【30周年特別対談】 『クッキングパパ』うえやまとち氏×『オレンジページ』杉森一広編集長 共同宣言「父の日はオムライス記念日!」(2015/06/18)

1985年、偶然時を同じくして、料理をテーマにしたマンガと雑誌が生まれた。
『クッキングパパ』『オレンジページ』
どちらも時代の変遷に沿いながら成長を続けて30年、初めて手を組み、父の日に革命を起こす!

「父の日にはオムライスを」。

このメッセージに込められた意味、考え、哲学を、
『クッキングパパ』作者のうえやまとち氏と、『オレンジページ』杉森一広編集長があますことなく語ってくれた。

取材・文=伊藤亮
撮影=フジモリタイシ
取材協力=ホテルオークラ福岡




誕生から30年を迎えた『クッキングパパ』と『オレンジページ』

——『クッキングパパ』の連載開始は1985年。そして『オレンジページ』も同年に創刊されました。つまり今年で30周年を迎える“同級生”ということになります。

杉森一広編集長(以下、杉森) 同じ30周年といいましても『オレンジページ』は月2回発行です。『クッキングパパ』は週刊連載ですから単純に通算回数は倍違いますけどね(笑)。『オレンジページ』は“毎日の暮らしが楽しくなるように”というメッセージを贈る雑誌で、創刊された1985年当時は珍しい存在でした。「毎日の食事を作ることがこんなに楽しく素敵なことだったんだ」、その反応をずっと追い続けてきたら30年経っていました。今日からでもできる楽しいこと、半歩先のことをしてみましょう、という投げかけはずっと変わっていません。実用性に寄って憧れだけで終わらないという点では『クッキングパパ』にも通じますよね。

うえやまとち(以下、うえやま) 僕の方は一話完結のハウツー形式という考えがあって、読者が読んで「やってみよう」と思ってくれる作品を作ろうと。描き手が伝えたことを読者が実際に試してくれて、「あ、美味しかった」と感じてくれる。そのキャッチボールがおもしろいじゃないですか。食材が限定されてしまうと読者に求めさせてしまうことになります。だから最初は、「家の冷蔵庫にあるものですぐに作れるからやってみない?」というスタンスを重視しました。そして単行本のメッセージでは毎巻「料理って楽しんですよー!!」って書いてるんですよ。

杉森 『オレンジページ』も読むだけじゃなく、作って、食べて、美味しかったというところを目指しています。

——現在は男性が料理することが普及しているといいますか、一つの趣味であったり、ともすればおしゃれに見られることもあります。30年前とはだいぶ認識が変わったのではないでしょうか。


うえやま 僕が連載を始めた頃は、男性が料理をするという状況はありませんでした。だから最初に担当編集と打ち合わせをした時も、奥さんが病気であるとか、主人公の荒岩一味が単身赴任であるといった設定にした方が読者は簡単に納得してくれるのではないかと。でも、僕は単純に料理好きなお父さんが描きたかった。だから単行本51巻(第504話「ビールで乾杯!!」)までは一味が料理を作っていたことが秘密だったんですね。

杉森 私も連載開始からずっと読んでいましたが、秘密にしている期間をかなり引っ張りましたよね(笑)

うえやま そうですね。公表したのはちょうど連載10年のタイミングでした。みんな知っているから、これ以上隠していても意味がないなと。連載10年、500回と続けて、そろそろ終わりかな、と思っていたこともあったんですけどね。

杉森 でもそのタイミングで『クッキングパパ』に時代が追いついてきたんでしょうね。『オレンジページ』も創刊当初は読者が女性率100%でした。でも、2000年を越えたあたりから男性が作る料理のイメージが変わってきた観があります。手の込んだものを1日掛かりで作るのが男性料理、という感じになって、それがだんだん奥さんや彼女に出して喜ばれる料理にシフトしてきました。今や男性読者も少なからずいます。

