【『ふつつか者の兄ですが』②巻刊行記念】 日暮キノコインタビュー(2016/03/15)

累計120万部突破の大ヒット作『喰う寝るふたり 住むふたり』日暮キノコ氏が、ただいま月刊「モーニング・ツー」にて好評連載中の最新作『ふつつか者の兄ですが』

最新単行本第②巻の発売を記念して「ダ・ヴィンチ」3月号(KADOKAWA)に掲載された特集記事【瑞々しい心を七色に描き出す! 日暮キノコの世界】関連ニュース)より、『ふつ兄』誕生秘話も明かされる貴重なインタビュー部分を再録&ウェブ公開いたします!
取材・文=吉田大助


「実の兄との思い出が、いっぱい入ってます」

少女マンガ一筋でやってきた日暮キノコさんが青年誌の門を叩いたのは、デビューして5年ほど経った頃だった。

「恋愛をメインに置いたストーリーを描くことに対して、私の中でずっと照れがあったんです。いろんな挑戦もしたけど、途中からなかなかネームが通らなくなったりもして……。私自身、もともと青年マンガも好きで読んでいたし、青年誌のほうが自由度は高いという印象を持っていました。“青年誌で描くならこれだ!”というネームを作って、5年ぶりに持ち込みをしてみようと思いました」

6誌の編集部を回ったそうだ。もしやその時のドキドキ感は、4年間の引きこもり生活をやめて部屋の扉を開けた『ふつつか者の兄ですが』のお兄ちゃんの心境に似ている?

「そうかもしれないですね。特に1誌目に見せに行く時の緊張感は、ヤバかったです。でも、なんとかなるだろうという自信はあったんですよ。少女マンガの世界ではこれまで出せていなかったけれど、自分が持っているもの、きっとこれは面白いはずだと思えるものが幾つかあったんです。例えば、女子側の性欲は、少女マンガでは基本的にタブーです。実際、女子側の悶々とした気持ちを描いたネームを持っていったら“これはNGです”と言われました。でも、“青年誌であればきっと歓迎されるであろう!”と(笑)」

少女マンガのフィールドでは描けない「リアル」は、青年誌ではたちまち受け入れられた。持ち込んだネームをほぼそのままの形で原稿化した短編『ふれあい教室』(「月刊!スピリッツ」2011年6月号掲載。『なないろ胞子』収録)で、青年誌デビュー。怒濤の快進撃が始まる。

交際10年、同棲8年のカップルの日常を“男女両方の目線”から描いた『喰う寝るふたり 住むふたり』(「月刊コミックゼノン」連載。全5巻)で、青年誌初連載。『モンクロチョウ』(「ヤングマガジン」連載。全3巻)では高2男子の痛々しすぎる青春=性春物語を描き、さらなる新境地を開拓した。2作を読めば、確信できる。「女心」がリアルなのはもちろん、「男心」を描くのがうまい!

「そう言っていただけるのは嬉しいです。男の子主人公に関しては、描くのが楽しいなっていうだけで、リアルだとかこれが自分の武器になるとは思っていなかったんです。ラッキーです(笑)」

そして2015年春、青年誌月刊「モーニング・ツー」で開始した新連載が、『ふつつか者の兄ですが』だ。

「家族モノをいつか描きたいという思いは、以前からぼんやりとありました。それとは別に、自分の兄をモデルにしたマンガを描いてみたいと思っていて。ある時ふっと、そうか、兄と私の関係をモデルにした兄妹を真ん中に置いて描けば、家族モノにもなるし兄のことも描けるじゃんとひらめいたんです」


「このマンガはコメディなんです!」

日暮さんが実の兄について語る言葉は、『ふつつか者の兄ですが』という作品の魅力&特別さをダイレクトに伝えてくれる。

「(『ふつつか者の兄ですが』の主人公の)保と同じで、うちの兄も引きこもりだった時期があるんです。今は妹のサイン会に来るぐらい元気なんですけど(笑)、私が中学高校ぐらいかな? 自分の部屋に引きこもっている時期が何年かあって。そんな兄が急に部屋から出てきて社会復帰しますってなった時に、違和感を抱いたんです。“私が覚えている兄と違う!”と。例えば、兄がバイトを始めて家族以外の人と交流するようになってから、外であった話をするようになったんですけど、“あんだけ人と交流することを避けてたわりに、人が大好きじゃん!”と。しかも話を聞いていると“それってパシられてるだけなんじゃないの?”とか、好きになった女の子の話とかを笑顔で話してるんだけど、“その子、大丈夫?”とか、人を疑うってことを知らなくて、妙にピュアなんです」

保のピュアさ、お茶目さは、現実に裏打ちされたものだった!

「そうなんです(笑)。あとで分かったのは、兄は引きこもりをしている間、世間と離れてしまったがゆえに、マンガの中では“浄化された”って表現をしてるんですけど、ピュアになって復活した感じなんですよね。私はその時高校生ぐらいなので、恋愛沙汰や友達同士のいざこざにも軽く巻き込まれ、バイト先では年上の人との交流もあったから、そこそこ社会に踏み出していた。汚い人間関係も多少は見てるっていう立ち位置だったから、兄があまりにピュアすぎて心配だったんですよ。そういう思い出が、このマンガの中にはいっぱい入っているんです」

第1話(※こちらでウェブ公開中! 第3話まで読めます!)では、転居と同時に兄の存在を同級生やバイト先で隠し、新たなキャラを築くことに成功していた高校2年生の志乃が、兄の復帰宣言に立ち会うシーンが描かれている。

