GIANT KILLING extra

【ファミリー~Jリーガーと家族 ④】 鹿島アントラーズ 土居聖真選手(後編)(2016/10/13)

『GIANT KILLING extra』の新しいインタビューシリーズが始まりました。

Jリーガーが語る、家族の物語《ファミリー》。いつも応援している選手たちの、普段見せない顔に、ぜひ出会ってください。

川崎・小林悠選手(前編後編)、広島・森﨑和幸選手(前編後編)、浦和・柏木陽介選手(前編後編)に続く四人目の登場は、鹿島アントラーズ・土居聖真選手です。前編はこちら



鹿島アントラーズのジュニアユースでプレーするため、生まれ育った山形を離れ、母親と二人で鹿嶋での生活をスタートさせた土居どい聖真しょうまは、いきなり挫折を味わう。東北では「王様」とすら自負していた矜持は、広い世界に飛び込むと、ズタズタに切り裂かれた。

「子どものころは、身体が小さくて、体格差のある選手との対戦は苦手というより、むしろ嫌でした。だから、小学生のころは、身体の大きなDFとぶつかると、すぐに泣いていましたね(笑)。でも、その欠点はスピードとテクニックでごまかしていたというか、嘘で取り繕っていたんです。それが鹿島のジュニアユースに入ると、小学生までは狭かったコートのサイズが、いきなり広くなって全然走れない……俊敏性や技術はあっても、中学生のときの自分には全く体力がなくて、嘘が通用しなくなった。特に素走りの練習は、いつも後ろから数えて、1番目とか2番目だったと思います。それが苦痛で、『サッカーってこんなキツイものじゃない。もっと楽しいはずだ』って、家に帰ってからも、お母さんに愚痴しか言ってなかったと思います」

幼いながらに、知らない土地で母親も格闘していることは十分に理解していたつもりだった。 だが、当時の彼にはそれを気遣えるだけの余裕がなかった。

「家から練習場まで、自転車で20分くらい離れていたんです。まだ行きはいいんですよ、下り坂だから。でも、練習を終えた帰りは上り坂になる。ジュニアユースの練習は本当に素走りが多くて、もうヘロヘロなのに、上り坂で(自転車を)漕がなきゃ帰れない。だから、家に着くと疲れ果てて、玄関で倒れちゃう。お母さんは、『ご飯食べてから寝なさい!』『シャワー浴びなさい!』って言うんですけど、その声すらほとんど聞こえないくらいでした」

それでも持ち前の負けん気でハードな練習に食らいついていくと、次第に体力も養われていった。テクニックやアジリティはもともと高かったため、中学2年生になるころには試合にも出られるようになった。鹿嶋での生活にも慣れ、友達もできた。ただ、そのころには、多くの中学生がそうであるように、土居もまた反抗期を迎えていた。


思ってもない言葉が口を出て母親を傷つけた

「お母さんが困っているときに、手を差し伸べることができるのか? お母さんを手伝ってあげるんだぞ」

山形を出て、鹿島でプレーしたい。12歳にして泣きながら両親に懇願したときに父親と交わした約束は、ずっと心の芯にあった。だから、今も彼はこう話すのだ。

「当時はサッカーのことで精一杯で、洗濯物も皿洗いも、部屋の掃除も、全然してなかったんですよね。それでお母さんには、『手伝うってお父さんと約束したでしょ』って、何度も怒られました(笑)。しかも、かなり反抗期もあったんですよね。いや、自分の中ではなかったつもりなんですけど……周りに、親と一緒にいるなんて『ダセ~』みたいな感じの友達が多くて、外で親とベタベタしているというか、話しているところさえ見られたくなかった時期もありました。しかも、うちのお母さんは、どちらかというとお姉ちゃんみたいな感じなので、例えば友達のこととか、恋愛のこととかにも、ズカズカと踏み込んでくるタイプなんです」

大人になった今ならば、きっと苛立つことも、腹が立つこともない。だが、思春期であり、反抗期でもあった当時の土居は、些細なことで癇癪を起こしてしまった。そして思ってもいない言葉を母・栄美さんに発してしまった。

「何が理由だったかはもう忘れちゃったんですけど、何かがきっかけでお母さんに『バー』ッていろいろと言われたんですよね。それで、ついつい感情的になって『うるせーんだよ。いい加減、気がつけよ! そうやって、いちいち言われるのが嫌なんだよ』って口答えして。それでも怒りが治まらなくて、『オレはお前のことが嫌いなんだよ!』って怒鳴っちゃったんです。言った瞬間に、言い過ぎたなって思ったんですけど、もう取り返しはつかない。お母さんは泣いていなかったと思うけど、逆にオレはボロボロ泣いて。その言葉を言った後は、しばらく沈黙が続いて、その空気に耐えきれず、怒ったまま自分の部屋に戻ったんです」

心は悔恨の思いにかられていた。もちろん、発した言葉は本心ではない。プロのサッカー選手になりたいという夢を支えるため、誰よりも母親が協力してくれていることは身に染みていた。ただただ、反抗期の彼には、愛情と感謝を真っ直ぐに表現することができなかったのだ。

