GIANT KILLING extra

【特別対談】 塩谷司(アル・アインFC)╳ツジトモ〈後半〉(2018/08/09)


現在、『GIANT KILLING』(『ジャイキリ』)のなかでは、「アジアカップUAE大会」における日本代表の激闘が描かれている。

闘いの舞台となっているUAEのクラブ、アル・アインで活躍する元日本代表・塩谷司選手は、ツジトモ氏にとって、『ジャイキリ』アジア杯編のネタ元だったことが発覚!(前半参照

特別対談の後半は、1シーズンを過ごした塩谷選手がUAEの魅力と今後のサッカー人生について語ります!




7万人のアウェイサポーターに驚愕!

ツジトモ 今回、こうしてお会いして感じるんですけど、塩谷選手はUAEでの生活とアル・アインでのプレーを楽しんでますよね?

塩谷司(以下、塩谷) めちゃめちゃ楽しいですよ。この1年間、本当に楽しかったです。行く前は、多少、不安がありましたけど、行ってみたら治安も良くて、みんな、子どもに優しいんですよね。例えば外食したときに、子どもが食事に飽きて走り回っていても、働いている人たちが一緒になって遊んでくれる。日本だったらしつけだ、行儀だってなりますけど、本当にみんな寛容なんですよね。現地に行って、住んでみないと、何ごとも分からないんだなって思いました。慣れないのは暑さくらいですかね(笑)。

——オフの日は主に何をしていたんですか?

塩谷 せっかく知らない土地に行ったので、オフの日は家族と観光に出かけることが多かったです。名画が飾られている『ルーヴル・アブダビ』にも行きました。あとは現地で知り合った日本人の方が砂漠に住んでいるんですけど、その方の家に招待してもらって砂漠をバギーで走ったり……。

ツジトモ すごい経験ですね。

塩谷 バギーで砂漠の奥地まで行くと、視界一面、砂しかないんですよ。その光景を見たら、小さいことで悩んでいる自分がバカらしく思えるというか。何よりもリフレッシュになりました。

ツジトモ まずは楽しいと思えるのが一番ですよね。でも、サッカーに対して、物足りなさは感じないんですか? 自分に甘くなれば、いくらでも甘くなれてしまう環境でもあるような気もするので。

塩谷 確かに物足りなさを感じるときはありますね。ただ、チームメイトを見て反面教師にするというか、自分はそうなってはいけないと思うようにはしていますね。日本にいたときは、毎日1時間前にクラブハウスに行って身体のケアをするようなタイプではなかったんですけど、アル・アインでプレーするようになってからは毎日するようになりました。自分が外国籍選手だという意識が働いているのかもしれない。先ほども※前半参照言いましたけど、アル・アインでプレーするようになって、自分もACL(AFCチャンピオンズリーグ)に強い意識を持つようになったんです。サンフレッチェ広島でプレーしているとき、ACLには3度出場しましたけど、(決勝までは東西アジアに分かれるため)中東のクラブと対戦するイメージはありませんでした。それがアル・アインではイランのチームとも対戦する。イランのアウェイゲームではグループステージでも7~8万の観衆が入るんですよ。日本のACLの試合を考えるとビックリしませんか?






ツジトモ 確かに日本だと、ACLのグループステージはミッドウィークの開催ということもあって観客は1万人くらいですからね。

塩谷 ツジトモさんが映像を見てくれたという、ミドルシュートを決めた試合はまさにイランのクラブとのアウェイゲームだったんです。グループステージでそれだけ観客が入る環境はなかなか経験できませんよ。

ツジトモ アル・アインではサイドバックで、積極的な攻撃参加を見せているんですか?

塩谷 基本的に左サイドですけど、前にはカイオがいて、彼が攻撃的なので、攻撃参加はなるべく抑えています。カイオの守備を軽減することに重きを置いているんです。カイオにも「攻撃のことだけ考えていればいいよ。守備のときはどっちか(のコース)を切ってくれればいい。そうしたら後はオレが守るから」って話しているんです。

ツジトモ Jリーグのファンからすれば、その左サイドの縦の関係は、かなり胸が熱くなりますね。

塩谷 実際、僕らも楽しんでますね(笑)。カイオは日本語ができるので、試合中にも日本語で「裏、裏」って言って走るんですよ。だから僕も、蹴るときに裏を狙ってパスを出したりしている。相手選手には絶対、言葉が分からないですからね。





椿と塩谷選手の共通点

——塩谷選手は『ジャイキリ』を全巻読んでいるとのことですが、作品に惹かれたポイントはありますか?