うえやま 自分としてはかっこいい父親像を提案しているだけで、時代の先をいっているような意識はまったくありませんでした。だから、提案に対して「いいんじゃない?」という返事をもらったという感覚ですね。

杉森 なるほど。『オレンジページ』を見ていても、創刊当初は食卓のメニューも和・洋・中で済んでいました。それが今やエスニックが出てきて、スパゲティもパスタとして複数の種類が出るようになった。家庭料理の幅が広がったというのも変化した点ですよね。


うえやま そのおかげで、僕は10年、500回で終わらず連載を30年、1300回以上続けてこられたわけですけどね。以前はカレー、ケーキ、それだけでメニューが完結していましたけど……。

杉森 いまやカレーだけでもいろんな種類のカレーがある。

うえやま そうです。さらにエスニック風味のカレーといってもさらに細分化されます。描き手としては、その細分化されたものを一つ一つ取り上げていって、気付けば「あ、連載1000回を超えちゃった」と。

杉森 以前は生きていくため、子育てのために栄養を摂るというのが家庭料理のイメージでしたが、それが今や料理からさらに盛り付けやシチュエーションまで、料理するスタイルを楽しむイメージになりつつありますね。



大胆提案! 「父の日はオムライス」

——「料理を楽しむ」というテーマ一つとっても時代の変遷がうかがえますね。そしてその時代を30年、ともに歩んできた両者がタッグを組んだ今回、大胆な提案が。「父の日はオムライス」! 素朴な疑問なのですが、なぜオムライスと?

うえやま いやいや、父の日といったらオムライスでしょう(笑)

杉森 ええ。もはやそうとしか思えませんね(笑)

——ものすごく意見が合致してますね(笑)

杉森 (笑)。具体的に説明するとですね、『オレンジページ』で父の日に関するアンケートをとったところ、「パパが好きな洋食メニューを教えてください」という項目で、ハンバーグ、シチュー、その次がオムライスだったんです。肉が主役の1位、2位はわかるんですが、意外な人気ですよね。

うえやま 「オムライス」って食べるとニッコリするんですよ。男性も女性も、ニッコリしてしまう。ムッとはしないし(笑)、気合を入れて食べるものではないですよね。つい嬉しくなっちゃうメニュー。

杉森 親子がそろって好きなメニューだから、家族で美味しく食べられますよね。それに、オムライスって、卵、ケチャップ、ご飯というベーシックな食材で簡単にできるのに、そのわりには卵で包むとひと手間がパパのために作っている特別な感じもして、じつは父の日に最適なんじゃないかと。「モーニング」編集部と相談しているうちにそんなアイディアが出たんですよ。

うえやま そういった意味で、僕も父の日のメニューにぴったりだと思ったんだよね。それに何より、ケチャップでメッセージを書ける点が素晴らしい。

杉森 そうです。このケチャップでメッセージが書けるというのが大切で。どんなに小さな子どもでも参加できる余地があるわけです。そう考えるとオムライスって、すべてを満たしてるんですよ。

——聞けば聞くほど、父の日にはオムライスがふさわしい気がしてきます(笑)。そして今回このプロジェクトのために、うえやま氏がオリジナル「父の日オムライス」を考案されたんですよね。
「モーニング」2015年29号掲載
『クッキングパパ』第1329話「父の日はコロコロオムライスで!!」より。


うえやま オムライスはこれまでに「クッキングパパ」で何度も出てきて、アイデアは出尽くしていたんですが。ここはひとつ、ミニオムライスを包んでしまおうと。

杉森 ミニオムライスを作る際に卵の黄身と白身を分けて、スフレ生地を流し込むところとか、けっこう細かな技が散りばめられているんですよね。オムレツもナイフを入れるとトロッとなるもので。日本人は卵が好きだから、こういうのはたまりませんよ(笑)