そんな彼を諭してくれたのは父・通孝みちたかさんだった。

「さすがにお母さんも、そのときはお父さんに相談したんでしょうね。すぐにお父さんから電話が掛かってきて怒られました。『反抗期だかなんだか知らないが、オレはそんなこと知ったこっちゃない。やって良いことと悪いことがあるように、言って良いことと悪いことがあるだろう』って。そのこともあって余計に反省しました。お父さんは、いつもお母さんでは手に負えないときに怒ってくれるような人ですね。普段は優しいけど、『ここぞ』というときに怒るのは、いつもお父さん。だから、怒ったときには本当に怖かった」

土居が幼いころから父・通孝さんは仕事が忙しく、「寝るときに帰ってきて顔を合わせるくらいだった」と言うが、いつも見守り、そして、ときには厳しく、土居を導いてくれた。


史上最悪のプレー 父親に酷評され目が覚めた

それはプロになった今も変わらない。素直に親への感謝を示せる年齢になった土居は、どこかうれしそうに話してくれた。

「昨年ケガをして、今季も開幕前にケガをしてしまったので、心配だったのか『キャンプは参加できそうなのか?』とか『大丈夫なのか?』って頻繁に連絡をくれたんです。でも、基本的にあの人(父親)は仕事で忙しいから、メールしかしてこないんです。そのメールもひと言、ふた言。それがあの日だけは、そこそこ長文のメールを送ってきたんです」

土居が指す“あの日”とは、3月23日のナビスコカップ(現・ルヴァンカップ)のヴァンフォーレ甲府戦だ。チームは1-2で敗れただけでなく、その試合で今シーズン初先発を飾った土居は、自身のプレーも「かなり出来が悪かった」と話す。

「『(子どものころも含め)オレが見てきたお前の試合の中で、史上最悪のプレーだった』ってメールに書かれていたんです。それは自分自身も感じていたことでもありました。ケガが治ったばかりで、また負傷したら嫌だなとか、リハビリ生活に戻りたくないなって思っていたところがどこかにあって、ちょっとビビってプレーしていたんですよね。そういう思いが頭の片隅にあって、球際で強く行けなかったり、仕掛けられるところでパスを選択していたりとか、どこか全力でプレーできていなかったかもしれない。お父さんは、他の人と違って、オレのプレーしか見ていないから、きっとそういうのが分かったんでしょうね。メールの内容が、図星すぎて、どれだけオレのこと見ているんだよって思いましたもん(笑)」

父・通孝さんは、土居が子どものころから、サッカーに関しては、ほとんど何も言わなかったという。仕事が忙しい合間を縫って試合を見に来てくれたときも、笑いながら「あそこはシュートを打てたんじゃないの?」と、明るくけしかけてくるくらいだった。その父親に初めてとも言えるほど、プレーを酷評された。これで土居の目が覚めないわけはなかった。

「大人になると、そこまで怒ってくれる人っていないじゃないですか。特にプロの世界はなおさら。例えば、腐ったりしても、誰かが助けてくれるわけじゃない。そこから這い上がれるかどうかは自分次第ですからね。でも、親だけは自分のことを見ていてくれる。特にお父さんの言葉はずしーんと来ますよね」

それからだった。土居のプレーが変わったのは……。今季リーグ戦初先発となった4月10日のサンフレッチェ広島戦で、今季初ゴールをマークすると、続く湘南ベルマーレ戦でも連続得点を記録する。これで自信を深めた土居は、1stステージ終盤に得点を量産。1stステージ優勝を決めた6月25日のアビスパ福岡戦でも貴重な得点を挙げてチームに歓喜をもたらした。

「今はね、個人としてはサッカーが超楽しい。最近は、何でもできるんじゃないかって思うくらい。試合を重ねて疲れはありますけど、コンディション的にはキレてるなって実感できています」

山形を離れ、慣れない土地でともに暮らしてくれた母親、遠くから見守ってきてくれた父親には、言葉では言い尽くせないほどの感謝がある。

「プロになって、初任給が出たときに、何かプレゼントしようと思って、『何か欲しいものない?』とか『冷蔵庫とか洗濯機、新しくする?』って聞いたんですけど、『いらない』って言われました。二人とも『自分のために使いなさい』って言うんです。親孝行したくても、させてくれないんですよね。

もちろん毎年ではないですけど、誕生日とか、父の日、母の日にはプレゼントを贈ったりはしています。でも、最近は『何か欲しいものある?』って聞くと、二人とも揃って『聖真のゴール』って言うんです」

家族の思いは同じだ。土居が小学校を卒業してから、3人が揃って生活する機会はない。今はそれぞれ離れて暮らしている。ただ、土居がゴールを決めたとき、家族の思いはひとつになる。その瞬間のため、彼は今日もゴールへと向かう。 (了)


取材・文=原田大輔(SCエディトリアル)
写真=佐野美樹

土居聖真(どい・しょうま)

1992年5月21日、山形県生まれ。MF。鹿島アントラーズジュニアユースのセレクションに合格し、12歳にして山形から鹿嶋へ移住。ユースを経て2011年にトップチームに昇格する。プロ3年目の2013年に出場機会を得ると、2014年には34試合8得点を記録し、主力へと成長。昨季はシーズン終盤にケガをしたが、復帰した今季も突破力を活かして、多くの得点に絡んでいる。



《ファミリー》5人目の登場は、
湘南ベルマーレ・菊池大介選手です。
ただいま発売中の「モーニング」46号で
インタビュー前編が読めます!
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