ツジトモ 急に対談のテーマを戻しましたね!

塩谷 漫画についても話しましょうよ(笑)。『ジャイキリ』を読んでいて面白いところは、やっぱり視点ですよね。まずは監督視点で描かれているところに惹かれました。

ツジトモ 監督だと、今までは誰に影響を受けましたか?

塩谷 (サンフレッチェ広島時代の)森保(一)さんもそうですけど、やっぱり自分がプロになったとき(水戸ホーリーホック時代)の柱谷(哲二)さんですかね。

ツジトモ それはどういったところが?

塩谷 人間なので「合う合わない」という相性もあると思うんですけど、僕はそこが合ったんですよね。言葉もそうですけど、一番はメンタル的なところですかね。柱谷さんにはプロのサッカー選手に育ててもらいました。




プロ入りした頃の塩谷選手(写真右)。国士館大時代に柱谷氏に見出された



——他にはどんなところが好きなのでしょうか。

塩谷 とにもかくにも、椿(大介)を応援したくなるんですよねぇ(笑)。

ツジトモ 現役の選手はみんな、そう言ってくれるんですよね。どこか自分の成長に重ねるところがあるみたいで。

塩谷 自分もまさにそうでした。でも、個人的に好きなのは王子(ジーノ)なんですよ。

ツジトモ 嬉しいことに、椿に関しては心境が分かるって言ってくれて、ジーノに関してはああいう風にプレーしたいと言ってくれる選手が多いんですよね。

塩谷 椿のプレースタイルは自分と全然違いますけど、その成長過程にはどこか自分を重ねるところがあるんですよね。うまくいかない中で、もがきながらも、だんだん成長していく。これ、僕も思うんですけど、プロになる選手ってギュンと伸びる瞬間ってあると思うんですよね。『ジャイキリ』ではそういうところが椿を通して描かれてる。その伸びというのは育成年代だけのことじゃない。プロになってから一気に伸びる選手もいる……僕みたいに(笑)。あと、伸びているときって一番楽しい。




椿は『ジャイキリ』のなかで最も成長を感じさせる選手だ



ツジトモ きっと、そうですよね。僕も漫画家になって連載1~2年目でいろいろなことが分かった。例えば、スポーツを題材にした漫画には『SLAM DUNK』という名作がありますよね。僕も高校生くらいのときに読んでいて、いつか自分も漫画家になって井上雄彦さんに会えたら、「何でああしたんですか?」「何でこうしたんですか?」って聞きたかったし、聞こうと思っていたんです。でも実際、自分がスポーツ漫画を描き始めると、「あれは最初から決めていたんだろうな」とか「これは流れの中でこうなったんだろうな」ということがなんとなく分かるような気がしてきたり……。

塩谷 それはかなり興味深い話ですね。きっと漫画家ならではの心理なのでしょうか。

ツジトモ だから、いざ井上さんにお会いしたときに、聞く必要がなくなるんです。「ですよね」で済んでしまうというか……。今の塩谷選手の話じゃないですけど、それが分かったときが、僕の中でギュンと伸びたときなんじゃないかなって思うんですよね。

塩谷 サッカー選手や漫画家だけでなく、誰しもそういう時期ってあるのかもしれないですね。自分の場合、そうした時期には、過信ではなく、いい意味での自信が生まれたんです。そこで伸びていって、また壁にぶつかってだいたい成長が止まるんですけどね。それを乗り越えてまた壁にぶつかって、それをまた乗り越えられるか。成長って、その繰り返しが何回あるかだと思うんですよね。

ツジトモ 僕も毎週締め切りがあるので、その連続です(苦笑)。





クラブワールドカップで会いましょう!

——塩谷選手は、『ジャイキリ』の中で印象的なシーンはありますか?