うえやま オムレツの中と外で食感を変えようと思って、スフレのミニオムライスはホワッと、オムレツはトロッとさせました。ミニオムライス=子ども、オムレツ=父親というイメージで、父親が子どもたちを包み込むみたいなイメージです。

杉森 すごい。料理一品一品に意味合いを込めるところが、日本のおせち料理に通じますね。味だけでなくて、料理にまつわるストーリーがついてくるというのがすごく魅力的です。実際に会話の糸口になるので、オムライスを囲んでの会話も広がりますし。

——素晴らしいですね。さらに父の日=オムライスという構図が固まってきました(笑)。逆に、これまでなかったのが不思議なくらいです。

杉森 じつは『オレンジページ』で父の日企画をやったことはありませんでした。母の日特集はあるんですけど、今回、はじめて企画を組みます。

うえやま 父の日は母の日ほどの認知度がなかったから。でも、だんだん広まっていますよね。あと、オムライスって意外と洋食屋で頼まないメニューだったりしませんか? 少なくとも僕の場合は作る方が多くて。子どもたちにもよく作ります。

杉森 アンケートを見ていても外食より手作りという反応の方が大きいんです。月に1度はオムライスを作るという家庭が40%を超えているという数字が出ています。

うえやま 家で作るときは、ケチャップで好きなようにメッセージが書けますしね。

——ちなみにメッセージはどんなことが書いてあると嬉しいですか?

杉森 ベタですけど「ありがとう」が鉄板じゃないですかね。

うえやま 意味不明なことを書くのも面白いかもしれないです。そのメッセージを解き明かすという…(笑)。表面に「中を見ろ」と書いてあって、中を開いたら「横を見ろ」とかね(笑)



これだけある! オムライスの魅力と潜在能力

——今お話に出てきたように、一口に「オムライス」といっても、レパートリーは豊富ですよね。そこがまた楽しみを増幅させます。

うえやま 『クッキングパパ』で一度、オムレツでナポリタンを包む「オムリタン」を描きましたが(「モーニング」2015年18号掲載 第1320話)、発案したのは娘だったんですよね。焼きそばを卵で包むのは定番だけど、ナポリタンならどうだろうと。ただ卵で包むだけではおもしろくないので、スフレにして、オムレツで包む際にもナポリタンをちょっとはみ出させようと。しかもオムレツの裏面側は焼かないで卵をとろとろのままにすると、ナポリタンとよくからむ。かなり試行錯誤しましたが、最後はバシッときまって「やったね!」という感じでした。


杉森 オムライスもトロトロ系、ガッツリ系、いろいろあります。アレンジもできるし、中身がどんな味でもいいわけです。

うえやま チキンライスをチャーハンにしたり、ケチャップじゃなくてデミグラスソースにしたり。

杉森 『クッキングパパ』2巻(第24話)で出てきましたが、ご飯をドライカレーにしてカレー風味にしたり。ソースをダシを使ったものにしたり、たけのこご飯にすれば和風にもアレンジできます。バリエーションがつけやすいので、毎年違うオムライスをお父さんに提供できるわけです。

うえやま もちろん中華風にもできる。違う名前になっちゃうけど。

杉森 それは……「包み天津丼」とでも言っておきましょうか(笑)

うえやま それと、卵の硬さや包み方でも変化を加えられます。

杉森 先生、『オレンジページ』では美味しそうに包むテクニックを紹介するケースが多いんですよ。卵で包む時に技術を要する。そのちょっとした難しさが、ごちそう感、特別感を生んでいるともいえますね。


うえやま なるほど。でもオムレツの端は、うまくいかなければ箸で調整すればなんとかなるんですよね。

杉森 そうです。家庭で作るなら器に移してからキッチンペーパーを使って手で整えればいいんです。そうやって手間ひまかけて作ってくれたというのが伝わるだけで、意味深いですよね。

——味付けだけでなく、できあがりにも個性が出ると。

杉森 個性といえば、ちなみに先生は、オムライスはどこから食べられますか?

