GIANT KILLING extra

【ファミリー~Jリーガーと家族 ⑩】 浦和レッズ 梅崎司選手(前編)(2017/01/12)

『GIANT KILLING extra』の大好評インタビューシリーズ、Jリーガーが語る家族の物語《ファミリー》。いつも応援している選手たちの、普段見せない顔に、ぜひ出会ってください。

10人目の登場は、浦和レッズ・梅崎司選手です。

これまでに登場した選手たち

  • 【1人目】 川崎・小林悠選手(前編後編
  • 【2人目】 広島・森﨑和幸選手(前編後編
  • 【3人目】 浦和・柏木陽介選手(前編後編
  • 【4人目】 鹿島・土居聖真選手(前編後編
  • 【5人目】 湘南・菊池大介選手(前編後編
  • 【6人目】 柏・中川寛斗選手(前編後編
  • 【7人目】 川崎・谷口彰悟選手(前編後編
  • 【8人目】 鹿島・永木亮太選手(前編後編
  • 【9人目】 広島・森﨑浩司選手(前編後編



「パパ~~~ッ!」

広げた両腕を目がけて3歳になる娘が飛び込んでくる。梅崎うめさきつかさは、痛む左ひざを少し気にしながら、思い切り小さな体を抱きしめた。決して泣こうと思っていたわけではない。ただ、その目からは自然と涙がこぼれていた。そこが保育園だということは忘れていた。ふっと横を向けば、妻も同じように涙を流していた。

梅崎は前日に行われた試合で、左膝前十字靱帯じんたいを損傷する大ケガを負っていた。左膝を痛めたのは初めてのことだったが、右膝を2度負傷した経験から、復帰までの道程が長く険しいことは分かっていた。また気の遠くなるようなリハビリがはじまる……ただ、明らかに過去の自分とは違っていた。

「チャンスだなって思えたんですよね。過去2回のケガは右足で、今回は左足。前回とは逆の足を鍛えられるなって思えたんです。ケガしたことはショックでしたけど、すぐに自分の頭の中に、プラスの思考が巡ってきた」

保育園に娘を迎えに行ったときに、思わず流した涙の理由を聞けば、「何でですかね」ととぼけてみせたが、それは守るべきものが増えたがゆえの“強さ”なのだろう。そこには、かつてケガをして年甲斐もなく母親に当たってしまった“弱さ”は微塵もなかった。


お母さん、離婚していいよ。家を出よう

長崎県諫早いさはや市に生まれた梅崎は、母・庭子にわこさんの兄、彼にとっては伯父おじに誘われたのがきっかけでサッカーをはじめた。

「伯父がもともとサッカーの指導者だったんです。僕が小学校1年生のとき、伯父の家に遊びに行ったら、『ボールを蹴りに行かないか?』って誘われて。それで近くの学校の子どもたちと一緒にサッカーをしたら、思いっ切り打ちのめされたんです。それが悔しくて、オカンに『サッカーやりたい』って言ったのが最初ですね」

負けて嫌いになるのではなく、うまくなりたいと思う性格は、プロサッカー選手になれたひとつの要因だろう。「逆に火が付いたんでしょうね」と話す梅崎は、長崎FCでプレーするようになると競技にのめり込んでいった。

「小学校3年生のときに、初めて上の学年の試合に出ることができたんです。ところが、対戦相手に気の強い選手が多くて、僕の身体からだが小さかったこともあるんですけど、ひじ打ちされたり、足を踏まれたりして完全に戦意を喪失してしまったんです。それで家に帰ってオカンに、自分の体力がないから相手に競り負けたということを訴えたら、こう言ってくれたんです」

庭子さんは怒るのでも、同情するのでもなく、梅崎にこう言葉を掛けたという。

「だったら体力で勝負できるように走ろう! お母さんも一緒に走るから!」

それから練習のない日には、母親と2人で家の周りのたんぼ道を走るのが日課になった。

「いつもオカンと一緒に走っていましたね。結構な期間、付き合ってくれましたよ。だから、うまくいかないときには、まず身体を動かす。くよくよ考えずにまずは走ったり、練習する。それが今も僕の原点ですね」


なかなか思うように出場機会を得られずにいた2016年シーズン、ホームゲームの後に練習場へと戻ると、深夜にもかかわらず一人走っていたのも、まさに原点に立ち返ろうとする彼なりの行動だったのだろう。

「子どものころは、周りの同級生よりも身体が小さかったこともあって、父親には『お前は小さいからすぐにつぶれる』って言われて、サッカーすることをずっと反対されていたんです。でもオカンは、僕がサッカーしているところを初めて見たとき、すごく大きく見えたって言ってくれたんです。オカンは僕のことをずっと応援してくれていた」

母親の支えがあったからこそ、梅崎は身体的なハンデにめげることなくサッカーを続けることができた。だから、小学校の卒業文集にも「将来はプロサッカー選手になる」とつづった。ただ、そこには、おそらく他の子どもにはない言葉が添えられていた。

「それで、お母さんに家を買ってあげたい」

もうひとつ、梅崎には母親を慕う理由があった。言葉を濁すことなく、真っ直ぐにこちらを見つめ、すべてを話してくれた。

「両親がうまくいっていなかったんですよね。夜、父親が怒鳴っている声が聞こえてきて、僕は怖くて布団にくるまっていたことを覚えています。中学生になってからも両親の関係は変わらず、僕はずっとオカンの味方だった。オカンもつらそうだったけど、4つ下の弟もいるし、今の生活を続けていくには、我慢するしかないって思っているんだろうなって、子どもながらに感じていた。でも……僕ももう我慢の限界だったんですよね」

だから中学3年生になった梅崎は、庭子さんに言った。

「お母さん、離婚していいよ。家を出よう」 (前編了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹

梅崎司(うめさき・つかさ)

1987年2月23日、長崎県生まれ。MF。大分トリニータU-18から2005年にトップチーム昇格。2008年に浦和レッズへと移籍した。2009年に右膝前十字靱帯、翌年にも右膝半月板を損傷するも復活を遂げて活躍。2016年8月31日のヴィッセル神戸戦で左膝前十字靱帯を損傷し、現在はリハビリに励んでいる。



梅崎司選手のインタビュー後編は、
ただいま発売中の「モーニング」7号で読めます!
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