです。他の選手にプレスに行かせて、自分がくさびのパスをインターセプトすることを狙うのではなく、それよりももっと前。くさびのパスを出させる前にボールを奪って、得点につなげる。その分、確かにくさびのパスを出される回数は増えてしまうのかもしれませんが、そこは後ろが察知してくれているのか、相手を潰しにきてくれる」

この話を聞いて思い起こされるのが、1stステージ第7節の清水エスパルス戦だ。80分、まさに相手が自陣から縦パスを入れたところに、森﨑が猛然とプレスを掛けてボールを奪取すると、ゴール前まで持ち運び、浅野へパス。最後は野津田岳人が決めたこの得点は、まさに森﨑が今シーズン試みているプレーを象徴するシーンだった。

さらにこの話を聞いた直後だっただけに、2ndステージ第4節の横浜FM戦で見せた森﨑のプレーも納得だった。押し込まれていたため、彼が話してくれた「前で」という状況とは異なったが、54分、ドリブルで進入してきた中村俊輔をチームメイトとともに挟み、森﨑がボールを奪取すると、そのままドリブルで駆け上がりシュート。DFに当たってこぼれたが、その流れからのクロスをドウグラスが頭で決めた。

まさに走行距離やスプリントの回数には表れない、試合の流れを的確に読んだ頭脳的なプレーだった。現・浦和のミハイロ・ペトロヴィッチ監督が、かつて広島を指揮していたとき、森﨑を“ドクトル”(医者の意味)と称したのも頷ける。

「運動量を増やしたい、体力がもっとあったらなとも思う。極めたいことはまだまだたくさんあります。ただ、僕が僕なりにチームのバランスを考えたとき、求められている役割がありながら、僕が縦パスを狙うのはリスクがあるし、だったら確実につなぐことに徹したほうがチームとしてはよくなるかなと。縦パスを狙える選手は他にもたくさんいますからね。それなら、その選手に任せようと。みんなもたぶん、それはわかってくれていると思います」

34歳になり、日本人としてはチーム最年長選手であるからこその機転がある。彼が後方にいる安心感が、DF陣の、ウイングバックの攻撃参加を促し、若手の躍動にもつながっている。

そんな“ピッチの指揮官”がいる広島は、2ndステージで躍進を見せている。森保監督は、チームのサッカーをこう言い表した。

「裏を返せば、うちが対戦相手を走らせていると考えることもできる。サッカーは『よーい、ドン!』で走るスポーツじゃないですからね。相手を走らせることで疲れ、そうした状況で勝利していると見ることもできますよね。別にうちの選手たちが走れないというわけではない。実際、走っている試合もあるわけですから。大事なのはいかに効率よくボールを動かすか、効果的に戦っていくかだと思います」

暑い夏場であっても広島の勝率が落ちないのは、まさに効率のよさにもある。自分たちがパスを回すことで、追い掛ける相手はどんどん体力を消耗する。そこには、ただ走ればいいというだけではない、データからはわからない、サッカーの本質が隠されている。

取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹
データ提供=データスタジアム(株)





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  • 8月12日(水) 広島 VS. 鹿島
    エディオンスタジアム広島/19:00キックオフ
  • 8月16日(日) 広島 VS. 柏
    エディオンスタジアム広島/19:00キックオフ

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