「私自身は高校の頃、兄の存在を隠していたわけではないです(笑)。兄が部屋から出てきた瞬間に居合わせたということもなくて、気付いたら出ていたんですけど」

でも、もしも志乃と同じ立場だったら、どんなことを考える? 想像を巡らせた結果たどり着いたのが、第1話最終ページの志乃のモノローグだ。

「あたしの青春が超ピンチ!!」

そんな妹の思いなど知らず、兄の保はてへへっと鼻をかき、頬を赤らめて未来に思いを来している。このギャップ感が、面白い! 実はこの作品、始まりこそクールでビターな薫りは漂うが、「引きこもりの兄と、兄の存在を隠す妹」というシチュエーション、「年上なのにピュアすぎる兄と、精神年齢が上の妹」という逆転関係を採用した、コメディなのだ。

「私の作品を読んできてくださった方は『モンクロチョウ』のインパクトが強いみたいで、“これからどんどんひどいことが起こるんだろう?”と(苦笑)。違うんです、このマンガはコメディなんです! もちろん、人間の成長過程で起きる普通のこととして、つらいことや苦しいことも起きるしそこは描きますけど、『ベルセルク』の“蝕”みたいなことはこのマンガでは起こりません!(笑)」
こちらがその第1話最終ページ。



「“恋愛に家族がどう絡んでくるか?”を描きたい」

以前、兄側のキャラクターを単独主人公にした短編を描こうとしたことがあるそうだ。プロットまでは完成させたが、編集者からのアドバイスもあり、実際に描くことはなかった。

「兄側の目線ばかりになってしまうと、読者の方は共感もしにくいだろうし、私自身もそこまで深く描けなかったんですね。普通の生活を送っている女子高生の目線を入れて、“妹から見た兄”という描き方をすることで、兄のおかしさを客観的に表現することができるしツッコミもできるようになる。それに、二人を主人公にしたからこそ、兄と妹がお互いリンクしながら成長していく姿を描けると思ったんです」

働いてお金をもらうこと、友達を得ること、恋をすること。兄・保に関しては、「世界が少しずつ、木の年輪のように広がっていく感じを描きたいと思っています。だいぶ突飛な感じですけど(笑)」。その様子を見守る妹・志乃の変化も、この物語の見どころだ。

「志乃側の恋愛は、少女マンガの時ですら描いていなかったような部分が出てきている感じはします。照れくささは相変わらずあるんですけど(笑)。ただ、恋愛そのものを描きたいというよりは、“恋愛に家族がどう絡んでくるか?”ってことを描きたいんです」

そもそもこの作品のベースにある発想は、「家族モノを描きたい」だった。

「兄妹の話から始まっていますけど、ゆくゆくは家族の話にしていきたいんです。兄妹と一緒に暮らしているお父さんのことももっと描きたいし、別居中のお母さんものちのち出てくる予定です。私自身、実家を出て親と離れて暮らしてみた時に、やっと親の大事さが分かるようになってきたんですね。兄に関してもそうで、家族の中での、兄妹の立ち位置の面白さってあるなと思うんですよ。家族の中で一番年齢が近いので、共感し合えるところも多いし、仲間意識のようなものがある。“うちの親ってさ”って話ができる相手がいて良かったなあと、私自身はすごく思っているんです」

家族とは、弱点だ。しんどいものだ。でも、家族とは、楽しいものでもある。自分の実感に根付いたリアリティを、日暮さんはマンガに描く。そうすることで、読者の心をあっためる。

「家族って、替えがきかないので、こじれたりすると、やっかいなものですよね。じゃあどうするかという時に、親は年齢的に考えて、人格が固まり過ぎて変わらないと思うんです。でも子どもだったら、特に10代から20代って、自分を変えられると思うんですね。そのへんのことを、志乃を通して描けるんじゃないかなと思っています。自分がどう変わっていくかで、家族の見方が変わる。そうすることで、家族のかたちが変わる」
月刊「モーニング・ツー」4月号掲載の第12話扉カット。



連載は絶好調進展中で、2月23日にはコミックス第2巻が刊行される。楽しみだ。(※記事初出の2016年2月5日時点)

「1巻までのお話は、ゆっくり丁寧に描いた感覚があります。4年間のブランクがある兄妹の絆を描いていくうえで、まずはちゃんと二人が交流を再開する様子を描いておかなきゃと思ったんです。読者の方にとってはスロースタートに感じるかもしれないけど、2巻はだいぶ読み味が違うんじゃないかと思うんですね。今は、早く2巻を読んでもらいたいって気持ちでいっぱいです。3巻から先の展開は……もっとすごいです!(笑)」

(初出:KADOKAWA「ダ・ヴィンチ」2016年3月号)

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プロフィール

日暮キノコ
日暮キノコ(ひぐらし・きのこ)
神奈川県出身。第29回別冊フレンド新人まんが大賞の佳作を受賞し、2005年にデビュー。以後、少女誌を中心に活躍。2012年に開始した青年誌での初連載作『喰う寝るふたり 住むふたり』が大きな話題を集め、同作は2014年にテレビドラマ化もされた。
著作に、『喰う寝るふたり 住むふたり』外部リンク全5巻、『モンクロチョウ』外部リンク全3巻、『なないろ胞子 日暮キノコ短篇集』外部リンク『ふつつか者の兄ですが』全6巻など。
自他ともに認めるラーメン(特に二郎)好き。

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  • ふつつか者の兄ですが (6)

    モーニング・ツー

    ふつつか者の兄ですが (6)

    日暮キノコ

    発売日:2017/07/21
    定価:本体560円(税別)

  • ふつつか者の兄ですが (5)

    モーニング・ツー

    ふつつか者の兄ですが (5)

    日暮キノコ

    発売日:2017/04/21
    定価:本体560円(税別)

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