うえやま 僕は右端から食べますかね。

杉森 じつはオムライスを「どこから食べるか」という“オムライス問題”というのがあります(笑)。オムライスって端から食べていくと、最初は卵の割合が多いのに、真ん中に向かって徐々にご飯の割合が多くなっていってしまうんです。

うえやま そこは、美味しい副菜をもってして乗り越えるしかないですね。

杉森 そうなんです。副菜も大事なので、今回の企画に合わせてオムライスにぴったりな副菜メニューを考えてご紹介しました(「モーニング」2015年29号)。ちなみに私はオムライスは真ん中から食べ始めるんですけど。

うえやま ご飯多目からスタートするんですね?

杉森 卵温存派です(笑)。このオムライス問題、どこから食べるかだけじゃなく、撮影の際もどこから撮るべきか非常に迷うんですよ。一発勝負ですし、卵の状態も変わるから考えている時間も限られていて……。


うえやま それは『クッキングパパ』でも同じですね。構想を立てて作ってみると違う。何回修正しても思うようにならない場合は、根本から仕切り直してレシピづくりを翌日に持ち越すこともあります。30年連載していますから、同じような料理にならないようにしないといけませんし、実際に作って食べてもらった時に美味しいと思ってもらいたいので、妥協はできない部分ですよね。でも、そうやって研究するのも楽しいものです。

——誌面作り、作品作りに対するこだわりが見えるお話ですが、30年前から『クッキングパパ』『オレンジページ』ともに一貫している“温もり”はいかにして生まれているのでしょう?

杉森 「誰かに食べさせてあげたいメニュー」を提案している点は一貫しています。読者はもちろん、その先の、料理を作って美味しく食べている家族までを考えた誌面作りを心がけています。実際、誌面で紹介したメニューに対して「美味しかった」という反応より「美味しいと言われた」という反応の方が断然多いんです。

うえやま 僕は“ほのぼの”でいこうと。ハードボイルドみたいなものを描いた方が目立つしかっこいい。でも、どうやら自分にはほのぼの系が向いているらしいので、「だったら、日本一のほのぼのになってやる」と。誰も描けないくらいのほのぼのを描こうと20代の後半に心に決めたことを覚えています。

杉森 その心はずっと変わらないでほしいですね。もしいきなりシリアスな話が出てきたらひっくり返っちゃいますよ(笑)

うえやま 「父の日にオムライス」を定着させるためには、来年もまた描かなければいけません。来年の父の日に向けてまたおもしろいオムライスをひとつ、ポンと……ってえらいことを言ってしまった(笑)

杉森 ぜひお願いします(笑)。こちらも負けないようにしなくては。創刊当時では考えられなかったですが、今や男性料理家さんが本誌にも出るようになって変わってきました。これからも料理シーンは変わっていくと思いますが、不変の人気のオムライスを追い続けていきます!

うえやま 6月の第3日曜日の父の日は「オムライス記念日」ということで!


編集部からのお知らせ

今回の【父の日オムライス】特別コラボ企画の詳しい内容は、
ただいま発売中&配信開始の「モーニング」29号&アプリ版「週刊Dモーニング」29号および、「オレンジページ」7/2号にて掲載しています。
こちらもぜひご覧ください!
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プロフィール

うえやまとち
うえやまとち(うえやまとち)
1954年2月22日、福岡県福岡市生まれ。84年、「モーニング」のコミックオープン後期で『クッキングパパ』が入賞、すぐに連載開始。たちまち大ヒットに。連載30年以上たった現在も、さらなる面白さと温かい物語を追求する漫画人である。2015年度(第39回)講談社漫画賞特別賞、2015年度福岡市文化賞受賞。
代表作には『クッキングパパ』をはじめ、福岡県浮羽郡の山中を舞台とした『大字・字(おおあざ・あざ)・ばさら駐在所』や、釣り漫画『ぶっ飛び広海(ひろみ)くん』などがある。

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