塩谷 一番感動したのは、石浜(修)がETUから(ヴァンガード)甲府に移籍する場面ですね。達海猛監督と最後にふたりで話をするシーンがあるじゃないですか。そのシーンを読んで、こんな監督が実際にいたら、自分だったらどう思うんだろうって考えましたよね。監督として話して、その後、サッカー人として話をしようって……あれ、やばかったですよね。

ツジトモ そう言ってもらえるとうれしいなぁ。しかも、石浜もサイドバックですからね。

塩谷 監督が一人の選手のことをあそこまで考えてくれるんだって、漫画なのに思っちゃいました。戦力として手元に残しておきたい。でも、選手としての人生も考えてくれる。

ツジトモ あの話、実は描くまでどうするか決めてなかったんですよ。でも、描き始めていくうちに、達海が石浜に言葉を贈ったり、流れの中で移籍させることにしました。あのエピソードは、選手だけでなく、たとえば転職に悩んでいる人、何かに挑戦しようとしている人からも響いたと言ってもらえることがあったので、うれしかったですね。

塩谷 しかも、石浜が移籍したあとの、ETU対甲府戦もいいですよね。あのときも読んでいて、サッカーっていいなって思っちゃいました(笑)。




達海は甲府からオファーを受けた石浜に、監督、そしてサッカー人として語りかける



甲府に移籍した石浜は打倒ETUに燃える



ツジトモ ちょっと話は変わりますが、この先のことはどう考えているんですか?

塩谷 30歳になった今思うのは、40歳までプレーしていたいってことですね。プロになったばかりの頃は数年やれるかなって思っていたのが、その2年後にはサンフレッチェ広島に移籍して優勝も経験した。その後、3回もリーグ優勝して、アル・アインでもリーグ優勝できたんですから、ホント、運がいいんです。

ツジトモ それは運だけじゃないんでしょうけどね。でも、40歳までプレーしたいという欲が出てきたのはいつからですか?

塩谷 プロになった当初は楽しくプレーして、楽しく生活できればいいという考え方だったんです。この夏に帰国して地元でサッカー教室を開いたときに感じたことなんですけれど、触れ合った子どもたちが自分のことを目標にしていると言ってくれた。そういう声を聞くと、がんばって長くプレーして、高いレベルで活躍して、もっと子どもたちの目標になるような選手になりたいって考えるようになったんですよね。

——今の発言もそうですが、年を重ねるごとに言葉に重みを感じますね。

塩谷 それは本当に、周りに助けられて、ここまで来たからかもしれないですね。振り返れば、いいときもあれば、苦しいときもあった。もちろん、ずっといい状態で登っていければそれに越したことはないんでしょうけど、なかなかうまくはいかないですからね。そうした苦しい経験はやっぱり糧になっているのかもしれない。

ツジトモ 濃い経験を体感できるのも、自分自身がそうしたキャリアを経験してきているからなんでしょう。近い未来のことで言うと?

塩谷 いまはアル・アインとの契約を全うしたいと思っていますけど、一度、海外でのプレーを経験すると、他の国にも行ってみたいと思うようになりました。しかも、日本人選手が所属していないような国でプレーしてみるのも面白いかもしれない。

ツジトモ 冒険したい欲が出てきたのかもしれないですね。

塩谷 言葉が分からないのも、それはそれでいいところもあるかな(笑)。

ツジトモ それはフットボーラーとしての醍醐味かもしれないですね。サッカーは世界中で人気があるので、ボールを蹴る能力があれば、どこの国でもやっていける。アル・アインの試合は、なかなか日本で見られる機会がないですけど、まずは新シーズンも、カイオ選手との縦のコンビネーションに期待してますね。

塩谷 ありがとうございます。あっ、でも、12月のFIFAクラブワールドカップで試合を見られると思いますよ。アル・アインは開催国枠で出場しますから、ツジトモさん、UAEで待ってますよ。

ツジトモ 行きたい! 見たい!

塩谷 来てくださいよ! 本当に待ってますよ! これ社交辞令じゃないですからね(笑)。




家族が待つ広島への帰省前にインタビュー! ありがとうございました!!




塩谷司(しおたに・つかさ)

1988年徳島県生まれ。国士館大学卒業後、11年に水戸ホーリーホックに加入。12年8月にサンフレッチェ広島へ移籍。DFとして活躍し、12、13、15年とリーグ優勝を経験。16年リオ五輪代表に選ばれ、グループリーグ3試合に出場した。182cm、78kg
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